軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編62話 過去

「リネット! 騎士クラスにあまり喧嘩を売るな!」

「フクロリー先生は、あれだけ馬鹿にされても黙って耐えろって言うんですか? 私が今まで、どれだけセレアさんの鬱陶しいことこの上ないちょっかいを我慢してきたと思います?」

一回や二回じゃすまない。

顔を合わせる度に何度も何度も……もう我慢の限界!

「それは耐え難いとは思うが……この学校が生徒同士の喧嘩を認めていることは知っているだろ? ただでさえセレアは見下している相手に対して喧嘩っ早いのに……」

フクロリー先生は、純粋に私を心配して下さっているのだろう。お気持ちは痛いほど嬉しい。

「剣士相手との訓練になると思えば平気です。ただでやられるつもりはありませんし」

「リネット……」

「はいはい。まだ校外学習の途中だし、お話はそこまでにしてね。まだまだ楽しい校外学習は続くんだから!」

「楽しい……?」

アイノウ様の言葉に、一部の生徒からは疑問を込めた声が上がった。

その後も、私達は果てしないリスリアラナ砂漠を歩き続けた。

右を見ても左を見ても、見える景色は砂ばかり……あれからも何人か脱落者が出て、残っている生徒は半分ほどになった。因みに脱落した生徒達は、トルターン学校の先生が担架で運び、学校で丁重に治療を受けている。

「はぁはぁっ」

私だけじゃない。

残った他の生徒達も苦痛の表情を浮かべていて、第0部隊の過酷さを身をもって思い知らされた。

私も……もう限界かも……。

何度目かの弱音を心の中で吐いていると、いつもと同じ砂漠の中に、異なる景色が見えた。

「あれって……」

風に揺れる緑。

砂漠に突如現れた湖面は、日に反射して眩しく輝いているように見えた。

「水だ!」

「やったぁ! 本物!?」

生徒達は歓声を上げながら、砂漠の「オアシス」に向かって走り出した。

勢い余って湖に飛び込む者もいれば、靴を脱いでそっと足をつけるだけの者もいて、私も後に続き、湖に手を伸ばした。

「冷たい……」

間違いなく本物の水の感触で、どこか懐かしさすら感じて泣きそうになる。

それに、純粋に涼しい。

今まで灼熱の砂漠の中にいたからか、木々が広がるこの場所が随分涼しく感じる。

「ここはリスリアラナ砂漠にある《移動するオアシス》だよ。無事に見つかって良かったね」

笑顔を浮かべたアイノウ様は、まるで懐かしむように辺りを見渡した。

「ここが空の祝福を見つけた場所だよ」

「ここが……」

移動するオアシスの存在は、空の祝福を題材にした書籍で読んで知っていたけど、実際に訪れるのは勿論初めて。

「オアシスは安全だから、自由に動き回ってもいいよ。もし興味があるなら、実際に空の祝福があった場所を見つけておいでよ」

アイノウ様はそう言うと、魔法で模造した空の祝福の異能の結晶を、オアシスの中に放った。

「異能! 俺が最初に見つける!」

「私が見つけますわ!」

「興味があるなら」と前置きしたけど、帝国騎士団第0部隊は、貴族達の誰もが憧れる栄誉の部隊。興味がない生徒など稀で、殆どの生徒がアイノウ様の言葉に乗っかり、意気揚々と異能の捜索へ名乗りを上げた。

「……異能の捜索に夢中になるのはいいけど、最初に教えた危険性については、忘れていないよね?」

やる気に満ちて駆け出そうとする生徒達の足を止めるように、これまでとは違う、鋭い顔つきに変わるアイノウ様。

「へ? えっと、何でしたっけ……?」

「異能によって 様々な習得方法があるけど、その多くは危険が伴う。特に『金・銀・銅』に関しては、特別な異能だけあって危険なものが多い――――これを毎回、国中に知らせを出しているにも拘わらず手を出す馬鹿がいて、ほんっっっとうに困っているんだよね」

……アイノウ様、本気で苛々してる……!

「わざわざ僕らが貴重な時間を使ってまで講師に来ているのは、どれだけ危険かを知らしめるためでもある。空の祝福の試練は、砂漠を歩く程度の苦労なんて比べものにならないほど過酷だったからね? 異能を見つけてもむやみやたらに馬鹿みたいに触らず、必ず帝国騎士団に報告するように。分かったかな?」

「は、はい!」

「――うん、ちゃんと分かってくれて良かったぁ! じゃあ捜索に行っていいよ。あ、でも僕が魔法で作った異能は模造の偽物だから、遠慮なく触ってね!」

コロッと、まるで人が変わったように元の様子に戻るアイノウ様……。

ふり幅が怖いよ!

