軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17. 目的

チュン

と甲高い音がして車体に何かしらの口径の穴が穿たれた。秋人はふわりと宙に舞った。そのまま重力を無視したように着地する。その後ろを追うように攻撃が仕掛けられる。

「レーザー?」

細く、だが火力の高い攻撃が秋人を執拗に追尾する。

「何とまあ…」

自分への攻撃にこれだけのものを持ち出してくるとは思わなかった。人がおよそ出せるようなスピードではない速さで秋人が駆け出し、射線の先を一閃するとおそらく攻撃用の装置が爆散した。

「わあ」

流石にこれだけの爆発を誘引するとは思ってなかったので、秋人も少し驚いた。そこへ、また反対側から同じような光線での攻撃が始まった。最初の一撃を避け損なって秋人の左手が吹き飛んだ。

「ちっ」

秋人は意識して左手を復活させる。どうせここにいる連中は秋人の再生能力などお見通しだろう。

「やはり、再生能力をもってるのね」

不意に200メートルほど前方にレオネアが現れた。

「本当に嫌になるくらい龍神族なのね。混血のくせに」

侮蔑を隠そうともしないでそう告げる。

「頭を狙いなさい。首から下は傷付けないで!」

彼女が叫ぶと同時に四方から同じレーザーの攻撃が掛けられた。秋人が防御魔法を厚くして跳ね返す。

「レーザー光線の温度は灼熱魔法の5倍以上なんだけど、ほんと困った子ね」

彼女は肩をすくめた。そこらの魔法使いの防御魔法なら貫通していただろう。

「僕の体をどうするつもりですか?」

秋人が尋ねると、レオネアは薄く笑った。

「龍神族の弱点は心臓と脳。頭を切り離してすげかえるのよ」

「うえ」

秋人が気持ち悪そうに顔を歪めた。

「流石に拒絶反応とかがあるんじゃないですか?」

臓器移植でさえ免疫抑制剤などが必要なのだ。しかし、レオネアは秋人の反論に頷いた。

「ええ、でもあなたとあの子は血縁だもの。龍神族の生命力を考えればできると思うわ」

「それって…」

秋人の脳裏に出会ったばかりの会話が思い浮かんだ。

「ええ、今後あなたの体を使うのは私の娘よ」

とレオネアは謳うように宣言した。

「性別が違うのはいいんですか?」

秋人が不思議そうに首を傾げると、レオネアは笑った。

「心臓は体の司令塔、脳は存在の司令塔。龍神族の体はそんな風になってるの。頭をすげ変えたら体の編成を変えたらいいだけよ」

彼女はうっすらと笑いながらそんなことを囁いた。秋人は心底嫌そうに眉を寄せる。

「そこまで人外なのかぁ」

結構凹むなあと秋人はぼやいた。

「そろそろ捕まってくれないかしら?」

レオネアがそう嘯く。

「そんなの無理に決まってるでしょ。僕だって死にたくないし」

と当たり前のことを言えば、レオネアは肩をすくめた。

「それじゃあ、あなたの大切な人に攻撃するしかないわ」

「薫は僕の結界の中にいます」

「知ってる。でも結界を壊すだけの攻撃をぶつければすむ話だわ」

彼女がすっと手を挙げると同時に、振り下ろした。

薫は荷造りをしながら秋人の帰りを待っていた。

「忘れ物はないよな」

と見渡す。 冬由(ふゆ) が所在なげにソファに座っていた。しかし、ふっと上空を見て慌てて薫の方に駆け出した。

「え?」

彼女が薫の上に覆い被さると同時に激しい爆音が響いた。

「なんだ!?」

思わず叫ぶ薫に冬由は黙ってしがみつく。瓦礫やガラスの破片があたり一面を覆い尽くし、視界が悪くなった。

音がやんでから薫がうっすら目をあけると、そこには何もなかった。さっきまであったホテルの部屋は壁ごと吹き飛び、建物の屋根も壁もほぼなくなっている状態である。ただし、薫たちの部屋だけは無傷で残っていてある意味余計に不思議な光景になっていた。

