軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15.  足るを知る

例の魔法式の契約について、再度話し合いが行われることになり迎えが寄越された。昨日の総裁秘書マヌエルがまた出迎えにきた。

「何度も申し訳ありません」

と彼が頭を下げる。

「いや、そういえば彼女に何か聞きたい事があるとか言ってませんでしたか?」

薫が 冬由(ふゆ) を指し示すと、彼は苦笑を浮かべた。

「我々が聞いても答えてくれなさそうですよね」

「それもそうですね」

薫も同じく苦笑する。当事者の冬由は不機嫌そうにそっぽを向いた。

「昨日捕まえた 救世来神教(エルミネイト) の工作員は何かしゃべりましたか?」

「ええ。自白の魔法を使える者がいるので、色々と話してもらいました。残念ながら彼が化けてた本人はもう殺されてしまったようです」

マヌエルの言葉に冬由は不愉快そうに顔を歪めた。

「いかにも正義の主みたいな顔してるが、やる事がえげつないな。自白の魔法なんて使ったらもう廃人じゃないか」

彼女の言葉に薫も秋人もぎょっとしてマヌエルを見る。

「すぐに答えてくれればそんなことにはなりませんよ」

とにこやかに答えるが、目が笑ってはいなかった。

冬由は自分の身にこれから起きることを想像して身震いした。 救世来神教(エルミネイト) の工作員とはいえ、拷問にかけられるかもしれないという予測は恐ろしいものだ。

「マヌエルさん、彼女にその魔法を使うことは認められません」

と薫が言うとマヌエルは肩をすくめた。

「先生、彼女の見かけや年齢に誤魔化されるのはおすすめしませんよ。 救世来神教(エルミネイト) は狂信者だ。こんな幼い子供の頃から人を殺すことを生業として育てられる…言ってしまえば生まれながらの犯罪者どもです。理屈も法律も彼らの前では何の役にも立ちません」

冷たく彼は冬由を見ながら告げる。冬由は悔しそうに唇を噛んだ。

「私の兄弟や友人もたくさん彼らの犠牲になってきました。同僚はもっと大勢です。私たちは 救世来神教(エルミネイト) を絶対に許さない。この世から根絶したいと願っています」

マヌエルの厳しい言葉に薫は眉を寄せた。

こういう紛争や昔からの因縁というのは日本人からするとかなり縁遠い感覚なのだ。そりゃあ平和ボケしていると言われても仕方ないだろう。

「それでも、彼女に自白魔法を使うことは認められません。ダンジョンで逮捕した人物の所在は逮捕者に委ねられると国際法で決まっています。彼女の処遇は日本の法律に基づいて判断されます」

薫が毅然とした態度で告げると、マヌエルは不本意そうにため息をついた。

「あなたのその判断が、あなたの大切な人を傷つける事態にならないことを祈ってますよ」

と少々嫌味を言われたが、薫は大きく頷いて、その話を打ち切った。

冬由はそんな薫をほんの少しだけ見つめていた。

車は昨日と同じ中央の塔へ向かった。

「今日はこのまま地下の駐車場へ向かいますので、そのまま上がってください」

地下駐車場からまたエレベーターに乗り込み、昨日と同じ部屋に着く。そこからまた意見交換が行われ、こちらも一部の利益を薫と秋人が生きている間だけ支払ってもらうことで合意した。

またそれ以降は探索者の教育や、怪我などで大きな障害を負った探索者への支援金となるように一部の利益を還元することも盛り込んだ。

「欲がないですねぇ。お二人とも財閥を築いて、子孫代々まで栄えることが可能な内容ですのに」

ブラフォードが不思議そうに首を捻るも、薫も秋人も苦笑を浮かべるだけだ。二人とも死ぬまで困らないような金はもう持っている。

「足るを知るという言葉が日本にはあるんですよ」

と薫が嘯いた。

「自分の器以上のものを求めても破滅するだけです」

薫の言葉にブラフォードは少し思うところがあったようで、視線を落とした。

「ミスター・神崎はもう既に足りているということですか?」

彼の言葉に薫は少し笑った。

「金銭的にはもう十二分に。しかし、私だって多少の背伸びしても叶えたい願いはありますよ」

「それは?」

ブラフォードが思わぬほど真剣に尋ねてきたので、薫も真顔で答えた。

「家族みんなで幸せな結末を迎えることです」

「それだけですか?」

「そうです」

にこりと薫が笑う。ブラフォードは納得していないが、それこそが薫が三度も同じ人生を繰り返している原動力に他ならない。

「結構な背伸びだとは思いますけどね」

なにしろその為には 救世来神教(エルミネイト) をぶっ潰す必要があるのだ。相手は何百年も続いた狂信者集団だ。背伸びというレベルを超えているだろうが、薫は譲る気はなかった。

とにかくこれで懸案だった二つの魔法についての問題は解決に至った。どちらも今後の人類の経済圏を左右する魔法なので、あとは細やかな法律の問題や、専門家の意見なども含めて国際的に探索者ギルドで話し合いが行われる。

それでも、この魔法がもたらす富と反映に関わらないという選択肢は、ギルド側にはなかった。それなりに組織運営にも金がかかるのだ。特に高位の 探索者(シーカー) への報酬額は年々上昇しており、ギルドの長年の懸念だった。

「大リーグやフットボールと同じ悩みなわけね」

と薫がため息をつく。実際、薫自身もSランク 探索者(シーカー) であることから報酬金額の高さに驚いていた口である。

「ミスター・如月」

不意にマヌエルが声をかけた。

「すいません。今朝あなた方の部屋に強襲をかけた人物の中にうちの職員が混ざっていたのですが、彼は悪気はなかった。少し話したかっただけだと言っております」

「夜中の2時以降におしかけて?」

薫の言葉にマヌエルが困った顔で頷いた。

「それは無理があるんじゃないか?」

と再度薫が言うも彼はため息をついて首を振った。

「それなりに大きな企業関連の方で、いわゆるスポンサーです。なので、如月氏の結界が本当に悪意を弾くのか実験させていただけませんか?」

マヌエルの提案に薫は大きく首を振った。

「悪意があろうとなかろうと、真夜中に押しかけてきた時点で排除されても仕方ないでしょう。こちらがその実験とやらに協力する謂れはありません」

しかし、マヌエルも引き下がらない。

「わかっております。こちらとしても、少しだけ協力したという姿勢さえ見せればいいのです。相手の面子に関わることです。何があっても如月氏への悪影響はないように手配しますので、協力いただけませんか?」

彼の強弁に再度薫が抗議しようとしたところで、秋人が折れた。これ以上押し問答していても埒が開かない。レオネアの件もあったので、秋人は早く島から脱出したかった。

「わかりました。伺います」

「秋人!」

薫の抗議を秋人は手で遮った。

「ちょっと行ってくるからホテルで待ってて。もし変な事態になったら薫のところに跳ぶから」

秋人が薫の耳元で小さな声で囁く。薫はふうっとため息をついた。彼も本当は断りきれないのはわかっていたのだが、こうなっては仕方なかった。

「気をつけろよ」

「うん。わかってる」

秋人は小さく頷くと、マヌエルへ向き直った。

「薫たちをホテルに送ってから向かってください」

「分かりました」

彼は了承し、薫達はホテルに向かった。

例のスイートまで送り届け、秋人がまた入念に結界を張る。

「僕が帰ってくるまでここから出ないでね」

と念押ししてから秋人は実験に向かった。