作品タイトル不明
9. 爆破予告
そうこうしていると、薫の携帯が震えた。バイブにしてあったので音がしなかったから気が付かなかったが、30分ほど前から何度か入っていたらしい。送信相手の名前をみて薫が眉を顰めた。
「後藤さんからだ…」
薫が携帯に出ると、あちらから切羽詰まった声がした。
『お休みのところ、申し訳ありません』
という硬い声に薫は嫌な予感しかしなかった。
「どうされました?」
『如月秋人から爆破予告がきました。あなたは彼のパーティーメンバーなのでご連絡せざるをえず』
「そりゃあそうですよ。大丈夫です」
もちろん後藤はこの如月秋人が偽物だとは知っている。ただ、その声明はギルドにだけ届けられたものではなかった。政府、東京都、テレビ局に向けて発信されていた。
後藤は以前に薫に緊急招集するときは秋人に知られないようにしろという薫の要望を受け入れた形になっていたが、今回はそうは言っていられない事態だ。
この内容で如月秋人のパーティーリーダーに連絡を取らないは通らない。そこは薫自身も納得済である。
「爆破予告はどこに?」
と薫が尋ねると、後藤は苦い顔をした。
『渋谷セントラルスクエアです』
薫が額を抑えて呻いた。それなりに近い距離だ。
「すぐに向かいます」
『こちらからは、偽物の如月秋人の声明であることをプレスリリースを出す準備をしています』
「わかりました。文面をチェックするのでメールで送ってください」
薫は電話を切り、その場のメンバーに事件の内容を説明した。
秋人は難しい顔をしている。先日の薫との会話を覚えていたからだ。しかし、当夜や金子たちはどうしてそんなイタズラにここまで薫と秋人が深刻な顔をしているか理解できなかった。
「訳あってね。そろそろ秋人の偽物がでるんじゃないかと思ってたところだったんだ」
と薫が説明する。
「訳あって…ってところがやばい話そうだな」
薫の性格を知っている金子がため息を吐く。
「美香と冬由を家に届けてくる。その後薫のとこに跳ぶから先に行ってて」
と秋人が告げる。薫と当夜は頷いた。黙って聞いてた金子は
「俺も一緒に行く。回復役がいた方がいいだろう?」
と言い出した。
「いや、お前はまださほどレベルあがってないだろう。危ないし」
と薫が慌てて止めたが、
「レベルは22だ。固有魔法も二つ使える」
と言うので驚いた。
「いつの間に?」
「小早川さんと幸田さんが潜る時に一緒に連れてってもらってる」
「そっか」
薫が賢治をどうするか悩んでいると、
「失礼」
と声をかけてくる相手がいた。
「わたし、ギルドの護衛です。お三方をご自宅までお届けします」
と彼は請け負ってくれた。秋人は少し躊躇ったが
「大丈夫。これがあるから行ってきて」
と美香に指輪を示されて頷いた。
しかし、冬由が一歩前に出る。
「その金子とかいう男の護衛がいるでしょ。私を連れて行きなさい」
と言う。薫と秋人は戸惑ったが確かに金子の近くにいてくれた方がありがたいので、ギルドの護衛には賢治と美香の送迎をお願いして、残りは渋谷に向かった。
渋谷に着くと同時に秋人は索敵範囲を大きくした。『如月秋人』を名乗る偽物がどの程度の魔法を有しているか分からないが、魔法がないということはないだろう。
「やばい、結構多い」
秋人はため息を吐いた。休日の渋谷である。 探索者(シーカー) だって遊びに出かけている。それなりの魔力を有している人物は30人を超えている。とてもじゃないが、一人一人確認する訳にいかなかった。
「渋谷スクランブルスクエアってあの背の高いビル?」
と秋人が薫に尋ねたので薫はその方向を降り仰いだ。彼は能力的に索敵に関してはまったくこれっぽっちも役に立たないので、 片眼鏡(モノクル) を装着している。若干厨二的な見かけになるがこの際仕方ない。
「秋人、当夜、あの辺に何かいるか?」
薫はビルの半ばあたりを指差した。
「え?」
当夜と秋人は薫の指さす方向を見つめてみたが、何も感知できない。薫は 片眼鏡(モノクル) を外して秋人に渡した。
「あ、ほんとだ。何かいる」
