軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

78話 小さな命と試練

昔々、フィンディルは、鬼に支配された土地だった。

悪しき鬼達は山を焼き、川を濁し、村々を襲っては人々の暮らしを踏みにじっていた。

誰もが恐れ、祈ることしかできなかった時代――一人の旅人が現れた。旅人は森に棲む動物達に手を差し出し、こう語った。

「力を貸してほしい。共に、この地を取り戻そう」

動物達はその旅人を受け入れ、共に鬼に立ち向かった。

激しい戦いの末、やがて鬼はこの地に封じられ、土地は静けさを取り戻した。人々は、その旅人の勇気と慈愛を忘れぬように、感謝を込めて小さな祠を建てた。

これが、この地に残る伝承であり、今もなお語り継がれている「おとぎ話」である。

「これが、フィンディルに伝わる物語です」

夜が明け、私とアイノウは再度、町長の家に訪れていた。

要件は、この町に昔、被害を加えていた魔物について。

以前訪れた時は、過去のことだとあまり話したがらなかった町長だが、小鬼が実際に現れたと聞くと、顔色を真っ青に染めて話し始めた。

「ふーん。じゃあその旅人が、この町を救った英雄さんなんだね」

「そう聞いておりますが……。何分、子供に聞かせるようなおとぎ話として語り継がれている程度なので、詳しくは……」

アイノウの問いかけに、どこか歯切れ悪く答える町長。

その声音には、自信のなさと、戸惑いのようなものが滲んでいる。

「まさか、また鬼が現れるなんて……第0部隊の皆様には町を守っていただき、感謝してもしきれません」

「皆を守るのは僕達の仕事だから、気にしないでいーよ!」

いつもの調子で笑ってみせるアイノウ。

昨日、私達の前に現れた小鬼は倒した。だが、それ以外にも複数の小鬼が町に入り込んでいたらしい。

もう何人もの住民が被害に遭っていて、ノアとハルトは、その対応に追われている。

「この騒動を解決するためにも、私達は異能の結晶を探しています。何か、それらしいものを見たことはありませんか?」

私の問いかけに対し、町長は今度は、はっきりと首を横に振った。

「いいえ。そんな怪しい品物があれば、すぐにご報告しております」

町長の言葉に、私とアイノウは顔を見合わせて頷いた。

嘘をついているようには見えない。少なくとも、町長の知る限りでは異能の痕跡はないのだろう。

「では、その物語に出てくる旅人ついて、もう少し話を聞かせてください」

その後も、私達は町長からフィンディルのおとぎ話について話を聞いた。

ひと通りの説明を受けると、私達はノア達との待ち合わせ場所である町の広場へ向かう。そこには、既に二人の姿があった。

「アイノウ、リネット。どうでしたか?」

私達の姿を見つけ、早速、進展を尋ねるノア。

その隣にいるハルトは、いつも通りの無表情。小鬼騒動で動き回っていたはずなのに、疲れた様子も見せず、ただ静かにそこにいた。

「おとぎ話の中に、鬼の魔物と町を救った旅人の話が出てきたよ。関連性はまだ分かんないけど。とりあえず、そこらへんを調べていこーかなって感じ」