出鼻をくじかれた気はしたけど、私達は気を取り直して、捜索へと向かった。

アイノウ様の言葉通り、オアシスは砂漠の中とは思えないほど、平和そのものだった。

焦げるような暑さもなく、本当にただの森を散策しているみたい。……ただ、思っていたよりもずっと広い。

ぐるりと一周するには、一時間ほどはかかりそう。

オアシスと砂漠の境界線を見ると、ゆっくりと動いているのも確認出来た。これが移動するオアシスの由来か……。

まるで砂の海を漂う島みたいで、島から落ちたら、二度と戻ってこれなくなりそう。

「落ちないように注意しながら、結晶の捜索を始めよう」

とは言っても、現状手掛かりは何もない。

「……地道に探すしかないか」

それから暫く、木々の間や茂みの中を丹念に探してみたけど、何も見つからなかった。

もしかすると、私がこうしている間に、もう誰かが見つけてしまったのかもしれない……。

真っ先に頭に思い浮かんだのはアレン殿下だった。

けれどアレン殿下は、そもそも捜索にすら出向いていなかったことを思い出した。「授業の一環じゃないなら自分には関係ない」と、あの場から一歩も動かなかったのだ。

将来、帝国騎士団に入るかもしれないのに――――全くの無関心。寧ろ、自ら関わることを避けているようにも見えた。

「……私は……アレン殿下が羨ましいんだけどな」

「――あら、アレン殿下が何ですの?」

森の中、砂に手を這わせて結晶を探していた時、突然後ろから声がかかった。

「げっ……セレアさん」

「げっ、とは何ですか!」

振り返ると、そこには腕を組み、不機嫌そうにこちらを睨んでいるセレアさんがいて……。

言いたくもなるでしょ。何度も何度も……。

今度はどんな意味不明な絡み方をしてくるつもり?

「私だってリネットさんの相手をしたくありませんわ! でも、いつも私の邪魔ばかりするから……貴女が目障りで仕方ないんです!」

「邪魔をしているつもりは一切ありませんけど……セレアさんは、アレン殿下がお好きなんですか?」

どうして私にばかり突っかかってくるのかが分からず聞き返すと、セレアさんは動揺するように目を泳がせた。

「す、好きなわけじゃありませんわ! 身分が違いますし……! で、でもアレン殿下がどうしてもと仰るなら、考えて上げなくもないですわ!」

「はぁ」

思わずため息が漏れる。

……凄い上から目線ですね。

「好きじゃないのに、どうしてアレン殿下に気に入られたいんですか?」

「そんなの決まっていますわ! 帝国騎士団に入りたいからです!」

「はい?」

「帝国騎士団に入れば将来安泰ですし、たかが子爵令嬢と侮ってきた愚かな方々を見返せるでしょう!」

「……それは勝手にすればいいと思いますが、どうしてそれにアレン殿下が関係しているんですか?」

何故か勝ち誇ったように胸を張って話すセレアさんに、眉をしかめた。

「何言っているのよ。だからこそアレン殿下のお力が必要なんじゃない! アレン殿下はこの国の第三皇子で、将来、帝国騎士団隊長になるとも言われているお方よ。そんな方に口利きして頂ければ、帝国騎士団に入るのも夢じゃありませんわ!」

「帝国騎士団にコネで入れるとか、聞いたことありませんけど」

「やってみなければ分からないでしょう? 挑戦する前から諦めるなんて、騎士の志に反しますわ!」

……騎士の志ってそんなものでしたっけ?

大体、帝国騎士団にそんな卑怯な手段で入隊を志すとか……! そんなくだらないことのために、アレン殿下と関わるのを止めろとか……! セレアさんが身勝手過ぎて苛々する。

「なので、私の壮大な野望のためにも、何度忠告してもアレン殿下につきまとうのを止めない貴女には、私自らお仕置きをしてあげることにしましたわ」

セレアさんは宣言すると同時に、木剣を取り出し、迷いなく剣先を私に向けた。

「ちょ、ちょっと待って下さい。本気ですか? フクロリー先生に注意されていましたよね?」

心優しいフクロリー先生は、あれから私に危害が及ばぬよう、セレアさんに個別に注意を促してくれた。

「言われましたわよ。少なくとも校外学習中は大人しくしているようにと」

「じゃあ今日くらい大人しく出来ないんですか⁉」

「嫌よ」

「ど、どうせ後で先生に叱られるのは、セレアさんの方ですよ⁉」

皆の前で恥をかかされて、よっぽど気に障ったんだろう。その目は本気だった。

フクロリー先生には、剣士相手の訓練だと思うから平気だと言ったけど、実際に武器を向けられると、思わず声が裏返る。

「言っておきますけど、先生に告げ口などしたら、もっと酷い目に遭わせて差し上げますわ」

「っ!」

ぞくり、と背筋を冷たいものが走る。

私がそれで「はい、分かりました」と、素直に従うとでも思っているのだろうか。

――冗談じゃない。

「……後悔するのは、セレアさんの方ですよ!」

恐怖を悟られないよう、必死で平静を保って虚勢を張る。

セレアさんに弱いところなんて見せたくない。

「ふふふ。その威勢がいつまで持つか楽しみですわね」

不敵に微笑むセレアさん。

例え酷い目に遭おうとも、死に物狂いで抵抗して、一泡吹かせてやる! そう決意し、身構えた――その瞬間だった。

「面白そうなことをしているね」

私達の間に割って入ってきたのは、にこやかな笑みを浮かべるアレン殿下だった。