軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20. 探索者の権利

ごほんと薫は咳払いをもう一つして場の空気を変えた。

「さて、これで如月秋人が少年であった説明はさせていただけたかと思います。あとはご存知の通り、 偶(・) 然(・) 私が新宿第三ダンジョンで彼と出会い、絶対にその暮らしはおかしいと説き伏せ、調査した結果赤城と坂田の不正行為を発見しました」

さらっと薫は自分の事件を偶然出会ったと表現したが、そうだったっけ?と思った記者も多かった。

「そこで、 探索者連盟(シーカーギルド) 本部に対して如月秋人への不正行為に基づく引退届けを提出しました」

と薫が告げると、その場の全員の顔色が変わった。

秋人が子供だろうと年寄りだろうと、『3S探索者の如月秋人』がいなくなればどうなるか、予測できない人間はこの場にいない。それは日本の破滅を意味している。

「あの、それは必要なことだったのでしょうか?その職員もギルドマスターも、政治家も処分された訳ですし…」

とおずおずと挙手した記者の一人が呟く。

すると、わずかに薫の雰囲気が変わった。

「私が秋人と出会った当時、彼は14歳でした。ほとんど中学校にも行ったことがなく、ろくな生活支援もえられず、初心者の 探索者(シーカー) のような装備で、毎日モンスターを狩れとダンジョンに送り込まれていました。通常の 探索者(シーカー) は週に二度も潜れば勤勉な方です」

薫の顔に怒りが滲む。

「我々は知らなかったとはいえ三度も10代前半の少年にSランクのダンジョンをソロで討伐させている。その自覚はおありですか?」

挙手した記者は赤面して押し黙った。

「これは立派な人権侵害です。 探索者(シーカー) への国家、ギルドによる人権侵害は国際連盟への弾劾請求に該当します。私は彼の代理人として当たり前のことをしただけです」

と薫は厳かに告げた。

「はい。確かに我々は代理人を通して如月氏からの要請を受領しました」

レオネアが流暢な日本語で答える。いつの間にか完璧になっていて、薫は少し感心した。

「内容は酷いものでしたので、調査は簡単でした。ええ、速攻受領しましたとも」

にこりと彼女が微笑む。

薫は内心冷や汗をかいていた。彼女が暴れ出さないか心配だった。本当はブラフォードに座って欲しかったのだが、彼はアルデバルダに帰っていたので、間に合わなかったのだ。マヌエルよりはマシかなと思ったのだが、記者たちの顔色を見るに相当威圧を出している。

「レオネアさん…」

薫が嗜めるように小さく名前を呼ぶと、彼女はニコリと微笑んだ。その目は

「こんな阿呆どもに私のひ孫をおもちゃにさせないわよ」

と明確に語っていた。

「秋人、今からでも面倒くさいようならアルデバルダにきてもいいのよ。お友達や彼女もつれていらっしゃいな。きっとその方が楽しいわ」

彼女の言葉にその場の記者全員がぎょっとしていた。あからさまに引き抜きだが、今の話が本当なら引き抜かれても仕方ない。弾劾は成立したということだからだ。

「ありがとう、レオネアさん。でも僕はまだ日本が好きだよ」

にこりと秋人も微笑む。

「…とこのようにですね、現在如月秋人くんが 探索者(シーカー) でいてくれているのはまったくの『善意』です。彼の自主的な善意を元に、我々は平身低頭お願いしている立場です」

後藤が締めくくると沈黙が流れた。

「私とギルドは彼が如月秋人である事は、彼が成人してから発表するつもりでした。それまでは彼がこれまで経験できなかった当たり前の時間を過ごし、学び、色々な体験をする時間に当てたかったのです」

薫の表情は苦い。 救世来神教(エルミナイト) のことがなければこんな早くに発表する予定ではなかったのだ。

「現在、秋人は 探索者(シーカー) ではなく一般人として学校に通っています。5年間、失った子供時代を取り戻すべく、ごく普通の高校生活を過ごしております。できるだけ私どもはその環境を守りたく思っておりますし、秋人も何事もなければこれまで通り 善(・) 意(・) で(・) 探索者(シーカー) を続けてもいいかと申しております」

