軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24. 断罪

元宮は首都高封鎖が解除して1時間後に、都内のラブホテルの一室で悲惨な姿で発見された。

突如現れた死神のようなものに足を切られたと彼は言い張ったが、そんな怪我はどこにもなかった。しかし、彼はそれから一歩も歩くことができなくなっていた。

彼は恐怖に震え、吐いた汚物の中で涙を流していたという。その部屋にはカメラやビデオが用意されていて、違法な薬も発見された。

「ロクなことしようとしてなかっただろ」

通報で駆けつけた警官は、元宮の用意したものを見て吐き捨てた。

それからすぐに親元に連絡が入った。

元宮は元宮建設という大手ゼネコンの一人息子で、今までなら息子の不祥事は親が金を積んだり、マスコミを操作したり、最悪の時は政治家に献金をちらつかせて揉み消していたが、今回はどこの政治家に頼んでも誰も動いてくれなかった。

中の一人がその理由を教えてくれた。

「いやあ、総理がね、おっしゃるんですよ。今回の犯人を庇ったらダンジョンに捨てられるぞってね」

その言葉は、永田町に生息している誰に対しても、暗黙の不文律として知られている。

絶対に侵してはならない相手の逆鱗に触れるぞという警告なのだ。

後日、元宮の罪状が次々と暴かれた。例の大学生たちは元宮が女の子を襲う時にいつも使っていた連中だったので、芋蔓式に他の犯罪も明るみになったのだ。

性犯罪は取り扱いが難しい。美香の誘拐の件もあったので、薫は慎重に他の被害者に聞き取りをした。中には男性がすっかり怖くなって引きこもっている女の子もいたが、そういうケースでもだいたい薫とは話せる。

「この時だけは自分の顔に感謝だな」

と薫は言うが、薫の中に一切自分に対する性的な興味を感じないからではないかなと、金子などは思っている。薫は相対する人の鏡になることができる弁護士だ。そこを金子は恐ろしいと感じることがある。薫は敵対するには大変な弁護士なのである。

連中の話していた通り、写真や動画などを撮られて酷い扱いを受けていた女性もいた。そういう子たちは自分の写真がデジタルの海に流されることを恐れて、元宮たちの言うことをきかされていたのだと言う。

薫は秋人に頼んでその元データを抑えた。元宮が警察で事情を聞かれている間、こっそり秋人の手を借りて不法侵入して 審判の眼(ハイ・スコープ) を使えば簡単にデータがどこにあるか把握できた。

薫はそれらを被害者の女性に手渡した。

「これ以外は全部消したから、もう大丈夫。私はSランクの 探索者(シーカー) の魔法師なので、ちゃんと残らず始末しています。最後の1つもここで消しましょう」

と言うと家族とともに泣き崩れた子もたくさんいた。

子供を甘やかして庇っていたということで、元宮建設の信用は地に落ちた。

元宮自体もおそらく無事では済まないだろう。訴えられる可能性が高かった。

しかし、それよりも何よりも彼を打ちのめしたのは、彼がもう二度とサッカーができないということだった。

「先生、俺の足、俺の足は?」

医者に縋って呟く元宮に医者は困ったような顔をした。

「いや、それがね。不思議なことに何をやっても一向に改善しないんですよ。血流も滞りはじめてますし、このままだと切断するしか…」

「いや、いやだ!やめてくれ!嘘だろう!」

元宮は発狂したように医者に掴み掛かろうとしたが、立ち上がることさえできなかった。

「いっそ殺してくれ」

と彼は呻いた。

彼の前にはこれから先の人生を二度とサッカーをすることができない現実だけが横たわっていた。

あの弁護士は言ったではないか。違約した場合は命よりも大事なものを失うぞと。

元宮はようやく魔法契約の怖さを理解した。

「こんばんわ」

夜、自室で縮こまっていた元宮の元に、一人の少年が現れた。

「お前…」

元宮はその相手を見つめて憎悪を滾らせた。

秋人が窓から侵入してきたのだ。高級マンションの高層階だ。どうやってこいつはここへ来た?ふと元宮はそのことに気がついた。

「ど、どうやって?」

怯えた声に秋人は「ああ」と首を傾げた。

「普通の住居の窓なんて僕らからしたら、開いているドアにも等しいですよ、先輩」

秋人は笑って窓枠に腰を下ろす。睥睨するように元宮を見つめた。

逃げることも立ち上がって襲いかかることもできない。元宮はまな板の上の鯉だ。恐怖で声さえでない。

「あ、騒いでも無駄ですよ。消音の魔法をかけたので、外に声は漏れません」

にこにこと笑顔の少年。如月秋人はこんな雰囲気の男だっただろうか?

教室でも試合の時でもこんな薄い氷を纏った狂気を感じることはなかった。

ごくりと元宮は喉を鳴らした。

「お、俺を殺すのか?」

彼は思わず呟いた。命乞いをしようかと思った。恐怖で目尻に涙が浮かぶ。しかし、そんな様子の元宮を見て、秋人は首を捻った。

「うーん、殺すつもりはないです。だってあなたこのまま生きていく方が辛いでしょ?」

秋人の言葉は真実だった。元宮の輝かしい人生は音を立てて崩れ、敗残者としての生活だけが残されている。家もおそらく没落するだろう。近々このマンションも引っ越し予定である。

「本当は、もっとぼっきぼきに折るつもりだったんですが、もういいかな」

秋人はふっとため息を吐いた。

美香や薫の「弱い者いじめはだめだ」という声が聞こえるような気がしたのだ。

ただし、これだけは譲れない。

「今後、二度と僕の大事な人の名前を呼ぶことは認めません」

秋人はそう宣言した。

「それだけ?」

元宮は理解した。秋人を心底怒らせ、こんな風に自分を破滅させた原因は、自分が美香のことを『自分のモノのように呼び捨てにした』たったそれだけのことだったのだと。

「それだけって言うけど、自分にとってたわいもないものが、誰かにとっては絶対に踏み躙ってはいけないものだってことがあるってこと、あなたは理解した方がいい」

秋人はそっけなく答えた。

「もしも、理解してすごく反省するなら、パラリンピックは邪魔しないよ。反省したらだけどね。まあ、無理かな」

秋人は去り際、そう呟いた。

「誰かがあなたの行いをずっと見てるよ」

秋人はそう呟いて、窓から去って行った。

元宮は死神がすんでのところで去って行ったことを悟って、がくがくと震えた。

心の底から安堵した。

そうして、さっきまで「死んだ方がマシ」だと思っていたのが嘘のように「死にたくない」と願ったのだった。