作品タイトル不明
第012話 堂々とお金が好きっていう女を初めて見た
「よう! 元気か?」
「元気だよー。リヒトさんは元気がないようだけど、どうかしたの?」
フィリアがそう聞いてきたので無言で猫を指差した。
「猫……?」
「実はね…………」
フィリアに事情を説明する。
「なるほどー。ほら、おいでー」
話を聞いたフィリアはしゃがみ込むと、猫に向かって手でおいでおいでをする。
それを見て、そんなことで猫が来るわけないじゃんと思ったが、猫はすぐに警戒を解き、フィリアにすり寄った。
「にゃー」
「なんでぇ?」
ショックを受け、変な声が出た。
「あはは。私は昔から動物に好かれるんだよねー」
ああ……そういえば、君は蛇にも好かれてるね。
今だって、蛇が君の顔をチロチロと舐めているよ……
「羨ましいね……」
フィリアは猫を抱えると、立ち上がった。
うーん……猫と蛇と女……
異様な光景だが、蛇が見えてるのは俺だけだ。
「ギルドに行けばいいのかな?」
動物大集合のフィリアが聞いてくる。
「だねー。悪いけど、連れていってもらえる? 俺は猫には嫌われるんだよ」
「いいよー。あ、でも、ちょっといいかな?」
フィリアはそう言うと、猫を抱えたまま、近くのベンチに腰かけた。
話でもあるのかなと思い、隣に腰かける。
「占いでもしてほしいの?」
「うーん、金貨1枚でしょ?」
「手伝ってもらったし、タダでいいよ」
報酬が銀貨1枚だから割には合わないが、そのくらいなら問題ない。
「うーん、今度にしようかな。考えておくよ」
「ん、わかった。そういえば、ミケやアンナはもう町を出た?」
「うん。今日の朝には出たよ。もう少し、休んでいけばいいのに」
アンナもミケも体力があり余ってそうだしなー。
「フィリアはここで何をしてんの? 買い物?」
「市場調査だねー」
「調査? 仕事かなんか?」
「いや、私の趣味。私、お金が好きなんだー」
すげーことを堂々と言う女だな……
でも、ちょうどいいかもしれない。
「この町で売れそうなものは何?」
「この町はモンスターが出るアルトの大森林が近くにあるんだよ。だから冒険者や兵士が多いし、武器とかかな」
武器?
さすがに銃は売れんな……
「微妙だなー……」
「ん? 何か売りたいの?」
「金集めをしようと思ってね。占いとかはもう少し、名前を売ってからじゃないと安定した収入は見込めない。手っ取り早いのは何かを売ることかなって思って」
権力者に取り入るのが一番だが、権力者どころか、この町の統治体制すら知らん。
「何を売ろうと思ってるの?」
「わからんからとりあえず、砂糖と塩」
清めの塩が少しと500グラムの砂糖を持ってきている。
「塩は売れないね。近くに岩塩が採れるところがあって、この辺では安価だもん。逆に砂糖は売れる。この辺では採れないからね」
こいつ、詳しいな。
さすがはお金大好き女。
あ、だから金運が上がる蛇が憑いているのか……
「これ、どんくらいで売れるかな?」
カバンから砂糖を取り出す。
「透明な袋……? それにすごく白いね。あー、異世界の砂糖か。明日、お金が欲しいなら金貨20枚、10日あれば30枚以上で売れるかな?」
んー?
「なんで日にちによって違うんだ?」
「小分けして色んな所に売るから」
なるほど。
わからん。
「どこで売ればいいん?」
「商会かな? ゲルドさんの所でも売れると思うよ。多分、金貨20枚かな」
あいつに売るか?
とはいえ……
「フィリアなら10日あれば、金貨30枚で売れる?」
「私に任せてくれるならもっと高く売れるよ。手数料で1割もらうけど」
1割か……
30枚で売っても27枚。
俺が売るよりかは良さそうだな。
「じゃあ、頼むわ」
フィリアに砂糖を渡す。
「契約書とかは? 商人ギルドを通した方がいいよ。私が持ち逃げするかもしれないし」
「別にいい。信用してるから」
「あんましないほうがいいよ。特にお金のやり取りは」
お金にシビアだな。
さすがはお金好き。
「じゃあ、言葉を変えよう。俺を騙せると思うな。霊媒師をなめてもらっては困る。どこに逃げようと呪いをかけてやる」
「こわっ! やっぱただの詐欺師じゃないのかー」
「詐欺師言うなし……」
どいつもこいつも……
「いや、霊媒師って何?」
「俺の本業。霊とかを祓ったり、利用して呪いをかけたりできる」
「霊? レイスとかを倒せるの?」
「どうだろう? そういうのじゃないからなー」
多分、倒せると思うが、試すのは嫌だな。
こえーし。
銃弾、当たるの?
「ふーん、まあいいか。じゃあ、この砂糖は預かるね。ちなみに、これだけ?」
この銭ゲバ、金の匂いを嗅ぎ取ったな。
「他はもう少し、考えてみる」
「いくらでも相談に乗るよー」
フィリアはそう言って、俺の太ももに手を置く。
「お前、冒険者兼修道女じゃなかったか?」
「私、冒険や女神様に祈るより、金貨を数える方が好きなの」
マジで銭ゲバだよ……
こんな清純そうな顔して、頭の中が金色で出来てやがる……
さすがは蛇女。
「ふーむ……俺は商才がないし、今度、相談に乗ってもらおうかな」
「ないの? すごくありそうだけど……」
それ、詐欺師だからっていう意味だよね?
「商売は需要と供給。俺は異世界人だからこの世界の需要がわからん」
一体、何を売ればいいのか、そして、どこまでの物を売っていいのかの線引きがわからん。
「なるほどね。相談料は取らないから気軽に相談するといいよ!」
もう、こいつの目が金貨になってるわ……
「今度な。とりあえずは銀貨一枚を受け取りにいくわ」
そう言って立ち上がる。
「銀貨?」
「その猫」
フィリアの太ももで丸まって寝ている猫を指差す。
「え? 迷い猫だよね? 安くない?」
「依頼主が子供なんだとさ。まあ、俺はよそ者だし、こういうので信用を買わないとな」
先行投資だ。
「考え方が詐欺師のそれだよ……」
「フィリア、幸運になれるツボを買わない?」
「教会の人間によくそんな詐欺ができるね?」
詐欺って決めつけんな。
詐欺だけども!
「まあ、真面目な話、詐欺は無理かな。この規模の町ではコミュニティが狭すぎる。すぐに噂になって商売にならん」
この町だって十分に大きいだろうが、それはこの世界基準でだろう。
せめて10万人ぐらいの都市じゃないと厳しい。
「それがいいよー。さっきも言ったけど、この町は兵士が多いし、領主様が治安維持に力を入れてるからね」
領主……さっきの美人か。
「やはり真っ当な商売だな」
「そうだよー」
フィリアは同意して頷くと、猫を抱えて立ち上がった。
「じゃ、ギルドに行こうか」
「頼む」
「銅貨1枚ねー」
銀貨1枚の1割か……
がめついな……
さすがは銭ゲバだ。
「ところで、俺に用があったんじゃないのか?」
「終わったよー。お金の匂いがしたから話しかけただけだし」
こいつ、すげー!
さすがは蛇女だわ。