軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話 分室長の名

最終裁定の封書を開いた朝、白樺薬草分室の看板にはまだ新しい木の香りが残っていた。

晩秋の空は澄み、息を吐けば薄く白くなる。小邸の門脇に立てられた看板には、昨日職人が最後の塗りを済ませたばかりの文字がある。

王立薬草院 白樺薬草分室

分室長 オフィーリア・ラングフォード

自分の名が掲げられた板を見ると、嬉しさより先に居心地の悪さがきた。候補の名簿へ載ることを夢見ていた昔の私とは、随分違う。ミナはそんな私の顔を見て、看板の文字の溝に残る木粉を布で払った。

「お嬢様、今さら外してほしいとおっしゃっても、職人さんが困りますよ」

「外さないわ。ただ、名が大きすぎる気がしただけ」

「お仕事の場所ですから、迷っていらした方が見つけられる大きさでよろしいのです」

彼女の返しに、私は笑った。

今日は開所式の前に、王妃府で最終裁定の通知を受ける。父とセルヴァン院長、セシリアも同席を求められていた。ノエルは既に中央監査部の職員として、法務官側の記録担当席へ入る。

私は新しい外套を羽織り、分室長としての簡素な銀章を胸元へ付けた。王宮へ運ばれるための装飾ではない。戻ってきて、この庭で働くための印だ。

王妃府の通知室で、アマーリエは最終裁定書を開いた。

「監査評議会の審査と被申立人側の弁明を経て、王宮施療基金に関する調査の最終判断を公示します」

ヴァレリアは今日も姿勢を崩していなかった。職務停止中の彼女には以前のような上座は用意されず、代理人の隣に座っている。セシリアとは席が離され、互いに言葉を交わす必要のない配置になっていた。

アマーリエが読み上げる。

ベレス薬材商会が、月白草として契約した調薬用粉末へ灰紫根を混入し、施療基金へ納入したこと。ヴァレリアが理事長として承認番号を発行し、差額を侯爵家に関係する支出へ移したこと。汚染報告後にも検品免除を申請し、基金許可で再搬入を試みたこと。さらに選定委員として、姪へ虚偽の証言を求める指示書を送ったこと。

一つずつ、現世の書類で証明されたことだけが読まれていく。

「以上により、ヴァレリア・エルンスト侯爵夫人を施療基金理事長職および王太子妃候補選定委員職から解任します。基金へ生じた損害および追加安全対応費については、侯爵家資産と商会責任分を区分した賠償審査へ移行します。オズワルド・ベレスおよび同商会との王宮契約は解除し、薬務取引資格の審査が完了するまで新規契約を禁じます」

ヴァレリアが、初めて目を閉じた。

代理人が立ち、侯爵家の全財産を慈善の失敗で奪うのは過剰だと訴える。アマーリエは、賠償額は今後審査され、今日確定するのは公職解任と契約解除であると返した。誰も彼女を辱めるために言葉を重ねない。彼女が失うのは、利用した職務と、記録によって支えられなくなった信用だった。

「制度上の措置として、施療基金理事長と妃候補選定委員の兼職を禁じます。候補令嬢は、選定委員を経由せず法務窓口へ相談と異議申立てを行えるものとします。薬材供給については、危険性の高い調薬済み粉末に抜き取り確認と複写受領記録を義務付けます」

アマーリエは最後に、私とセシリアへそれぞれ認証された公示の写しを渡した。

「あなた方が提出した書類は、処分のためだけに使われるものではありません。今後、同じ立場の令嬢や薬師が異議を申し立てる時、この窓口が存在する根拠になります」

セシリアは写しを両手で受け取り、小さく礼をした。彼女の未来がすぐ晴れやかになるとは限らない。侯爵家で暮らしてきた年月や叔母との関係が、一枚の公示で消えるわけでもない。それでも彼女は、命じられた証言ではなく自分で提出した文書を手にして部屋を出られる。