「え?何?何が起こってるんだ?」

地震や台風での混乱なら、日本人ほど落ち着いて行動できる人種はいないだろうが、こと攻撃に対する対応はまったくといっていいほど役に立たない。免疫がなさすぎるのだ。

「ばか、隠れろ。狙いはお前だ。ミサイルがくるぞ!」

「ええええええ」

薫が叫ぶと同時にまた火力の源が空からやってくる。

「マジかよ」

呟いたと同時に激しい衝撃音があり、床に穴が空いた。というか地面が陥没し建物ごと地の底へ投げ出されたのだ。

「きゃああああ」

冬由の悲鳴にはっとして薫は今度は彼女の体を抱き抱えた。

「掴まって!!」

薫の言葉に冬由は彼の背中に腕を回してぎゅっとつかむ。穴からは魔力が吹き出している。行き先はダンジョンだ。

【 瞬間移動(テレポート) 分解】

暗い穴の中を薫は微かに見える地面を目指して跳んだ。

「ミサイル攻撃を防げるなんて、さすが3S 探索者(シーカー) は違うわね」

携帯でホテルの状態を聞いたレオネアが笑う。しかし、秋人の方の防御魔法は流石に崩れた。何本かのレーザーを避けきれず、秋人は右腕と左足を失っている。

「それでも、その程度で済むんだから、本当に本物の龍神族って人外ね」

秋人の額に汗が浮かんだ。

「でも、結構魔力を食ったんじゃない?」

嘯く女性に秋人は硬い顔で睨みつけた。

「観念して大人しくしなさい。そうしたら痛くないように殺してあげるから」

レオネアが哀れみをこめて笑う。

「あなたの娘さんはどうして僕の体が必要なんだ?わざわざそれこそこんな化け物みたいな体を使わなくてもいいだろうに」

苦し紛れだったが、秋人の問いかけはレオネアの気に障ったようだった。

「仕方ないじゃない。流石に頭をすげかえるなんて龍神族の体でしか無理だもの」

「あなたの娘は龍神族じゃないのか?再生能力はあるんだろう?」

「そうね…あったわね」

ふっとレオネアの表情が翳った。

「いいわ、教えてあげる。あなたも自分がどうして殺されるかくらい理由がしりたいでしょうから」

と。

もしも、この時当夜が近くにいれば「ああ、フラグ立てちゃったな」と言うところだ。秋人は少しずつゆっくりと自分の体を再生し始めた。こんな風にじわじわ治すことも可能だとは彼女は知らないだろう。

そして時間稼ぎにレオネアに語らせることに成功した。

「私の一族はこの島のダンジョンを管理している一族なの。おそらく地上で一番龍神族としての血が残っているわ。日本風に言うと蔵持ちね」

レオネアは静かに語り出した。

「そんな中でも先祖返りして龍神族に近い力を持って生まれる者がいるの。私はその一人」

レオネアはじっと自分の手を見つめた。

「けれども、そういった存在は普通には生きてはいけないの。この島のダンジョンが氾濫した時にこそ存在していないといけないから、通常は成人したら氷室で仮死状態で過ごすわ」

「ああ、だからあなたまだかなり若い見た目なんですね」

秋人の相槌に彼女はくすりと笑いをこぼした。

「そうね。そういうことができるくらいに生命力が強いのも特徴ね。普通の人間ならそんなことしても復活できないもの」

「因みに、おいくつですか?」

秋人の問いかけにレオネアは眉を寄せた。

「レディに年齢を聞くとか、あなたの保護者どういう教育してるのかしら」

としごく真っ当な文句を言われた。秋人は肩をすくめた。

「それでも何年かに一回は顔見せのために長く起きていることがあるの。その時に夫のダニエルと出会ったわ」

レオネアは夢見るように微笑んだ。

「いい人だった。一族の人だったけど私のことを必要以上に畏れなかった。族長が外の国で作ってきた隠し子だったから、あまりよくわかってなかったのよ。私のことも一族のことも。だから、私を口説いてきたの。そんな経験のなかった私はころっと彼に参ってしまった」

レオネアだって普通の人生がどのようなものか知らないわけではない。恋愛や家族愛には憧憬を持っていた。だからだろう。彼の愛を拒めず関係を持った。その時にできたのが娘だ。

「最悪だったのは娘のエファネルも龍神族に近いスペックをもって生まれてしまったこと」

レオネアは娘に自分のような人生を歩んでほしくなかった。普通の、ごく当たり前の人間として、誰かと共に生き死んでいく人生を全うしてほしかった。

だから、また長い眠りに着く前に、夫に娘を託して「けして彼女の能力を他言してはいけない」と言い聞かせたのだ。

「それがいけなかった」

レオネアは悪夢はそこから始まった。