軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19. 顛末

「彼は、かなり巧妙に周囲の他の職員に気づかれないように、秋人くんのことを隠蔽しておりました。彼は当時のギルドマスター、坂田信二と共謀してことに当たっており、表向きは如月秋人の功績としながら、その利益の大半を自分たちの懐に入れていました」

別の記者が挙手して尋ねた。

「坂田氏の逮捕はそれが原因ですか?」

「そうです」

後藤が短く答える。

「他にも内閣内の政治家の何人かに賄賂を送り便宜を図る代わりに色々と非合法な取引を海外などと行っていたことが、後の調査結果で把握されています」

「あっ」

当時の内閣総理大臣の交代劇を思い出し、会場中の記者が嫌な顔をした。

あの無様な辞職騒動は報道関係者がいかに政治家寄りだったとしても、不快な思い出である。

「連中は秋人くんのご両親の遺産を横領するだけにとどまらず、彼を自分たちがいいように使える便利な高ランク 探索者(シーカー) として使役していました」

今度はまた別の記者が代表して質問した。

「なぜ、そんな事を?もっと簡単に10歳の少年ならなんとでもできたでしょうに」

後藤はチラリと巌を見る。彼は静かに頷いた。

「回答を代わらせていただきます。朽木コーポレーション会長の朽木巌です」

彼は静かに瞑目した。

「現在話題に上っているギルド職員、赤城誠は私の一族の者です」

彼の言葉にざわざわと会場が騒ぎ出した。

秋人は心配そうに巌を見つめている。ふっと巌はその視線を感じて秋人に向かって少し笑って見せた。その笑顔には「大丈夫だよ」という気遣いが現れていた。

「朽木家は代々優秀な 探索者(シーカー) を輩出している名門と認識しています。その親族がなぜ?」

今度は別の質問者が立った。

「そうです。それが問題でした。お恥ずかしいことながら、私たちもまったくそのことを把握しておらず、最初にギルドからこの話を聞かされた時に初めて知った次第です」

「!」

秋人は巌を見つめた。秋人の件に気がついて、内部調査していたことにするのではなかったのか?と。

「聞き取り調査を行なったところ、当初、赤城は秋人くんが簡単にダンジョンで死ぬものだと考えていたようです」

巌は苦しそうに答える。

「しかし、そうではなかった。10歳ではありましたが、その時点で秋人くんは既にBランクに等しい実力をもっていた。彼は当時から並外れた技量をもつ 探索者(シーカー) だったのです」

巌は赤城への尋問を思い出す。あの男は劣等感の塊だった。自分がなりたくてもなれなかった高位の 探索者(シーカー) という存在、それを意のままに使えるという優越感に溺れた。

「秋人くんは生還した。どんなに厳しい条件のダンジョンに向かわせても戻ってきた。彼はそれが許せなかったのだと私に言いました」

「なぜ?」

探索者(シーカー) は国の宝だ。日本人ならこんな優秀な子供を大事に思わないはずがない。悪意を抱きようがない。記者はそう思った。

「我々の落ち度です。名門と称される一族の中で、ハズレと言われるジョブを受けた者がどれほど凄惨な境遇に陥るのかということを、これまでまったく把握できていなかった」

巌はあの尋問の時の赤城の顔を忘れることはないだろう。絶望と狂気に長年翻弄され半ば狂っていた。

「我々は血族でも有望な少年少女を10歳前後でジョブを得られるようにしてきました。その方が育成の効率がいいからです。しかし、赤城は世間一般でいうような攻撃力の高いジョブを得られなかった。彼は、自分のジョブが確定してからずっと陰惨ないじめを受けていました」