アイノウは指先で髪をくるりと弄びながら、軽い調子で言う。

ノアは少し考えこんだ後、静かに頷いた。

「では、そちらは引き続き二人にお任せします。俺とハルトは小鬼の動きを観察しつつ、住民の保護を優先します。低級の魔物といえど、彼等には脅威でしょうから」

小鬼は小柄な体躯とすばしっこい動きを武器に、家畜を襲い、農産物を食い荒らし、人間にも危害を加える厄介な存在だ。

鋭い爪で引っかかれたり、牙を剥かれて噛みつかれたりすれば、十分に怪我を負う危険がある。

とはいえ、個体としての力はそれほど高くなく、脆く、倒すのは容易だ。

ノアの言う通り、私達の脅威ではない。――ただし、私達であるならば、の話だ。

最も警戒すべきはその数にある。

小鬼は群れで行動する習性を持ち、繁殖力が高い。ひとたび集団で現れれば、小さな町一つくらいなら簡単に荒らしてしまう。

「……早く、異能の結晶を探し出さなきゃ」

それぞれが任務に向かう中、最後に、静かな広場を見渡す。

来た当初は穏やかで動物や子供達が自由にくつろいでいた広場は、今は閑散としていて、どこか寂しい。

「行くよー、リネット!」

片手を上げて私を呼ぶアイノウ。

私は広場を後にして、急いで彼に追い付いた。

「どこに行くんですか?」

「ゆっくり休憩できるところがいいよねぇ」

「だ、駄目ですよ、アイノウ! こうしている間にも町に被害が出ているんですから、真面目にしないと!」

任務の緊張感と彼の子供っぽい調子との落差に、思わず声を荒げてしまう。するとアイノウは目を丸くした後、ケタケタと声を上げて笑い出した。

「あはは! 冗談だよぉー冗談! リネットってさ、ほんっと真面目。ノアに似てるよねぇ」

……本当に冗談なの? 本気なのか冗談なのか、どうにも掴めない。

思わず睨むように見つめていたが、彼は気にする様子もなく、いつもの調子で言葉を続けた。

「そうだね。町長さんから色々話は聞いたけど、まずは旅人さんにご挨拶しよっかな!」

「挨拶って……どうやって?」

おとぎ話に登場した旅人は、とうの昔にこの世を去ったはずの人物。

そんな相手に挨拶をすると言うアイノウの考えが、私には理解できなかった。

「決まってるじゃん! 旅人さんを祀っている祠だよ!」

子供みたいに胸を張って、得意げに言い切る。

彼は楽しげに足取り軽く先へ先へと進んでいく。私は慌ててその背を追いながら、町の片隅にあるという祠へと歩みを向けた。

祠へ続く細道は草に覆われ、長い間、人の足が踏み入れていないことを物語っている。

「ここが旅人を祀った場所……? こんなに寂れてしまって……」

今では、その存在を覚えている人はほとんどいない。

祠の屋根は苔に覆われ、石の基壇は雑草に埋もれ、静けさだけが辺りを支配していた。

「時の流れは、記憶を消失させるからねぇ」

アイノウは祠に溜まった汚れを軽く払うと、手を合わせて目を閉じた。

私もその背に倣い、祠の前でそっと手を合わせる。

かつて町を救った英雄のはずなのに、その存在は人々の記憶から薄れ、忘れ去られようとしている。祠の静けさに包まれながら、胸の奥にどこかに悲しみが広がっていくのを感じた。

