軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6. 陰謀

秋人が指輪を渡し終えて帰宅すると、薫が難しい顔でソファに座っていた。

「ちゃんと門限前に帰ってきたよ!」

と思わず宣言したのだが、薫は秋人の帰宅に気がついていなかった。

「あ、お帰り」

と薫が慌てて笑顔を作るが、秋人は嫌な予感がして薫の腕を掴んだ。

「僕に関係する事で悩んでる?」

と尋ねると、薫は少し躊躇ったが珍しく頷いた。どうやら話をしてもらえると知って、秋人はほっと胸を撫で下ろす。自分の知らないところで、薫が自分のために消耗するのは嫌だった。

薫としてはもう少し確信を得てからにしたかったが、もしかしたらあまり時間がないかもしれないという懸念が強かったのだ。

「秋人…もしかしたらなんだけど…」

「うん」

「例の隠し子の噂、 救世来神教(エルミネイト) が流してるかもしれない」

秋人の目が大きく見開かれた。

「俺やギルドは秋人が少年であることは、お前が成人するまで世間には隠すつもりだ。まあ、がちがちに隠してはいないよ。いかにも秘密ですってやると疚しいことがあると思われるのが世の常だからね」

薫の言葉に秋人は大きく頷く。それは秋人も知っていることだ。

「だから、政治家とか記者の中には秋人が実は少年で、ギルドが虐待紛いのやばいことをしてこき使ってたこと、それに一部の政治家が関与してたこと、今は平身低頭して 探索者(シーカー) を続けてもらってるってことを知ってる人はまあまあいるんだ」

「そうなの?」

意外だった。秋人はてっきり誰にも知られていないのだと思っていたのだ。

「うん。ただ、俺たちは明確にメッセージを出してる。『黙っててくれますよね?』って。それを無視して、秋人が少年だって騒ぐメリットが彼らにはないから黙ってるだけだな」

「記者さんたちには、僕が子供だっていうのは大スクープなんじゃないの?」

秋人の言葉に、薫はうんと頷いた。

「そうだね。でも、それで大スクープを発表したとして、ギルドも秋人も機嫌を損ねた場合、そこの出版社が今後生き残れるかってことだね。一瞬は儲かるかもしれないけど、その先は?結構厳しいって経営判断してるんじゃないかな」

「なるほど」

秋人はふむふむと薫の言葉を吟味した。

今の所、薫や後藤の思惑通りことは進んでいる。秋人が少年であることは一部の人にしか知られていない。このまま順調にいけば、秋人が18歳になるまで秘密にしておけるだろう…そう思っていた。

「だから、すごく俺もギルドも見落としてたんだけど…じゃあ、秋人が『如月秋人』であるっていうのはどうやって世間に証明するのかってことだ」

「ギルドカードは?」

「同姓同名のSランク 探索者(シーカー) かもしれないって、いちゃもんつけられたら困っちゃうだろ?」

「そんなの二人もいる?」

秋人の問いかけに薫は少し首を傾げた。

「そこで、例の隠し子説が生きてくる訳だ。秋人が如月秋人と同姓同名なのも、Sランクの 探索者(シーカー) なのも親子関係があるからだ、遺伝だ、血の繋がりだってことにされてしまうかもしれない」

「・・・・・」

秋人自身は別に己の功績をひけらかすつもりも、恩を着せるつもりもないのだが薫は違った。

「秋人が如月秋人であるということは、実は大きな保険なんだ」

「ほけん?」

薫は少し躊躇った。

「もしも、秋人が何か本当にショックな出来事で、魔力暴走なり何なりで外部に大きな被害を出した時に、俺はそれまでの功績を盾にするつもりだった」

「・・・・・・」

「俺と後藤さんの中でそういう決まりになってたんだ」

秋人が何とも言えない顔で押し黙った。

「秋人を信用してないって訳じゃないのはわかってくれるよな?」

「うん」

小さく頷く。確かに薫が殺されかけた時や美香が目の前で殺されかけた時、秋人は自分の中の何かのリミッターが外れるような恐ろしい気配を感じていた。すさまじいまでの破壊衝動。この世の全てに対する憎悪で埋まりそうだった。

あれが解き放たれた場合、確かに並大抵の被害では済まないだろうという自覚はあった。

「うまく封じ込まれた。おそらく赤城を始末したのもそれを考えてのことだろう」

薫が厳しい顔をしている。証言できるのは赤城ともう一人しかいない。

「坂田さんは?」

秋人が元ギルドマスターの名前を出すと薫は苦い顔をした。

「さっき後藤さんから電話があってね。刑務所で遺体で発見されたそうだ」

「・・・・・・」

「連中の手足の長さにはほとほと参るな」

ふっと薫が大きく息を吐いた。忘れた頃にやってくる。

「秋人を『3S 探索者(シーカー) の如月秋人』だって証明するのは、存外難しい」

「そうだね。音々さんもすごくショックを受けてたもんね」

秋人はつい先日訪れた汚部屋工房を思い出していた。あんなに嘆かれるとは正直思っていなかった。

「普通若い方が嬉しいんじゃないの?」

と秋人が通説のようなことを言うが、薫は苦笑する。

「まあ、それだけ如月秋人への信頼感が大きいんだよ。ある意味日本の最後の切り札だからね」

「僕の容姿じゃ迫力不足ってことか」

「俺はそう思わないけど、世間的な評価かな」

秋人は自分の体をペタペタと触ってみた。華奢で頼りないのは否めない。

「僕もっと筋肉つけて当夜みたいな『男!』って感じになった方がいい?」

「いやあ。どうだろう。そもそも骨格が全然違うからなぁ」

薫が苦笑するのも無理はない。秋人はこの一年で見違えるほど健康に見えるようになったが、それでもどっちかというと華奢で細長いのだ。

これはもうそういう体格なのだろう。

「秋人のお父さんはどんな感じだった?今はお母さんに似てる部分が多いと思うけど、だんだんお父さんに似たところも出てくると思うよ。あんまり覚えてないか?」

「うーん」

父の顔はまだぼんやりとしている。

巌にもらった写真を見ているのでディテールはわかるはずなのだが、不思議と霞がかかるのだ。

ふと、まるで認識阻害の魔法にかかっているようだと感じた。

「体つきは、そうだなぁ、当夜みたいなごっつい感じじゃなかったかも。細くて硬い感じだった」

「じゃあ、秋人はやっぱりそういう体型になりそうだな」

薫の言葉に秋人はがっくりと肩を落とした。

「背は伸びたんだけどなぁ」

「まあ筋肉もそのうちついてくるよ。桜子さんに毎朝稽古つけてもらってるんだろ?」

「うん。でも、筋力も体力も師匠の方が上なんだけど」

「それは、まあ仕方ない。あの人は俺を担いで首都高全力疾走できるからな」

二人はなぜかここで深くため息をついた。霧崎桜子はおそらく人類最強である。

「まあ、一番怖いのは」

薫はふと気持ちを切り替えて言い募る。

「如月秋人の偽物が出ることだな」

薫の言葉に秋人は一つ身震いした。

偽物はもしかしたら父によく似ているのではないか…と、そんなことを思ったからだ。

母はエファネルから生み出された。

では父は?

おそらく同じくらいにおぞましく、非道な行いの元生まれてきたのではないか?

そんな気がした。