軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13. 不死鳥狩り 3

翌朝、激しい筋肉痛でマヌエルはうめき声をあげた。

「お、おはようございます」

なんとか起き上がるもヨレヨレである。

「ドクターストップだな」

当夜の言葉にマヌエルは顔色を変えた。

「待ってください。レオネア様を置いて帰るわけにいきません。大丈夫です。何とかします」

マヌエルが取り出した怪しげな薬の瓶を見て、薫はため息をついた。

「すごく嫌な予感がしますけど、それ神経系の痛みとか効かなくなる薬ですよね」

「・・・・・」

マヌエルの無言が雄弁に肯定している。薫はため息をついて収納からエリクサーを取り出した。

「これをどうぞ。そんなものよりはよく効くはずです」

エリクサーの瓶を持って固まるマヌエルに、レオネアが頷いた。

「まあ、高いお薬ね。大丈夫!お給料から天引きしたらいいんだから」

と笑顔で嘯く主人に、マヌエルががっくりと肩を落とす。

「何回分割払いになるんだろう」

当夜は遠い目をした。

不死鳥の群生地はオアシスを抜けた通路の壁に入り口があった。秋人はコンコンと丹念に壁を叩いていく。カンと少しだけ他と違う音がする壁を発見した。

「よいしょっと」

その周辺を押すとがらがらと壁が崩れた。

「こんな風に崩れてたらすぐ見つかりそうなもんだが」

と薫が首を傾げると、秋人は

「それがこの壁30分で元通りになるんだよ。最初の時は偶然、僕この壁にぶっ飛ばされて突っ込んだから壊れたんだ」

因みに当時秋人をぶっ飛ばしたミノタウロスは、現在当夜の一撃で塵になっている。

「よし、じゃあ行きますか」

と薫が号令をかけると、全員がその未知の壁の向こうに足を踏み入れた。

隠し通路は他のところより少し暗く、ところどころに水晶のようなものが光を放っていた。

「綺麗だな」

と薫が関心して呟くのに、秋人も大きく頷いた。

「あ、でもその水晶触らないでね。一個でも欠けると真っ暗になるから」

と恐ろしいことを言う。

「 光点魔法(ライティング) なら任せろ」

と薫が胸を叩く。当夜が

「え?先生いつの間にそんな魔法使いのセオリー的な魔法を克服したんっすか?」

と感嘆の声をあげている。秋人もぱちぱちと拍手しているので、おそらくこれが「神崎家」では驚嘆するべき出来事なのだとレオネアにもマヌエルにも理解できた。

「ミスター神崎って確か魔法師系だったわよね?」

「そうですよー」

と薫が返事をする。

「私が魔法使いになった話を聞きたいですか?」

そこから先はお決まりの「どうして薫が魔法使いになったのか」という話になり、微妙な顔のレオネアとマヌエルが出来上がった。

「俺もうこの話を『旅のしおり』に書いて、初めて一緒にダンジョンに行く人には先に配ろうかな」

と薫が遠くを見つめてぼやいた。

「薫、旅のしおりって何?」

と秋人が尋ねたので、薫は

「小学校で遠足に行く時、学校が配ってくれる遠足の注意事項とかが書かれているマニュアル」

と簡潔に答えた。秋人はわくわくした顔でその説明を聞いていた。

「じゃあ、今度の時には僕が作るよ」

と秋人が請け負った。

そして、後日恐ろしいことにそれは実行された。

秋人の美麗なイラストが入った「旅のしおり」は、神崎家と一緒にダンジョン探索に行く人にもれなく配られることになる。もちろん、薫のエピソードも込みである。

隠し通路を抜けると一気に気温が上がった。

「うわっ」

思わず当夜が唸る。

「火山階層か」

火山の環境を模したダンジョンを「火山階層」という。

「もしかして、あれワイバーンですか?」

マヌエルが上空をぐるぐる回る飛龍系のモンスターを指差して、恐る恐る秋人に尋ねると、秋人は何でもないように頷いた。

「大丈夫!大型の飛ぶ系のモンスターは的が当てやすいから」

と請け負うも、マヌエルの顔色は紙のように白い。

たった5人でワイバーンがうろうろしている階層を征く羽目になるとは。

故郷の一族に誓ってレオネアを守らなくては!と意気込んだが、肝心のレオネアはワイバーンに夢中だ。

「秋人!あれ落としたら魔石取り放題かしら?」

「ええ。結構簡単です。こうして、エイってやれば」

秋人が片手に魔法剣を振り翳してぶん投げると、ワイバーンの頭部に命中した。ワイバーンはそのまま地面に大きな音を立てて落下。秋人とレオネアは早速ワイバーンの魔石を取り出しにかかった。