「じゃあ早速、調べてみよー!」

ひと呼吸置いた後、アイノウはぱっと顔を上げ、元気よく片手を挙げた。

彼の声を合図に、祠周辺の捜索を始める。

だけど、祠の中も近くの木々も、苔の生えた石段や足元の地面までも隈なく探したけど、異能の結晶に繋がるような手掛かりは何も見つからない。時間だけが静かに過ぎていく。

「あの……アイノウは、ここに異能の手がかりがあると考えているんですか?」

鬼と異能の結びつきはまだ理解できる。けれど、この祠に結びつける理由は、私には分からなかった。

「ううん、何も考えてないよ」

「か、考えてない?」

「うん! だって適当に選んだから!」

無邪気に答えるアイノウに、思わず肩の力が抜ける。

「だってさぁ、どうせどこで何があるかなんて分かんないんだもん! だったら、どこを探したって自由でしょー?」

「そ、それは……そうかもしれませんけど……」

てっきり、何か確証があって選んだのかと思ったのに。

肩透かしを食らったような落胆を抱えながらも、私は捜索の手を止めることなく、祠の周囲へ視線を巡らせる。

――その時。

ふと、胸の奥にざわめきが走った。

「……アイノウ。何か感じませんか」

「? 何も感じないよ」

「そう……ですか」

確かに、何かを感じた気がした。けれど、それは風の音に紛れるほどの凄く小さな小さな気配で、私の気のせいなのかもしれない。

それでも、祠の奥へと続く道を見つめるうちに、胸のざわめきは次第に強まっていった。

――異能の気配だ。

「いえ、やっぱり聞こえます……!」

言葉が口をつくより早く、気付けばアイノウを置いて駆け出していた。

木々の間を抜けると、視界いっぱいに草原が広がる。風に揺れる草の波――その中で、異様な音が混じっていた。

「……っ!」

耳を澄ますまでもなく、甲高い鳴き声が響く。

草むらの奥で、一匹の小犬が小鬼に追い詰められていた。牙を剥き唸り声を上げる小鬼が、必死に逃げようとする子犬へ飛びかかる。

小犬は必死に抵抗しているが、力の差は歴然だった。

「止めなさい! 《妖【あやかし】の連牙【れんが】》!」

風の魔法の中級魔法。

刃のように形を成した風の爪が小鬼を切り裂き、勢いを削いで後退させた。

私は息を整える間もなく、怯える子犬の前へと踏み出す。その小さな命を守るように、両腕を広げて立ちはだかった。

「平和を脅かす魔物は、帝国騎士団の名のもとに処罰します」

鋭く睨み付けて、威嚇する。

しかし小鬼は怯むどころか、執拗に牙を剥き、諦める気配など微塵もない。

「――《焔玉【ほむらだま】》」

掌に宿った炎の球は鼓動に呼応するように膨らみ、瞬く間に数を増していく。

赤々と燃え盛る炎球は矢のように飛び交い、狙いを定めた私の意志に従って小鬼達の体へ次々と命中した。

焦げた匂いが立ち込める。

それでも、小鬼達は怯まず、なおもこちらへ迫り続けた。

……どうして? 昨日はすぐに逃げ出したのに。まるで、この子犬を狙っているみたい……。

胸騒ぎに突き動かされ、ふと子犬へ視線を向けた瞬間、息を呑んだ。

その小さな口にくわえられていたのは、私達が探し求めていた「異能の結晶」そのものだったから――

「異能の結晶!?」

オレンジ色に輝く「それ」は、紛れもなく本物だと直感した。同時に、小鬼が執拗に子犬を狙う理由も推測できてしまう。

「まさか……異能が狙いなの?」

戸惑う間にも小鬼は数を増し、私達を囲う。

すぐにでも飛びかかりそうな気配。だけど次の瞬間、炎の奔流が小鬼の群れをまとめて焼き払っていた。

「もう、僕を置いてかないでよー!」

炎の魔法を操る主――アイノウが颯爽と姿を現す。

まだ周囲には炎が這い、赤々と揺らめく光が揺らめく中、彼はほっぺたを膨らませて不満げに現れた。だが、次々と現れる魔物達を目にすると、彼の表情はくるりと変わり、いつもの無邪気な笑みに染まる。