私の複写帳と、セシリアの指示書が、これから先に同じ沈黙を作らせない規則へ変わる。

セシリアは膝の上で指を重ね、深く息を吐いた。推薦を辞退した彼女が、今後どの道を選ぶのか私は知らない。それでも、叔母の評価を通さなければ声を上げられない立場からは離れられた。

ヴァレリアが退出の前、私へ視線を向けた。

「あなたは、わたくしが築いた慈善を壊したことを、いずれ理解なさるでしょう」

室内が固くなる。

私は立ち上がらず、静かに答えた。

「安全を確かめた薬は、もう施療所へ届いております。壊れたのは、危険を隠して続ける仕組みです」

それ以上、言うことはなかった。

彼女は返事をせず、代理人とともに出ていった。

午後、白樺薬草分室の開所式が行われた。

式といっても、豪華な招待客を集めたものではない。薬草院の職員、研修を申し込んだ施療所の薬師たち、父とミナ、法務官としてアマーリエ、提出者として招かれたセシリアが、講義室となる作業室に集まった。

セルヴァン院長が認可書を読み、私へ手渡した。

「ラングフォード分室長。ここで教える手順が、疑問を言葉にできる薬師を増やすことを期待します」

「努めます」

受け取った認可書は、推薦状よりずっと重かった。棚の費用も、受け入れる人の数も、失敗すれば改めなければならないことも知っているからだ。その重さを持っていたかった。

研修用の卓へ、明礬紙と二つの見本皿を置く。ガルシアが若い薬師へ、紫の縁を見落とさないよう伝えている。リュシーは新しい受領帳の頁を見せ、複写がずれた時の訂正方法を早くも教え始めていた。

一度失った声は、ここで私一人のものではなくなっていく。

セシリアは開所の茶会へ長居をせず、帰る前に私へ一言だけ告げた。

「私はしばらく、母方の領地で学校の手伝いをしてみようと思います。叔母様に決められた道ではなく、自分で役に立てることを探します」

「お知らせをくださって、ありがとうございます」

私たちの間に抱擁も永遠の友情の誓いもなかった。それでよい。互いに別の道を選べることこそ、今日得た自由だった。

式が終わり、人々が庭の温かい飲み物へ移った後、ノエルが講義室の入口に立った。中央監査部の徽章を付けているため、今日の彼は私の監督官ではない。

「ラングフォード分室長。開所、おめでとうございます」

「ありがとうございます、アシュフォード伯爵」

公務としての挨拶を交わした後、彼は少しだけ表情をやわらげた。

「庭を歩く時間を、もう一度いただけますか」

私は頷いた。

落ち葉の少なくなった小径を歩き、月白草の畝の前で立ち止まる。冬を前に、葉は低く身を寄せていた。

ノエルは、手袋を外さず、私へ向き直った。

「オフィーリア嬢。あなたがここで働き続けることを、私は尊敬しています」

彼は一度、言葉を止めた。冷たい風が葉の間を抜け、看板の新しい木の匂いを運ぶ。

「その生活を手放させたいのではありません。私の職務は中央監査部にあり、あなたの任用評価には関与しません。その上で、これからをともに歩む相手として、私との婚約を考えていただけますか」

嬉しい。

そう思ったすぐ後に、雪の冷たさが指へ戻った。幸せを選んだ途端、また奪われるのではないか。冬至前夜を越えられなければ、返事も未来も途中で消える。

私は逃げずに、その恐怖ごと口にした。

「返事を待っていただけますか。私は冬至の前の夜に、以前の人生で命を失いました。その朝を生きて迎えてから、私の意思でお答えしたいのです」

ノエルの目に痛みが浮かんだが、彼は私の期限を否定しなかった。

「待ちます。あなたが選べる朝まで」

木の香りが残る看板の前へ戻ると、ミナと父が少し離れた場所で待っていた。父は何が語られたかを尋ねず、ノエルが私の職位を祝った後に申し出た順序を見て、静かに一礼した。

私は認可書と最終裁定通知を胸に抱いた。

返事は、死んだ日を生き越えた朝に、自分の言葉で告げる。

ノエルは、その約束を急かさずに受け取った。