軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第30話 私が選ぶ春

雪の消えた薬草園で、私は初めて未来のためだけに種を選んだ。

白樺薬草分室の開所から一季が過ぎた。冬の間も作業室では研修が続き、施療所から来た見習い薬師たちは、温浸液を作る際の湯の温度を巡って何度も失敗し、そのたびに記録を取り直した。春の最初の朝、庭へ出せるほど気温が上がると、私は研修用の畝へ月白草の種を蒔く準備をした。

紙袋の中で、小さな種が乾いた音を立てる。

かつて、薬草の匂いは死の記憶に結び付いていた。今も灰紫根の甘さを嗅げば指は固くなるし、雪の夜を一人で過ごせるかはまだ分からない。それでも月白草の種を手にした時、思い浮かぶのは毒杯ではなく、この庭で学ぶ若い薬師の困った顔だった。

「分室長、報告会の書類が揃いました」

リュシーが作業室から顔を出した。開所当初、薬草院本院から手伝いに来ていた彼女は、今では週の半分を分室の記録指導に費やしている。

「今行きます。種は後で」

「後で忘れないでくださいよ。分室長は書類を見始めると、植物も昼食も待たせるんですから」

「最近は昼食を忘れていないわ」

「ミナさんが鐘を鳴らすからです」

反論できず、私は種袋を机の引き出しへ置いた。

分室の講義室には、セルヴァン院長、父、ガルシアを含む施療所の代表者、王妃府から派遣された確認官が集まっていた。今日提出するのは、最初の運営期間の報告である。

研修を受けた薬師の人数。温浸確認を導入した施療所の数。疑わしい薬材が見つかった場合の照会件数。幸い、新たな灰紫根混入はなかったが、保管中に湿気を帯びた粉末を配布前に除けた事例が二件あった。

「危険品がないから手順は不要になった、とはならなかったわけですね」

確認官が言う。

「はい。問題が起きない期間も、確認を続けられる仕組みにすることが必要だと考えています」

私は複写受領帳の見本を差し出した。最初の頁には、試行時に私が押した少し不格好な訂正印が残っている。今は研修生たちが、自分で受け取った薬材の番号を書き、中央記録庫へ送る控えを作るようになった。

院長が報告書を閉じた。

「白樺薬草分室の継続を承認します。オフィーリア分室長、よく整えました」

「皆が続けてくださった結果です」

決まりきった謙遜ではなく、本当にそう思う。リュシーが紙のずれを直し、ガルシアが研修契約を結び、ミナが私に食事を思い出させ、父が庭の維持費を貸付として支えてくれた。ノエルが記録を私の名で残し、権限を外れた後も、中央で運用の公正を見守ってくれている。

父は、低利貸付の最初の返済受領票を手にしていた。

「娘から利息を受け取る日が、本当に来た」

「まだ一回目です。喜ぶには早いわ」

「リリアーナなら、最初の一回を大いに喜んだ後、次の支払い予定を確かめただろう」

皆の前で母の話を笑いながらできることが、思いのほか嬉しかった。

報告会が終わると、施療所の見習いたちは庭へ出て、種蒔きの準備を始めた。今日は仕事としての植え付けであると同時に、私には別の約束の日だった。

門の方で馬車の音がする。

中央薬務監査部の灰色の外套を着たノエルが、書類鞄を持って降りてきた。彼は確認官へ職務上の挨拶を済ませ、私へは人々の前で丁寧に礼をする。

「ラングフォード分室長。継続承認、おめでとうございます」

「ありがとうございます、アシュフォード伯爵」

リュシーが、聞こえよがしではない程度に咳払いをした。ミナが彼女の肘をそっとつつき、二人で研修生を別の畝へ案内していく。父と院長も、あえて報告書の話を続けながら作業室へ戻った。