「わぁー、こんなにいっぱいいる! まるでお祭りみたいで楽しそうだね、リネット!」

焼け焦げた小鬼の残滓が転がる中、魔物に囲まれながらも、彼の姿はまるで遊びに来た子供のように楽しそうで。

だからこそ、異様に見えた。

「アイノウ、子犬が異能の結晶を持っています!」

私の叫びに応じて、彼は子犬へと視線を向ける。

その小さな口に輝く結晶を認めると目を丸くし、声を弾ませた。

「へぇ、異能の結晶が見つかったんだ! じゃあ、もっと全力で遊んであげなくちゃね! 異能の結晶はぜーったい渡さないよ!」

軽い口調のままなのに、その瞳だけがわずかに鋭さを帯びる。

その隣で、私達が駆けつける前に既に小鬼に傷を負わされていた子犬は、力尽きたようにその場へ倒れ込んだ。

「酷い怪我……!」

一目見ただけで分かる、致命的な傷。放っておけば命は長くない。

「今、回復するからね――《妖精【ようせい】の息吹【いぶき】》」

迷うことなく詠唱を紡ぐ。

呼び出された小さな妖精達が舞い降り、柔らかな息吹を放つ。

淡い光が子犬の体を包み込むと、裂けた傷口をゆっくりと癒していく。だが同時に、自分の体から魔力がごっそりと削り取られていく感覚が襲いかかる。

「大丈夫、絶対に助けるから……!」

「……」

傷ついた子犬は、弱々しくも私に視線を向ける。

そして――何かを託すように、小さな口から結晶をそっと離した。

次の瞬間、ぽとりと落ちた結晶が脈打つように光を放つ。オレンジ色の輝きは草原全体を包み込み、風が逆巻くように渦を巻いた。

「な、何……!?」

眩しさに目を細めると、地面が震え、結晶の中心から黒い影が噴き上がる。影はうねりながら形を取り――巨大な「鬼」へと変貌した。

小鬼よりも遥かに大きい体に、灰色の皮膚、燃えるような赤い瞳。

その威圧的な存在は、小鬼達を従える王のように、私達の前へ立ちはだかった。

「あーあ。どうやら『異能の試練』が始まっちゃったみたいだねぇ」

『邪魔ナ人間ドモ……! ヨクモコノ俺様ヲ封印シタナ……殺シテヤル!』

呑気なアイノウの声とは裏腹に、鬼の咆哮は殺意そのものだった。巨腕が岩を掴み、唸りを上げてこちらへ投げつける。

私は咄嗟に防御の魔法を唱え、その攻撃を防いだ。

「これって、異能の試練なんですか!?」

「異能ってほんっとに千差万別だからさ。今回の異能は、この土地に封印されてた鬼が、なんかこう、異能にぽふって乗りうつっちゃったのかもねぇ」

攻撃され続けているにもかかわらず、ポケットに両手をつっこみ考察を述べるアイノウ。

異能を手に入れるために課される試練。

その試練の内容は個々によって異なると言われているけど、今回の試練は、この地に封印された鬼を打ち倒さなければならないってこと?

『人間ノ魔法使イか。俺様ヲ封印シタ人間モ、魔法使イダッタ。許サナイ……! 今度コソ、皆殺シニシテヤル!』

鬼の王は、燃えるような憎悪を宿した瞳で私達を睨みつける。

その視線には、紛れもない殺意が込められていた。

私は子犬を庇うように身構え、アイノウは、そんな私達の一歩前へ出た。

「立派な決意表明してるとこ悪いけど、君じゃ僕に勝てないよぉ? だって相手になんないもん!」

『ハッ! アノニックキ人間ハ優レタ魔法使イダッタガ、ソレデモ俺様ヲ封印スルシカナカッタンダゾ! オ前ミタイナ子供ニ、何ガデキル!?』

「うーん、そうだねぇ。僕にできるのは――君を紙屑みたいにズタボロに倒しちゃうこと、かな」

アイノウは首をかしげ、楽しげに笑みを浮かべる。

そんなアイノウに鬼は怒りを露わらにし、咆哮を上げる。その声は挑戦の合図――逃げ場はない。

『殺ス!』

「あは。ハルト、自分が異能を手に入れられなくて悔しがるだろうなぁ」

こんな状況でも彼の思考が向かうのは、この場にいない仲間の反応。そう思うと、どれほど鬼を脅威とも思っていないのかが伝わってくる。

不敵に唇を吊り上げたアイノウは、ひらりと手をかざし、地面に魔法式を展開させた。

淡い光の紋様が瞬く間に広がり、周囲の空気が震え始める。

「《焔【ほむら】の葬炎【そうえん】》!」

漆黒の炎の塊が天から降り注ぎ、まるで葬送の鐘のような響きを伴って戦場を覆い尽くし、逃げ場を失った鬼は瞬時に呑み込まれる。

炎魔法の上級中の上級魔法……!

