軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25. 信用

階下に降りると複雑な顔をした薫と、落ち着いた様子のレオネアが立っていた。

「ね、私の言った通りでしょ。秋人はいい子。私と違って絶対に殺したりしませんって」

レオネアの言葉に、秋人は大きな目をさらに大きく目を見開いた。

「それは分かってます!けど、一緒に行くつもりだったんです!!」

薫がぶちぶちと怒っている。

「可愛い子には旅をさせろです」

と彼女が嘯くと、薫はふうっと一息ため息を吐いた。

「そうですね。俺もちょっと反省します」

薫が寂しそうに笑った。

子離れしろとレオネアに忠告されるのは、かなり痛い。ものすごくリアルで痛すぎる。彼女の実感がこもり過ぎていて、頷かざるを得なかった。

「帰ろうか」

と薫が手を差し伸べた。秋人は一つ大きく頷いてその手をとった。

さて、轟学園では元宮の一連の騒動で一時騒然となった。

球技大会のあと、佐紀が担ぎ込まれ 探索者(シーカー) である薫や桜子が血相変えて飛び出したのだ。何かあったと誰でも思うだろう。

「美香が攫われたってほんと?」

と友人たちは心配したが、

「神崎先生と桜子さんが助けに来てくれたの」

と言うと皆美香の幸運を喜んだ。

「そっか、如月くんの応援にきてたからすぐ動けたんだ。よかった」

華や輝美は泣いて喜んだし、クラスメイトは胸を撫で下ろした。美香だけは本当は秋人が助けてくれたんだよと言いたかったが、それは言えないので黙っていた。

あまり話さないのはきっと怖かったからだわ!と女子が全員庇ってくれたのがありがたかった。

2ーBの生徒は秋人が飛び出して行った時点で結果を心得ていた。

秋人が美香を救出してから学校に帰ってくると、彼らは何事もなかったように準優勝のお祝いを始めた。

「秋人おおおお、負けちゃったよおおおおお」

委員長が号泣している。

「優勝賞金!食堂の食事券三ヶ月分がああああ」

「いや、委員長。それ横流ししてお金に替えるの禁止されたからね?」

と明子が作原を咎めている。

残念ながら決勝戦はバスケットで、3ーBに敗れたのだ。まったくのダークホースだった。

「くうう、最後にバスケ部のレギュラーだらけのチームに当たるなんて」

と委員長が嘆いていた。あちらの作戦勝ちだった。

「秋人、来年はバスケも練習しような」

と委員長が言う。秋人も素直に頷いた。来年の約束はいつでも秋人を喜ばせる。しかし、

「来年も同じクラスなんだろうか、俺たち」

と織田が遠い目をしていた。これではいつまで立っても失恋で、新しい恋へなど向かえないと嘆いていた。

「なんつーか、逞しいな、おい」

と当夜がその様子を見て突っ込む。呆れたように冬由が呟いた。

「あんたもね」

結局、マヌエルの治療魔法だけでは佐紀の傷を全部癒すことができず、当夜が冬由のブレスレットを外して彼女の治療に力を貸した。それで、冬由は魔力切れで動けなくなったので、当夜の背中に負ぶわれているのである。

「あたし、 救世来神教(エルミネイト) の工作員よ。あんたの心臓なんて素手でも貫けるんだからね」

と背後から冬由が豪語するも、当夜は笑って「そりゃ怖い」と言うだけだった。もう冬由は立てないくらいフラフラなことを、おそらく分かっているのだ。

「バカみたい」

どうしてだろう。

秋人の周囲の人間のそばにいると、いつの間にか泣きたくなる。

どうやってもどうしようもないことなのに、何も知らないただの妹として生まれたかったという気持ちにさせられる。

そんなことはありえないのに…

冬由はぐっと唇を噛み締めた。当夜は背中が濡れても何も言わなかった。

家に帰ってから秋人は佐紀のお見舞いに来た。佐紀はもう全然元気だったのだが、やはり治療魔法を大量に浴びたので、体力をかなり消耗した。しばし休養が必要とのことで会社には戻れなかった。

説明を薫から聞いた社長と叔母が飛んできたが、怪我はなくて休んでいれば問題ないという説明で安心して帰って行った。

「お姉ちゃん、これ」

美香がイヤホンを渡すと佐紀は嬉しそうにそれを受け取った。

「よかった!最悪車ごと無くなるんじゃないかと心配してたんだ」

と喜んだ。

「いや、誰が持ってるか分からなかったから、とりあえず車が燃えないようにはしてたんで」

と秋人が淡々と説明するので、姉妹はちょっとだけ困った顔をした。

どうやら、秋人の中ではあの連中の命より、このイヤホンのプライオリティの方が高かったらしい。

「美香を助けてくれてありがとうね」

と佐紀が言うも秋人は複雑だ。

「美香が危ない目にあったのは僕の所為です。あんな賭けをするんじゃなかった」

秋人はおおいに反省した。あんな奴には負けない、負けるはずがないと思っていたが思わぬところで足を掬われるハメになった。

油断大敵である。無駄なヘイトを稼ぐのはよくないことだと、心の底から実感した。

「それでも、秋人くんがいなかったら、あの男はいずれ美香に手を出してきたと思うよ。いやらしい顔してたじゃん。ぜったい美香のおっぱいを(自主規制)したいとか妄想してたよ。かー!むかつく!!きも!」

と佐紀がいやらしい手つき付きで叫んだが、なぜかそこで二人が茹蛸のように赤くなった。

「え?何?その反応?」

佐紀は思わず呟く。

「ちょっと、君たち。まだ高校生なんだからね!分かってる!?あんまり進むと神崎先生にちくっちゃうからね!キスくらいまでにしときなさいよ!」

美香が慌てて否定する。

「だ、大丈夫!まだやってない!」

「まだっ…てあんたたち」

佐紀が頭を抱えている。

「神崎先生に言いつけるからね!」

「待って!それは!ちょっと困る!!」

美香と秋人が同時に叫んだ。やましいことは何もしてないのに告げ口されたらたまらない。

ほんのちょっとだけ、不埒なことを思っただけだ。

今度のお休みにデートに行こうかとか、ちょっとのんびり二人だけになれそうなところに行こうかとか、もうちょとしたら指輪ができるからそれを渡してそれで、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ…ぎゅっとしたいなと思っただけなのだ。

「かんざきせんせー」

佐紀が電話に向かって叫んでいる。秋人と美香は止めさせようと必死だ。

話を聞いて飛んできた薫が

「節度あるお付き合いをしなさいって言っただろ!!」

と叫んでくるまであと5分である。