作品タイトル不明
第020話 大丈夫?
目の前にはテレビが見える。
今回もちゃんと帰ってこられたようだ。
そして、掴んでいる腕の先には、ぽかーんとしているフィリアが立っていた。
本当に連れてこられたな。
あの動画を見たからか?
それとも俺が触れていたからか?
その辺はよくわからないが、これで俺以外の人間もこっちの世界に来られるのは確定したことになる。
「……ここ、どこ?」
フィリアが前を見たまま聞いてくる。
「俺の家。ようこそ!」
「お、お邪魔しています」
「まあ、座って」
フィリアの腕を掴んだまま、テレビの前にあるソファーまで連れていき、座らせた。
フィリアはキョロキョロとリビングを見回している。
「何か飲む?」
「え? じゃ、じゃあ」
キッチンに行き、コップを2つ出すと、冷蔵庫を開ける。
うーん、異世界人にウーロン茶で大丈夫か?
アイスコーヒーはやめた方がいいだろうし、コーラは炭酸が強すぎる。
果物系のジュースがいいだろうな。
……うん、ねーな。
まあ、酎ハイでいいか!
なるべく甘そうなブドウの酎ハイと桃の酎ハイを取り出し、コップに氷を入れて、酎ハイを注いだ。
そして、いまだに周囲をキョロキョロと見渡しているフィリアのもとに行く。
「はい、どうぞ」
2つのコップをソファーの前にあるローテーブルに置く。
「これは?」
「ジュース。フィリア、桃とブドウってわかる?」
「わかるよ。私はブドウが好き」
桃とブドウがわかるということはあっちの世界にもあるのか。
「じゃあ、こっち」
ブドウの方を指差す。
「いただきまーす……うん、美味しいけど、ツッコミどころが多い!」
「どこ?」
「まず、これジュースじゃなくて、お酒でしょ」
わかるか。
「他になくてね。お酒はマズかった?」
「いや、お酒は好きだよ。私、全然、酔わないけどね」
チラッと蛇を見る。
そりゃねー……
フィリアはうわばみでしょうよ。
「じゃあ、いいじゃん。他には?」
「ガラスのコップなんて初めて見た。しかも、めっちゃ透明!」
そういえば、向こうの世界でガラスを見てないな。
「ガラスは高級品?」
「王侯貴族か大きな教会にしかないんじゃない? 庶民は使わないよ。落としたら割れるし」
「なるほどねー。そんだけ?」
「えっと、氷が入ってますけど?」
やはり氷は珍しいか。
「こっちでは簡単に作れるんだよ」
「この部屋を見て、なんとなくわかってたけど、文明のレベルが全然違う気がする」
「多分ねー。だから何を売るかを困ってるんだよ」
「わかる。例えば、このコップなんかを売ろうとすると、貴族が出てくる。トラブルしか招かないよ」
「そのコップ、銅貨1枚」
100円ショップだろうからそんなもんだろう。
「私なら金貨100枚で売る」
やべーな。
100円が100万円になっちゃう。
「ガラスはやめた方が良さそうだな」
「程度によると思う。数個程度ならダンジョンで発掘しました、で通るだろうし」
「ダンジョン?」
「モンスターやお宝がざっくざくな洞窟。この辺にはないけど、もっと南に行けばあるよ」
ちょっと惹かれるが、すぐに死にそうだな。
俺の危険予知も行くなって言っている。
「やめとく。怖い」
「それがいいと思う。リヒトさん、弱そうだもん」
弱そうじゃなくて、弱いんだなー。
「俺、フィリアに勝てるかな?」
「それはいける。私、ヒーラーだから弱いもん」
ふむふむ。
弱い女が助けも来ない男の家でお酒を飲んでますね……って、蛇がめっちゃ睨んでるし!?
冗談だよー。
「……まーた、肩を撫でてくるし」
「まあまあ、飲んで、飲んで。いくらでもあるから飲みまくって」
「リヒトさんって、どうして言動が胡散臭いの?」
「詐欺師っぽいしゃべり方をする方が人は油断しやすいんだよ」
最初は警戒するが、徐々に慣れてくると、逆に信用しやすくなる。
「私を騙してる?」
「もし、俺がフィリアを騙そうとしているならフィリアはもう手遅れだよ」
「そうか……私、異世界に誘拐されてるのか」
ようやく気付いた?
君はもう帰れなーい。
って、冗談だから睨むな、蛇。
「そうなるねー。まあ、24時間で……」
あ、やべ!
「フィリア、悪い。お前って外泊は大丈夫か?」
「んー? 冒険者だし、問題ないよ? なんで?」
「俺は異世界を行き来できるんだが、丸1日の充電期間がいるんだ。だから、あっちの世界に戻れるのは明日だ」
完全に忘れてた。
マジで誘拐になっちゃう。
「ああ、そういうこと。まあ、異世界を渡るなんて大魔法だし、それくらいの期間はいるよね。別にいいよ。依頼で2、3日戻らないなんてざらだしねー。さすがに10日とかだと捜索依頼が出ると思うけど」
とりあえずは大丈夫そうだな。
「完全に失念してたわ」
「いいよ、いいよ。おかわり」
こいつ、ものの数分で飲み干しやがった……
さすがは蛇女。
マジでうわばみだ。
仕方がないので立ち上がり、キッチンに行くと、大きめのジョッキに氷を入れ、缶酎ハイを数本と共に持っていく。
「好きなだけ飲め」
「何これ? 冷たいし」
フィリアは缶酎ハイを手に持ち、マジマジと見る。
「お酒が入っている入れ物だ。それはリンゴだな」
「へー、リンゴかー……どうやって開けるの?」
「貸せ」
プルタブを開け、コップに注いでやった。
「ホント、すごいねー」
「まあなー。これも売れんだろ」
「絶対にやめた方がいいね。鉄っぽいけど、軽いし、未知すぎるよ」
缶ってアルミか?
アルミが何なのか、よーわからん。
「まあ、飲め」
「いただきまーす……ねえ、さっきから気になってたんだけど、それ何? 真っ黒い絵なんか飾ってどうすんのよ?」
フィリアがお酒を飲みながら正面のテレビを指差す。
「これはテレビという遠くのものを映し出すものだな」
「……もうね。言ってる意味がわかんない」
リモコンを手に取り、テレビをつけた。
すると、テレビが起動し、ニュースが流れ始める。
「……すごいね」
「まあ、そうだろうな」
「ちなみに、何を言ってるのか全然わかんない」
「そうなのか?」
普通に今日のニュースをアナウンサーがしゃべっているだけだが。
「こっちの世界の言葉でしょ。私は加護がないからわかんない。このお酒の缶とやらに書いてある文字も読めない」
「加護?」
「あー、異世界人はこっち……じゃないか、あっちの世界に行く時にギフトとは別に加護をもらうらしいんだよ。それで言語なんかが通じるらしい」
そうか。
だから異世界なのに言葉も通じるし、文字の読み書きもできるわけだな。
「なるほどな。しかし、そうなると、お前に売れるものの調査を頼もうと思ったんだがなー」
「翻訳してくれるならできるよー」
まあ、仕方がないか……
「何が売れると思う?」
「うーん、市場とかないの? そこを見たい」
……こいつを外に連れていくのか?