習得には膨大な魔力と研鑽が必要で、私には到底扱えない領域の魔法。

だからこそ目の前で繰り出されたその光景に、ただ圧倒されるしかなかった。

『グワァァァアアアアア!』

「残念だったねぇ。君が封印されている間に、魔法使いは常に進化していたんだよぉ」

鬼の断末魔が響き渡る中、彼はまるで鼻歌でも口ずさむように軽やかに言葉を紡ぐ。

「帝国騎士団を舐めるなよ」

一転した冷たい表情。

鬼はそのまま炎に身を焼かれ、墨と消えた。

炎が消えた後には静寂だけが残り、灼熱の熱風が押し寄せる中、私は思わず息を呑んだ。

「えへへ、あーあの鬼さん怖かったぁ! 今回の試練は簡単で良かったね!」

くるりと振り向いた彼の表情は、さっきまでの冷徹さとは百八十度違う無邪気さに満ちていた。

その落差が、かえって恐ろしく感じられる。鬼よりも不気味に思えるほどに。

……これが精鋭部隊、第0部隊の実力。

汗一つかかずに上級の魔物を殲滅する。ハルトもだけど、彼等との実力の差を見せつけられた気分だった。

「あ、そういえば異能の結晶は!?」

鬼が姿を現してから、その結晶は消えていた。慌てて辺りを見渡す私に、アイノウは炎に呑まれて消えゆく鬼の残滓へ視線を向ける。

「だいじょーぶ! 試練は無事にクリアしたから、ご褒美が出てくるんだよー!」

彼の言葉通り、鬼が消えた場所から魔力の光がゆっくりと集まり始める。

淡い輝きはひとつに収束し、やがて「オレンジ色」の結晶を形作った。それは、まるできび団子のように丸みを帯びた姿をしていた。

「これが……異能。私達が探し求めていたもの」

結晶はふわりと舞い降り、導かれるように私の掌に落ちる。

異能の結晶を目にしたことはあったけれど、こうして手に取るのは初めて。その重みは想像以上で、握る手がわずかに震えてしまう。

途端、結晶が私の手の中で光り輝いた。

「な、何!?」

「異能の結晶が、リネットを持ち主として認めたみたいだねぇ」

「わ、私を? だって、私は何も……!」

一切の動揺を見せず、平然と答えるアイノウ。

「前にも言ったでしょ? 異能ってね、人間みたいにみーんな違う性格を持ってるんだよ。だからね、手に入れるには『資格』がいることもあるし、そうじゃないこともある。結局のところ、異能さん自身が『この人がいい!』って気まぐれに選んだりするんだよ」

光が弾けると同時に、きび団子の結晶が私の魔力へと溶け込んでくる。

光は私の魔力と絡み合い、まるで内側を探りながら確かめるように、静かに溶け込んでいった。

――不思議。初めて触れるはずの異能なのに、まるで昔から知っていたかのように自然に馴染んでいく。

その「名」も「力の使い方」も、心の奥底から湧き上がるように理解できてしまう。

「どうして……異能って魔法ですよね? 魔法は本来、魔法式を覚えなければ使えないんじゃ」

「普通の魔法みたいにね、難しい魔法式を覚えれば使えるってわけじゃないんだよ。異能はね、大地に宿る特別な力そのものだから」

――資格、認められる、選ばれる。

彼の言葉を反芻するうちに、異能がただの力ではなく、特別なものだと理解できていく。

「【縁結【えんむす】びの団子【だんご】】」

ふわりと漂う甘やかな香り。その温もりに惹かれるように、傍らの子犬が耳をぴくりと立て、そろそろと近づく。

しかし、足音はそれだけではなかった。

茂みの奥からは猿が顔をのぞかせる。木の上では小鳥達が羽音を立て、次々と枝から舞い降りてくる。動物達は次々と近づくと、団子の光を覗き込んだ。

匂いに誘われた子犬がそのまま団子を口にすると、胸の奥に澄んだ声が響いた。

『彼との約束を、この町を守ってくれてありがとう』

その声に呼応するように、動物達は静かに目を細め、その場に伏せる。

この地の動物達は、過去にこの地を守り抜いた英雄を忘れてはいなかった。

彼等はずっと感謝を抱き続け、その意志を受け継ぐように――今も、この町を守ろうとしていたのだ。

その想いに、私は胸が熱くなる。

――そして、初めて異能を手に入れた。

夢に一歩近づけたんだって、はっきり実感できて……嬉しくて、嬉しくて、心が震えた。