秋人は自分が作ったはずの装置を外したりつけたりして確認している。
「アイツはもしかして人間の知覚を狂わせるような能力があるのかもしれないぞ」
と当夜は言った。 片眼鏡(モノクル) は人の知覚を通さない。なので、見えるのではないかということだ。
秋人は、さきほど感じた死んだ人の魔力を思い返した。何か幻惑されているのだとしたら、腹立たしい限りだ。
「やな感じだな」
と吐き捨てる。当夜もぱしっと拳を打ち合った。
「大変です!たった今渋谷セントラルスクエアに爆破予告がありました!」
テレビ局は騒然となった。桜子たちアークエンジェルも中継のモニターに釘付けだ。
「なんと、『如月秋人』氏名義で爆破予告が送られております」
とアナウンサーが大興奮で叫ぶ。
「はあ?何のイタズラ?」
と桜子が思わず呟いた。
そりゃあそうだ。あの少年が爆破予告などするはずがない。そもそもあの思い切りの良い弟子は、やるなら予告などまだるっこしい事はしない。即行で有無を言わず徹底的にやるだろう。それも薫に迷惑をかけないようにである。
「アークエンジェルの皆さんは如月秋人氏にはお会いになったことがあるんですよね?」
と解説の胡散臭いコメンテーターが話を振ってきたので、全員「うん」と頷く。
「どうですか?」
「どうとは?」
と康子が静かに聞き返す。
「いえ、爆破予告ですが、本物ですか?」
「偽物ですね」
あっさりと康子が答えた。
「どうしてそう思われるんですか?如月秋人って謎の人物じゃないですか」
とさらに追及してくる。アークの全員の頭上に「何だこいつは?」というイラっとした文字が浮かんだところに、さらに大音響のアナウンサーの声が被った。
「ああっと!何やら動きがあった模様です!!」
またもスタジオはモニターに集中するターンだ。
モニターの中、超高層ビルを跳躍しながら駆け上がる二つの人影。
「なんと!ニャンタです!ニャンタが出現です!!」
アナウンサーの言葉と同時にモニターがその人影の一つをアップにするも、画像が乱れて顔はよく見えない。しかし、しっかり猫耳帽子は映った。
「ごふっ」
桜子が笑いを堪えきれず咳き込む。
「あれって、デステニーワールド限定じゃないんですかあ」
とアイドルのゲストが驚きの声をあげた。
「ニャンタというのは、つい先日のデステニーワールドにて早々に現れて大活躍だった猫耳の 探索者(シーカー) ですね」
と女子アナがしたり顔で解説するも、アークの全員が真顔をキープするのに大変苦労している。
「桜子、なんで秋人くんあの 帽子(キャップ) 被ってんのよ。眼鏡あげたんでしょ」
康子が笑いを堪えている桜子の脇腹をつつく。
「壊れたの。今修理中だから仮であれに付与してもらったんだけど…」
マイクが拾えないような小さな声での会話だ。
映像の中で猫耳の秋人がビルの途中あたりを切り付けると、さきほどまで何もいなかった空間に中年らしき男の姿が現れた。
「ニャンタの攻撃で怪しい人影が現れました!あれが如月秋人(仮)でしょうか!?」
とアナウンサーが怒鳴り散らす。
画面の中の当夜と秋人は交互に相手に攻撃を入れる。当夜の拳で相手の動きを確実に抑えて、秋人が次の一手を打った。
秋人の攻撃は流麗で美しく、剣先のブレもなく簡単に曲者をビルの壁に縫い留めた。その技は曲者を内臓などを避けて突き刺して動きを止める剣技で、主にダンジョンなどで探索者崩れの連中に桜子がお見舞いしていた技である。
アークのメンバーもよく見知った華麗な技を、秋人が再現してみせたのだ。
「おお、 霧崎流(きりさきりゅう) 刺突磔剣(しとつたっけん) じゃん。さすがあきとっち。もう完璧だね、桜子師匠」
ヨナの言葉がスタジオ中に響いた。
「え?」
ヨナの顔色が青く変わる。アークの全員も同じく真っ青だ。
「え?マイク?え?切れて…うそ」
慌ててヨナが自分のマイクを確認する。
「やべえ、神崎センセーに怒られる!!」
康子は頭を抱えている。そして、桜子は天を仰いだ。
「へえ、こっちの少年が如月秋人なんですかあ」
と、呑気そうでぼんやりしてるはずのアイドルが鋭く突っ込んだ。