作品タイトル不明
47話(番外編 エミーの決断)
幸せな日々から、八年の歳月が流れた。
この時、エリックとアンジュの娘、エミーは十八歳になっていた。幼い頃からいつも変わらず、八歳上の兄アンソニーに見守られながら、彼女は今年、同じ貴族学院を無事卒業した。
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「なんだ、エミー。こんなに早くから今日も来ていたのか」
軽い調子の声に、エミーは本心を隠して笑顔で応じる。
「あ、殿下。おはようございます。はい、本日は外国語の授業もございますので」
「ま、せいぜい俺の分まで頑張って学んでくれ。俺は彼女と少し出てくる」
悪びれる様子もなく言い放つ王太子に、エミーは一礼する。
「はい。いってらっしゃいませ、殿下」
(また違う令嬢を連れて、まあ、よくも飽きずに。まったく、本来、学ぶべきは、どちらでしたかしら)
そう心でぼやきながら、エミーは今日もいつもの王妃教育に励むのだった。
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彼女の父は北の国境を守るマイセン辺境伯家の当主で、名をエリックという。
彼は、王にとって数少ない『信頼の置ける臣下』であった。
北の国境を守り続け、何度となく外敵を防いだその功績は大きく、王は酒の席でもしばしば彼の名を口にした。
しかし、その何気ない一言が、すべての始まりだった。
「そういえばエリック、お前の娘はどうしている」
王の軽い問いに、エリックは誇らしげに答えてしまった。
「はい。貴族学校にて学んでおります。まだ未熟ではありますが、よく励んでおります」
その言葉を、偶然にも耳にした者がいた。
王妃である。
数日後、王妃は独自にエミーの素性を調べさせ、その結果に満足げに微笑んだ。
「成績は首席。礼儀作法も申し分なし……ふふ、ちょうどよいわ」
そして、何の前触れもなく決まってしまった。
王太子の婚約者として、エミーが選ばれてしまった。
もちろん、父、エリックに拒否権などない。
王命という名の圧力の前では、辺境伯といえどもどうすることもできなかった。
王は表向きこそ『すまぬな』と口にしたが、その実、王妃の決定に逆らうことはできなかった。
当時の王は、側室問題で王妃に強く出られぬ立場にあったからだ。
(……申し訳ない、エミー)
父の辛い胸中を誰よりも知っていたエミーは気丈にも『お父様心配はいりません。どんな男でもわたくしはわたくし。自分の信念を貫くだけですわ』そう言って己の定めを受け入れた。
そして始まったのが、王妃教育だった。
朝から晩まで続く礼儀作法、歴史、政治、外国語の勉強。
それはまさに、『手本のような王妃』を作るための訓練だった。
王妃は、誰よりも理解していた。
己の息子に、何が足りていないのかを。だからこそ、選ばれたのはエミーだった。
あまりにも優秀で、あまりにも都合のいい存在として。
一方で、肝心の王太子はというと。
『今日は面倒だ。このまま観劇に出かける』
そのたった一言で、すべてを放り出す。
エミーのような才女には見向きもせず、同じ遊び好きの令嬢たちと毎日のように王都の街に繰り出していた。
本来の責任も、王太子としての仕事もすべて他人任せ。
(この王太子ときたら、いつまでそうやって遊び呆けてるつもりかしら)
エミーは内心でため息をつきながらも、決して顔には出さなかった。
それが彼女の矜持であり、教育の成果でもあった。そして何よりも大好きな家族のためと信じてもいた。
しかし、そんな日常はある日、突然崩れる。
王の崩御によって。