薫がニヤリと笑って告げる。

「できればあまり騒ぎ立てず、彼の生活をやさしく見守って下さったらありがたいです」

余計なことは書くな…取材にもくるな…

と薫が圧をかける。

記者もテレビクルーも固まったまま動けない。それはわかっているのだが、みすみすこんな大きなネタを捨ててもいいのかという葛藤が脳裏をよぎる。

一大スキャンダルで、特大のネタだ。下手したら一年この話題で食いつなげる。大衆には知る権利があり、彼らマスコミは報道する権利があるのだ。

Sランク特権とはいえ、薫も桜子も顔も名前も世間に知られている。それくらいはいいんじゃないかという誘惑が彼らの心に忍び込む。

今は伏せられている秋人の顔写真を、もしも手にいれることができれば…おそらく巨万の富が得られるだろう。現在、秋人の顔は認識阻害の魔法のせいで掴み切れないが、記者たちの長年の勘が、こいつはかなり美形だといっている。おそらく、相当に話題になる容姿をしているだろう。

欲望に記者たちの目の色が変わっていたが、薫は冷静だった。

「昨年、私が会見を開いた時に秋人の声明が読み上げられました。しかし、後日その内容や詳細について触れた記事は皆無でした」

薫が意地悪く微笑むと、いく人かの記者やテレビクルーが俯いた。

「秋人は私の尊厳を踏み躙る者は関係者も含めて二度と救わないと、そのメッセージで伝えましたが、お忘れで?」

薫の言葉にぐうの音も出ない。何人かの記者は青い顔で項垂れている。

「その後のニュースや記事は私と桜子さんの話題ばかり。そんな風にご自分たちが書きたいことだけを選んで世間に広めることができるのでしたら、秋人の正体を騒ぎ立てないことも、当然可能ですよね?」

記者たちはさっきまで覚えていた高揚感に、頭から冷水をかけられて黙り込んだ。

「昨今、如月秋人についてあまりよくない印象の報道や記事を見かけることが増えました。あんなに世話になっておいて、一体どんなスポンサーからの指示なのでしょうね?」

薫は、例のアークエンジェルが出演していた番組で解説をしていた男が来ているのを見つけて、しっかりと目を合わせた。彼女たちが彼のことを酷く不愉快な男だったと教えてくれたのだ。

男は真っ青になって俯いた。脳裏にあの謎の金銭が浮かんだ。如月秋人の評判を落として欲しいという短いメッセージと共に振り込まれた金額は、バカにならない額だった。

そんな男や押し黙る記者たちへの明確な脅しだ。

登壇している全員が冴えた恐ろしく厳しい顔で記者たちを見つめている。中でも顔が見えない秋人から発せられる威圧が彼らの思考を凍らせていた。

そんな彼らの様子を見て薫はぽんと手を打った。

「あ、そうそう。表で書いていただいた誓約書なのですが、魔法契約になっております。かかっているのが3S 探索者(シーカー) の如月秋人の安全で平穏な生活ですので、違反されたらそれなりのペナルティが課せられるかと思います」

「え?」

ぎょっとした顔で全員が薫を見る。

「わたしのジョブは審議官。魔法契約はお手のものです。ちなみに私の契約魔法【 契約の門(カヴェナント) 】は等価交換の魔法です」

にこりと悪魔のように薫が微笑んだ。半分だけにもかかわらず、壮絶に美しい笑みだ。

記者たちは自分の命運ががっつり握られた事を悟った。自分たちの『安全で平穏な生活』を差し出す勇気はありますか?とその笑みは語っていた。薫は敢えて具体的なペナルティについて言及しなかった。しなかったからこそ、全員がまるで命を握られたような気持ちになった。

「あ、あの…我々はどうすれば…」

記者の一人が力なく尋ねた。

「如月秋人は思ってたよりずっと若かったけど、大変優秀な 探索者(シーカー) であることは変わりないので、みなさまはご安心をって書けばいいんじゃないですかね?」

と金子がなんともなげやりな助け舟を出す。

「ああ、そうですね。それくらいがいいんじゃないですか」

と後藤も頷いた。

「秋人はどう?」

と薫が尋ねると、彼は「うーん」と天井を見つめた。

「そうだね。それでいいと思う。あ、でも僕もう皆さんの顔覚えたから生活圏で見つけたら声かけちゃうかも」

と笑顔で答えた。秋人の答えに記者一同は震え上がった。誰しも自分がかわいい。全力で秋人の正体についてはあまり触れない路線が彼らの中で確約された。

「これから先、また如月秋人の偽物が出る可能性はありますが、秋人はそういったテロリズム的な行為を一切する予定はありません。騒がずご静観ください」

と薫が締めて、会見は幕を閉じた。