作品タイトル不明
18. 如月秋人
会場中が針が落ちる音も聞き逃さないほどの静寂に包まれている中、薫が静かに語り出した。
「先日の渋谷セントラルスクエアでの戦闘時、トラブルがありまして。有り体に言えば私がテロリストに誘拐された所為で、こうして会見を開くことが遅くなりましたことを心よりお詫び申し上げます」
薫が座りながら頭を下げる。それを秋人は不愉快そうに見ていた。
会場にいる記者全員が秋人の顔を把握できない状況なのだが、彼の機嫌が非常に悪いことだけは、ひしひしと伝わってきた。思わず、先日の会見を思い出して胃がキリキリと傷んだ記者もいた。
「先日、政府、ギルド、東京都、テレビ局に対して爆破予告が『如月秋人』名義で行われました。当然、我々にとっては寝耳に水のことですので、ギルドからの要請にしたがって排除にかかりました」
金子の言葉が続いた。
「その折、こちらの如月秋人ともう一人のメンバー、朽木当夜とで爆破を試みていたテロリストを確保したのですが、残念なことに他にも地上に複数名潜んでおりまして、神崎ともう一人の一般人が略取された次第です」
あまりにも淡々と説明されて、記者の方が若干引いている。
「その後、すぐに私と一般人はこちらの如月秋人の手によって救出されたのですが、まあ相手はテロリストなのでね。こんな有様でして」
薫は、包帯だらけの左手を振って見せた。
思わず記者の一人が挙手した。
「あの、傷の詳細をお伺いしても?」
「はい、左眼球破裂および左手指外傷性切断です」
聞いた本人が痛そうに顔を歪める。ざわりと会場が揺れた。
「幸い、私の婚約者が所属しているパーティー、アークエンジェルには優秀な回復魔法師の庄司リサさんが所属されているので、現在は欠損は回復しております。しかし、まだ術式が固定されておりませんので、申し訳ありませんがこんな 形(なり) となっており、お見苦しい限りですがご容赦願います」
薫が静かに微笑むと、隣の秋人が不機嫌を隠さない声を挙げた。
「本当は薫は今こんな席に出られる状態じゃないんです。そこを押して、わざわざ、仕方なく、無理やり、医者が止めるのも無視して、あなた方がしつこく追及するから、こんな会見を開いているんです。そこのところを理解していただけると嬉しいです」
少年独特の声音だった。もしかしたら、すごく若く見えているだけで本当はちゃんと成年なのでは?と思っていた記者たちは言葉を失った。
「あの、そちら本当に如月氏なのでしょうか?その、申し訳ないのですが、同姓同名のご子息という噂もあるのですが」
と違う記者が挙手をしつつ質問する。周囲の記者の何人かが「うんうん」と頷いていたが、ベテランの記者は「うわー」という顔でその質問者を見ていた。彼らの中には如月秋人が少年であるという事実を既に把握している者もそれなりにいるのだ。
「僕に隠し子がいたことはありません」
と秋人が答え、質問者をジロリと見た。顔はわからないのだが、その威圧だけで記者はヘナヘナと椅子に座り込んだ。周囲の記者も顔色が悪い。
「秋人、だめだよ」
「だって、この人たち全然分かってないから」
「俺は大丈夫だから。これが終わったらちゃんと病院に戻るから」
嗜める薫の言葉に、秋人は唇を尖らせた。あからさまに少年の仕草だ。
「えー、ご覧のように如月秋人は少年です。現在16歳となります」
と金子が言うと、記者席からは悲鳴のような声が上がった。
挙手が複数上がる。
「そちらの、黄色い服の方」
と金子が指名すると、その記者は立ち上がった。
「東都新聞の小金井です。失礼ですが、とうてい納得できません。それでは、如月秋人が初めてダンジョンを征伐したのは10歳、Sランクの最初の一つは11歳となってしまう!ありえません!」
彼の言葉にその場の記者がうんうんと頷く。
「そのことについては、私から説明いたします」
後藤が静かに宣言した。
そして、秋人が子供の頃からSランクの両親に連れられてダンジョンで過ごしていたこと、そのためわずか10歳で既に覚醒していたことを説明した。
「法律上、 探索者(シーカー) になる年齢制限はありません。我々としてもその時点でもっと把握しておくべきだったのですが、Sランクの 探索者(シーカー) は皆かなり…こう、変わり者…いや失礼、奇特な、いや、うーん、まあ不思議な考え方の方多いので。一応学校にも所属しておりましたし、危険なダンジョンへの依頼の場合はシッターに預けていたというのは聞き及んでおりましたので、ちょっとアンタッチャブルな部分でありました」
後藤の苦しい言い回しに秋人と薫は憮然とした表情を浮かべた。おそらく、後藤のいうSランクの奇特な考え方の 探索者(シーカー) は自分たちのことである。
「しかしですね…それでも」
言い募ろうとする質問者に後藤は静かに大きくうなずいた。
「そうです。とうてい人道的に許されることではありません。しかし、当時の如月秋人くんが 探索者(シーカー) の力量を持っていることを知っていたギルド職員が、たった一人だったことが、今回の事態の最大の要因となりました」
そして、後藤は秋人の両親があまり人前に出ることを好まなかったこと、それで専属のギルド職員とだけやりとりをしていたこと、さらに秋人のことを彼その1人の職員だけが知っていたことを語った。
「6年前、如月春彦さん、夏実さんの両名、そしてこの秋人くんは新宿第六ダンジョンへ潜っていました。そこで大きなダンジョンブレイクが発生したようです。両名は死亡。夏実さんの施した封印により新宿第六はSランクダンジョンとしては異例の封鎖状態となりました。そして、そのことを知らせるために秋人くんがそのギルド職員の元へ救援を求めてきたのがことの始まりでした」
会場は静まり返って後藤の話を聞いていた。
「その職員は、秋人くんのご両親の遺産を横領をすることを企みました。小国の国家予算にも匹敵するような莫大な遺産です。魔が差した…ということでしょうが、彼の行いはあまりにも悪辣でした」
秋人は後藤の話を静かに聞いていた。
「彼は秋人くんを始末する計画を立てましたが、そこでかなり残酷な方法を思いつきました」
ぎゅっと秋人が拳を握る。その上に薫がそっと手を乗せた。
「秋人くんを謎の 探索者(シーカー) に仕立て上げ、危険な場所に送り込み死なせることを考えたのです」
後藤の言葉に会場は息を呑んだ。
「それが、みなさまのご存知の『3S 探索者(シーカー) の如月秋人』です」
薫がその言葉を告げると、会場中に悲鳴が満ちた。