軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15. 職人の会話

大塚はどかどかと部屋に入ってきて、秋人の肩をばんばんと叩いた。

「おうおう、久しぶりじゃないか。くたばったかと思ったぜ」

機嫌良く笑顔でそんな乱暴なことを言うも、目には最大級の好意が浮かんでいた。

「お、先生も。別嬪さん連れて両手に花じゃねえか」

と薫に向かってにかっと笑う。薫は苦笑を浮かべつつも丁寧に頭を下げた。

「先日は焔の桜をありがとうございました。桜子さんもすごく気に入ってくれてます」

との薫の言葉に、ふふんと鼻を鳴らす。

「そりゃあ、そうだ。俺を誰だと思ってる。人間国宝・大塚幹久だぜ」

自慢げにそんな事を言うが、つい最近までその肩書はこの老人にとって煩わしいだけの物だった。今は違う。

「へえ、じゃあ日本で一番魔石の加工が上手い人なの?凄いね」

と笑顔を浮かべた少年に言われて以来、この肩書は大塚の勲章だ。

「それで、今日は何を作るんだ?」

早速どっかりと応接セットに腰を下ろした大塚は、さきほど自分が揶揄した美女の顔をじっと見て、それから秋人を見た。

「お?もしかして血縁か?」

「はい。似てますか?」

秋人が尋ねると、大塚は「うーん」と首を傾げた。

「そうだな。顔立ちってより魔力の型がな」

「なるほど」

と秋人は納得したようだ。実際のところ、秋人とエファネルはそれなりに似ているのだが、流石にレオネアと秋人はさほど似ていないのである。

「これを、使いたいです」

秋人がローテーブルの上に出したのは、綺麗なピンク色の美しい魔石と、キラキラ光る希少金属のヒヒイロカネだ。

「不死鳥の魔石とか、久しぶりに見たぜ。しかもこりゃあ一級品だ」

「とれたてぴちぴち新鮮です」

と秋人が頷くと、薫はすごく変な顔をした。

「魔石に新鮮とかあるのか?」

と思わず尋ねると、秋人は

「気分の問題」

と返す。大塚は豪快に笑った。

「なあに。生き物から取り出してんだから、新鮮にこしたことはねえだろう」

「そういうものかもしれませんね」

薫は素直に頷いた。石とは名付けられているが、モンスターのいわゆる心臓のようなものだ。

「それで、これで何を作るんで?」

大塚が再度尋ねると、秋人は微妙に照れながら

「彼女に贈る指輪を作りたいです」

と述べた。

「っかあああああああ。おいおい、てめえ、何歳だよ。もう婚約指輪とか人生はええな、おい」

と大塚がばしっと秋人の肩を叩く。秋人はしかし、不満そうに口を尖らせた。

「日本の法律だと18歳まで結婚できないんですよ。ひどくない?あと2年もある」

秋人は大きくため息をついた。

「美香はすごく素敵な女性なので、既に変な虫がウロウロしているくらいです。とっとと追い払いたいので、ここらでばばーんと婚約してると誰が見てもわかるアイテムを贈ろうかと」

「なるほどな」

大塚が大きく頷くも、薫は内心「なるほどなんだ…」と多少たじろいでいる。大塚と秋人はちょっと思考回路が似ているような気がした。

「でも、うちの高校アクセサリー類は基本禁止なんです」

さらに、秋人はがっくりと肩を落とす。

「まあ、仕方ねえわ。お前高校生だもんな。相手も同じ歳か?」

大塚の問いかけに秋人はふるふると首を振った。

「一個上なんです。来年卒業したらライバルは大学生です。僕は不安しかないです」

しゅんと肩を落とす。

「だから、学校にいる間はネックレスの鎖に指輪を通してもらって、学校の外に出たら指輪にできるように形態変化の魔法をかけてー」

ふむふむと大塚がメモを取る。

「指輪にしている時は鎖は邪魔だから、一部は装飾として出すけど、それ以外は魔石に吸収させてー」

ふむふむと大塚がメモを取る。

「美香は華奢な女性なので、収納魔道具としても使えるようにしてー」

ふむふむと大塚がメモを取る。

「当然、防御魔法も展開できる設計にしてー」

ふむふむと大塚がメモを取る。

「さらに、僕が作った魔法陣を付与して、いつでもどこでも僕を瞬間移動で呼び出せるようにして、さらに美香だけしか使えないように個人使用限定にするのが最低ラインでー」

ふむふむと大塚がメモを取る。

「デザインはこれ。このエタニティリング系にしたいです」

と秋人が自作のメモを取り出す。ただのエタニティリングのデザインではない。リングの表面が波型に加工されている。おそらく不死鳥の魔石でつくると、複雑な光り方をするだろう。

考えただけでも美しい、そして恐ろしい魔法アイテムである。

大塚がメモを見ながら、頭を抱えた。

「お前…相変わらず無茶苦茶だな」

「えへへ」

大塚はため息をついた。

「この前のお前のオリジナルの魔法回路で魔石の威力を圧縮して残すことである程度カバーできるとしてだな…お相手は 探索者(シーカー) か?」

「一般人です」

「なら魔力をできるだけ外に漏らさないようにしねえとなぁ」

ガリガリと大塚が紙に設計図を書き出す。

秋人と二人、ああでもない、こうでもないと言い出した。おそらく2、3時間はこのままだろう。

「秋人、俺は帰るよ。すいません。後お願いしてもいいですか?」

と薫がレオネアに尋ねるので、彼女は心底驚いた。

「え?わたし?いいの?」

「はい。構いません」

薫が頷くので、レオネアは戸惑いながらも頷いて、薫を見送った。

結局二人の相談は3時間では収まらず、5時間を超えまだ続いている。

「さあさあ、お二人とも。ちょっと休憩しますよ。夕飯です」

と家政婦の内浜が夕飯のお膳を運んできた。

そこでようやく秋人は隣にレオネアがいたことに気がついた。

「ごめんなさい。レオネアさん。退屈だったよね?」

慌てて謝る秋人にレオネアはくすりと笑みをこぼした。

「いいえ。二人のお話はとても新鮮で楽しかった」

それは彼女の本心だった。見たことも聞いたこともない不思議な理論と、オリジナリティ溢れる創造的な発想。彼女のひ孫は天才だった。それに、こんな風に雑に扱われる事すらレオネアにとっては初体験だ。

「外国の方にはお箸よりナイフとフォークかとも思ったんですが、どうされますか?」

内浜の問いかけに、レオネアは少し考えてから小さく頷いた。

「お箸に挑戦してみます。でも難しいかもしれないのでナイフとフォークもください」

内浜は流石に人間国宝の家の筆頭家政婦なだけあって、英語もお手のものだ。レオネアに丁寧に箸の使い方をレクチャーしてくれた。

「うふふ。楽しい」

なんだか普通の人のようだとレオネアは思った。単なる異国からきた観光客になった気分である。秋人も苦笑して見ている。

「いやあ、こんな美女と食卓を囲むなんぞ何年振りかのう」

と大塚は豪快に笑った。