巌が調査しただけでもかなり悲惨なものだった。まだ両親や弟が味方になってくれた聖夜はマシだっただろう。

「彼は中学を卒業してすぐ家を出てギルド職員になったそうです。それしかできることがなかったと彼は言いました」

赤城が他の仕事につく事を、家族は許さなかった。せめてギルド職員になって 探索者(シーカー) の助けになれ、この役立たずと実の親に罵られたと彼は笑っていた。

「彼は自分より幼い少年が、自分が得られなかった力を手にして活躍している様が許せなかったと。彼を虐待することで、自分にされた行為を 探索者(シーカー) というものに仕返ししているのだと言っておりました」

薫が秋人の手をぎゅっと握ってくれた。それで秋人は自分がようやく息をすることもできていなかったことに気がついた。

「しかし、だからといって彼の行為は許されることではありません。彼は罪を犯した。秋人くんのご両親の遺産を横領し、彼を5年に渡って酷使し、その成果である討伐報酬やドロップ品を取りあげた」

巌は唇を噛み締めた。

「何より腹立たしいのは、彼が秋人くんを偽ったことです。秋人くんに対してご両親の所為で新宿第六ダンジョンは崩壊した。その為、ご両親には莫大な借金が課せられ、それを返さないと罪人として死んでなお裁かれるだろうと嘘をついたのです」

会場のざわめきはピークに達した。

「秋人くんはその嘘を信じた。その所為で赤城に逆らえなかった。あの男は10歳から5年もの間、彼をそんな悪辣な嘘で縛りあげていたのです」

巌は秋人に向き直った。

「もう、ずっと君に謝りたかった。本当にすまない。君がひどい目にあったのは、ひいては我が一族の不徳の致すところだ」

「巌さん…」

秋人が小さく呟いた。

巌は結局以前の薫の提案には乗らなかった。

赤城の行いに気がついていて内偵していたということにして、秋人の後ろ盾になることが贖罪だと薫に言われていた。当時はそれも納得していた。しかし、今は事情が異なると巌は判断した。 救世来神教(エルミナイト) の存在があるからだ。

それは一馬と一緒に相談して決めたことだった。ダンジョンを無くした朽木一族にとっては如月秋人を虐待していたという事実はかなりのダメージになる可能性が高い。

しかし、嘘は交えなかった。

ここで下手な嘘を使えば 救世来神教(エルミネイト) に付けいる隙を与えることになる。何よりもそれは避けたかった。

下手な嘘がバレて、秋人の信用を落とすきっかけになったり、彼や薫を守れなくなることを恐れた。

嘘をつき続けることへの後ろめたさから逃げたいのではなく、秋人の力になるために本当のことを話すと決めていた。

巌たちの覚悟が分かったのだろう。薫はかなり不機嫌な顔になっていた。

「1つ、断っておきますが…」

薫は咳払いしてからジロリと巌を睨む。

「この人はこの事態が発覚した後、速攻で秋人に謝罪をし、全財産を譲るというありがた迷惑な書類を持参してきました。お断りしましたがね。そのあと 探索者(シーカー) として知識不足な保護者である私を案じて、秋人の後ろ盾になり、現在も影に日向に支えてくれております。おそらく、私が把握している動きの3倍以上はなされているでしょう。この件で、朽木家に対して我々は何ら求めるつもりはありません」

「僕も、巌さんたちのことはすごく好きです。いつもいろいろ便宜をはかってくれますし、朽木家のみんなはすごく優しいです。うちのパーティーには朽木家のエースがいてくれていつも助けてくれてます。彼は僕にとっては兄のような人です。そして、巌さんは親戚のおじさんみたいな人です。だから悪く書いたら怒ります」

怒るんだ!と最後に秋人が付け加えた言葉に、記者は全員固まった。

薫はさらに渋い顔で付け加えた。

「ここまでこの件を公にしなかったのは、秋人の私生活を守るためです。悲劇のヒーローのようにマスコミに騒がれるのを避けたかった。けして、ギルドの権威や朽木家を守るためではないことも追加しておきます」

聞いていたマスコミは、いかにもお前らの所為だと言われて不本意ながらも、前回の件があるので強く追及できなかった。