庭に残ったのは、私とノエル、それから種の入った紙袋だった。

「お待たせしました」

言うと、ノエルは首を横に振った。

「待つと決めた時間です。あなたがここで春を迎えたことを、嬉しく思います」

冬至の朝、私は彼に春まで待ってほしいと頼んだ。あの時は、ようやく死の夜を越えたばかりで、嬉しい答えを急いで口にすれば、怖さから逃げるために彼へしがみつくことになる気がした。

この一季、私は分室長として働いた。彼の判断を仰がなくても、院長や職員と相談し、失敗を直し、収支を見て、薬草を育てた。それでも、報告したいことがあると彼の顔を思い浮かべた。庭の新しい棚を見てほしいと思い、冬の冷たい朝には、隣の書斎で守られた灯りを思い出した。

私は選ばれる場所を求めているのではない。

この人を、自分の暮らしに迎えたい。

「ノエル様」

彼の名を呼ぶと、春の風が月白草の新芽を揺らした。

「私はこの分室を続けます。薬材の確認も、研修も、帳面の管理も、ここで私の仕事として担っていきたいと思います」

「はい」

「その私の生活に、あなたがいてくださる未来を選びたい。婚約のお申し出を、お受けいたします」

言い終えるまで、彼は一歩も近づかなかった。私の返事が落ち着いて庭へ届いてから、ようやく深く息を吐き、微笑む。笑い方が少し下手なところを、私はもう知っていた。

「ありがとうございます。あなたの仕事を尊び、ともに暮らす責任を負うことを約束します」

「約束だけでなく、書面にもしてください。私、記録には細かいのです」

冗談のつもりだったが、ノエルは真面目に頷いた。

「すでに婚約合意書の案を用意しています。ただし、あなたの希望を伺う前には確定できません」

「本当に準備がよいのですね」

「待つ間、何もしないのは苦手です」

私たちは声を上げて笑った。整った愛の言葉より、この少し噛み合わない返事の方が、二人の未来らしく思えた。

午後、父と院長の確認のもとで、婚約合意書の内容を確かめた。婚姻後も私が白樺薬草分室長として職務を続けること。ノエルの監査職が分室を直接評価する案件では、別担当者を置くこと。住居や将来の生活については、互いの職務を踏まえて相談すること。

私は一文を加えてほしいと頼んだ。

「家庭で薬や食事を管理する必要がある時も、本人の意思を尊重する、と記せますか」

父の目に痛みが走った。ノエルは迷わず答える。

「記しましょう。薬に限らず、あなたの身体と生活に関わる選択は、あなたの同意なく決めません」

私の死を知る人が、過去の鎖の代わりに、未来の当然を紙へ残してくれる。

二人で署名し、父とアシュフォード家の代理人が確認印を入れた。正式婚姻はまだ先だ。私は分室長であり、オフィーリア・ラングフォードのまま、新しい約束を結んだ。

「お嬢様、おめでとうございます」

ミナは涙を拭きながらも、いつも通りそう呼んだ。その変わらなさに私は笑みを返す。

夕方、研修生たちが帰った後、ノエルと私は薬草園へ戻った。

月白草の種袋を開き、畝へ浅い溝を作る。彼は種を握る私の手に重ねようとはせず、隣の畝を同じように整えた。私が一列蒔き終えてから、彼も種を落とす。

「芽が出るまで、どのくらいですか」

「春の日差しが続けば、そう長くはかかりません。ただ、雨が多ければ植え直しになる株もあります」

「それなら、毎日見に来る理由ができます」

「監査のお仕事を忘れないでください」

「休日に伺います」

土を戻し、小さな如雨露で水を注ぐ。春の光が、できたばかりの水面へ揺れた。

前の人生へ戻る理由は、もうなかった。私を選ぶ権利は王宮にも侯爵夫人にもなく、恐怖だけに預ける必要もない。

これから芽を出すものを、私は私の手で育てていく。

隣の畝では、ノエルが私より少し多く水を注ぎ、湿った黒い土が小さく沈むのを見て慌てて如雨露を止めた。

「最初から過保護では、根が弱りますよ」

「気をつけます、分室長」

春の庭に、私たちの笑い声が穏やかに残った。