軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48話(番外編 王妃の思惑)

王の死は、王都に衝撃をもたらした。

しかし、それ以上に大きかったのは、その後に訪れた変化だった。

王妃が実権を完全に掌握してしまった。そうなると、彼女を抑えられる者はいなかった。

最初に手が下されたのは、王の側室たちだった。

彼女たちは王都から遠く離れた領地へと送られ、事実上の幽閉生活を強いられた。

この国では、王の血を引く者すべてに継承権があった。それは、正妃の子であろうと、側室の子であろうと関係はなかった。

だからこそ、王妃にとって、側室の子は必ずや『排除すべき存在』だった。

中でも標的となったのは、ただ一人、男児を持つ側室だった。

彼女は、南の地へと送られた。そこはまさに灼熱の大地だった。

作物もろくに育たない、やせた土地。

そんな、名ばかりの『公爵領』を与えられ、そこを治めるよう命じられた。

しかし、その大地は人が生きるにはあまりにも過酷だった。

側室は元々身体が弱く、そんな過酷な環境に耐えきれず、まもなくして命を落とした。

残されたのは、若き息子だった。

ザクセン公爵家当主、ライナーは、まだ若く、経験も浅かったが、彼は逃げ出さなかった。

贅沢を一切せずに、自ら畑を耕し、民と共に汗を流した。

税を下げ、試行錯誤を繰り返しながら、暑さに強い作物を育てる方法を模索し続けた。

いつしか、その努力は実を結び、領民たちはかつてない活気に溢れた生活を手にした。そうして、自分たちにその変化をもたらしてくれた彼を、心から慕うようになっていた。

一方王都では。

王太子の振る舞いは、日に日に目に余るものとなっていた。

その日もまた、王宮の廊下を歩く彼の隣には、一人の令嬢の姿があった。

伯爵家の令嬢、マリアナだった。

華やかなドレスに身を包み、わざとらしく王太子の腕に手を絡めるその姿は、周囲の視線を集めていた。

いや、集めていたというよりも、見せつけていた、と言った方が正しいのかもしれない。

「あら、エミー様。ごきげんよう」

すれ違いざま、マリアナは足を止め、くすりと笑った。

その声には、あからさまな嘲りが感じられた。

「毎日こんなに朝早くからお勉強だなんて、大変ですわね。さすがは辺境伯令嬢、田舎育ちは真面目でいらっしゃるのね」

くすくす、と取り巻きたちが笑う。

王太子も、それを咎めることはなかった。

むしろ面白そうに眺めているだけだった。

「辺境伯領なんて、何もないのでしょう? そんなところでお育ちになってきっと、寂しかったでしょうに」

追い打ちのように投げかけられる言葉。

しかし、堂々と顔を上げたエミーの表情に、怒りはない。あるのはただ、『面倒くさい』という退屈な感情だけだった。

「そうですね。確かに、華やかなものは少ないかもしれません」

エミーはゆっくりとマリアナの顔を見つめた。

「ですが、その何もない場所があるからこそ、守られているものもございますの」

その場の空気が、わずかに変わった。

「外敵を防ぎ、国を守る者がいるからこそ、王都の平和がある。それでも何もないと仰るのであれば」

エミーはわずかに首を 傾(かし) げた。

「それは少し、お勉強が足りていないのではありませんか?」

そう言って、ほんの少しの笑みを浮かべた。

「なっ!」

マリアナの顔が、みるみる赤くなる。

しかし、その前に口を開いたのは王太子だった。

「おい、言い過ぎだろう。マリアナは悪気があって言ったわけじゃない」

(あら? 悪気だけしか感じなかったわ。明らかに、彼女を庇う言い方ね)

エミーはその様子を見つめ、すっかり慣れてしまった、ため息をついた。

(やはり、この方は、何も見ていない、何も学ばない、ただのお馬鹿さんなのね)

すると、そのやり取りを見ていた王妃が、ゆっくりと近づいて来た。

「まぁ、そんなこと、どうでもよろしくてよ」

どこか愉快そうに微笑んでいる。

「あら、王子にやきもちかしら? 王族ともなれば、女性の一人や二人、側に置くのは当たり前のこと」

その言葉に、周囲の空気が凍りつく。

しかし、王妃は構わず続けた。

「正妃としての立場を守りたいのなら、そうね」

ちらりとエミーに視線を向ける。

「早く、男の子を産むことね。このわたくしのように」

あまりにも当然のように言い放たれた言葉。

そこには、配慮のかけらもなく、遠慮すら感じられない。

それは、ただの事実として突きつけているだけだった。

エミーは一瞬だけ目を閉じたが、すぐに顔を上げた。

「ご忠告、ありがとうございます。王妃様。ですがまだ、わたくしたちは婚約中の身ですので」

(あー気持ちが悪い。それにこんな男にやきもち? 心外もいいところだわ)

心の中でそう思いながら、表には一切出さず、丁寧に一礼するその姿は、どこまでも優雅で、それでいて誰にも屈しない強さを秘めていた。

その場にいた誰もが、気づかぬうちに息を呑む。

誰が、本当に気高いのか。

その答えは、あまりにもわかりきっていた。