「大きい」

「綺麗ですね」

キラキラ光る魔石を見つめてレオネアは得意満面である。

「ワイバーンの魔石って赤色なんだ」

覗き込んだ薫が不思議そうに呟く。ワイバーン自体は緑色の個体だったので、てっきり緑だと思ったのだ。

「ここのワイバーンは火山特質だから、魔石も火力出力特化だよ」

と秋人が解説する。かなり威力が乗る魔石で、火力発電所で重宝される。

「なかなか氷系の魔石は出ないなぁ。秋人の刀に嵌めるのを桜子さんが探してるんだが」

薫が困った表情を浮かべると、秋人も同じく苦笑を浮かべた。

「氷系はあんまり見かけないからねぇ。氷壁階層はちょっと普通の装備だと厳しいから」

「あ、俺耐熱の魔法も使えるようになった!」

と薫が自慢げに杖を掲げる。パーティー全員に綺麗にかかったので、ふふんと自慢げに鼻を鳴らす。

マヌエルはどこからどう突っ込んでいいか分からなかったが、マヌエル以外の全員が拍手しているので、空気を読んだ。マヌエルは日本人特有の技を覚えた。

5人はワイバーンを狩りつつ、火山の中心へ向かった。火山の側には大きな溶岩の湖があり、そこに不死鳥が多数寛いでいる。

「不死鳥ってこんな沢山いるとありがたみに欠けるなぁ。フラミンゴの方が希少価値ありそう」

と呑気な当夜の感想に、秋人は苦笑する。

「捕まえるの大変なんだよ。溶岩湖だからね」

秋人の返答に薫は何とも嫌そうな顔をした。

「秋人、まさかここに入ったのか?」

「流石に無理だよ」

と秋人が肩をすくめたが、その返答に薫とレオネアは心底ホッとした。こんな中に落ちたら骨まで残らず溶けてしまうだろう。

「第六位の魔法を覚えてからかな。簡単に捕まえられるようになったの」

秋人が珍しく母の杖を翳す。

【 絶対零度地獄(コキュートス) 】

秋人が唱えると、ぐつぐつと煮えたぎっていた溶岩の湖があっという間に一面の氷に変わった。

「うわっ」

思わず当夜が一歩退く。秋人の魔力が光の速さで湖を覆ったのだ。絶対零度の氷魔法が溶岩さえも凍てつかせた。

「あ、触らないでね。凍っちゃうから」

秋人の注意に他4人はコクコクと小刻みに頷く。

溶岩湖の中で寛いでいた不死鳥は全て凍りついている。秋人は「よいしょ」の掛け声とともに溶岩湖に降りた。

「秋人!」

薫の心配声に片手を振って見せる。

「大丈夫。今回はお母さんの杖使ってるから、いつもより長持ちする」

との秋人の言葉に少しだけ心配顔を緩めたが、それでも薫はハラハラして秋人を見守った。

溶岩湖の真ん中の一番立派な不死鳥を、秋人が無造作に持ち上げる。赤が強い雄々しい不死鳥だった。

「んーーーーー。ちょっと色が濃そうだなぁ」

そのまま片脇に抱えると、その隣の不死鳥を持ち上げた。

「ああ、これ綺麗な色だな。これかな。これにしよう」

とどうやらお気に召すものがあったらしい。さらに、その周辺の3羽ほどを適当に捕まえると、秋人はステップを踏むようにして岸辺に戻った。

秋人が持ち出した不死鳥は凍ったままだが、彼が戻ると同時に溶岩の湖は徐々にまた高温の炎の塊になった。

秋人は狩りの成果を地面に並べる。かちこちに凍りついた不死鳥という存在意義の全否定のような姿に一同ドン引きだ。

「捕まえてきたよ」

「ああ、うん」

ご機嫌な秋人の様子に薫は複雑な表情を浮かべている。あまりにもシュールだ。

当夜がぼそっと呟く。

「なんか、想像と違うっすね。不死鳥狩り」

「ええ、どっちかというと、ハントというよりきのこ狩りのような…」

「確かに!!」

マヌエルの例えに思わず皆笑いが溢れた。

「すごく綺麗ね。キラキラしてるわ」

とレオネアがうっとりと不死鳥を見ている。レオネアも龍神族なのでキラキラしているものが好きなのだ。不死鳥の氷漬けはガラスに封じられた炎のようでとても美しかった。

「…これ、あげる」

一番大きな不死鳥を秋人はレオネアに手渡した。

「え!?でもこれ美香ちゃんへのお土産でしょ?」

慌ててレオネアが返すも、秋人は二番目に捕まえた方を指差して

「色の相性はこっちの方が良さそうだから。あんまり力が強くても美香は魔法もってないから、変な影響が出るかもだし」

「そう…ね。あんまり護符が強いとそれだけで目立っちゃうもんね」

とレオネアが頷く。どうやら秋人が何を作りたいかは理解しているらしい。

秋人はさっさと不死鳥を解体し、中から拳ほどの魔石を取り出した。

「綺麗な色ね」

とレオネアが思わず呟くと、秋人は嬉しそうに大きく頷いた。ピンクダイヤのようにブリリアントカットにしたらさぞ美しくなるだろう。しかし、作る予定のアクセサリーが若干不満だ。

「本当は薫みたいに指輪にしたいけど、学校に嵌めていけないからペンダントかなぁ」

「あら、指輪にして鎖で提げてもらったらいいじゃない」

レオネアの提案は秋人の想定外だったようで、仕様を再考しだした。

「やっぱ指輪だよね」

「そうね。恋人に贈るなら絶対指輪ね」

「鎖もなんかいいの考えよう。ありがとう。レオネアさん」

秋人の何気ない感謝の言葉に、レオネアは胸が詰まった。

「っいいえ、どういたしまして」

の返答を絞り出すだけで精一杯だった。

こうして神崎家プラスアルファの不死鳥狩りは呆気なく幕を閉じた。

ちなみに、秋人が昔施した封印は問題なく稼働しており、あと5年くらいは大丈夫そうとレオネアのお墨付きも貰えて、後藤はほっと胸を撫で下ろした。