軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14. 幸せな朝食

秋人が部屋に戻ると扉の前に3人ほど人が倒れていた。

「ふう」

と大きくため息をつく。

「念の為だったんだけどな…」

一人は昼間あの部屋にいた職員だ。

「朝起きたら薫に報告しなくちゃ…」

ふわああと大きなあくびをする。

「寝よ」

倒れている人を足で避けて秋人は部屋に入って、今度は朝までぐっすり眠った。

「そういう時は起こすんだよ、秋人」

朝食を持参したホテルの職員の悲鳴とともに、事態を把握した薫は深々とため息を吐いた。

「でも、薫疲れてたし。僕ももう眠かったし」

「まあ、そうなんだけどさ。せめて少し早起きして、ルームサービスがくる前に報告してほしかったな」

薫がぼやくと秋人はすまなさそうに頭をかいた。

「反省してないでしょ」

薫の言葉にてへへと笑って見せる。おそらく曲者の存在報告と薫の睡眠とを天秤に載せた場合、秋人の天秤は薫の睡眠へ大きく傾くのは想像に難くない。

薫は説教を続行することを放棄した。

「お腹すいた」

冬由(ふゆ) が抗議の声を上げたので二人は朝食を始めることにした。一応ルームサービスのワゴンは置いていってくれたので、自分たちで配膳する。

高級ホテルだけあって、朝食も豪華だった。

「ああ、スクランブルエッグ美味しい。バターが効いてるね」

「ベーコンいい感じに焦げてる。難しいよな、ベーコンを炙るの」

「このサラダのドレッシング、美味しい。師匠へお土産に買って帰ろうよ」

「あとでロビーの売店へ行ってみるか」

朝食時の会話を聞いていた冬由は頭を抱えた。

「お前たち、気が抜けてるんじゃないか?一人はうちの工作員だし、扉の前だけじゃなくてバルコニー側にもいるわよ」

彼女がフォークでバルコニーを指し示すと、そこに折り重なるように複数の黒装束の男たちが倒れていた。薫と秋人はバルコニーの窓近くまで確かめに行く。

「推理小説の犯罪現場みたいだな」

「チョークで囲ったら完璧だね」

薫と秋人が呑気にそんな感想を言い合っているので、冬由は深くため息を吐いた。

「どんな神経してるのよ。誘拐されかけたか殺され掛けたってわかってる?」

「んー、でも秋人の結界破れそうなメンツってなかなかいないしねえ」

薫の返事にぴくりと冬由の肩が揺れた。

「この結界、あなたがやったんじゃないの?」

「違うよ。俺は割と偏った魔法使いだから、汎用的な魔法はほぼ秋人に頼り切っているダメ魔法使いだ」

薫の言葉に呆れたように冬由は目を細めた。

「本気で言ってるの?パーティーの魔法使いのくせに」

同じようなことを先日麗美や後藤にも言われたので、薫だって頑張ったのだ。

「 光点魔法(ライティング) は使えるようになったんだぞ」

えへんと胸を張る薫に秋人がパチパチと拍手を送る。うんざりした顔で冬由が首を振った。

「そんなの初歩も初歩じゃない。あなた一体何年魔法使いやってるのよ」

「んー、まだ2年は経ってないかなぁ」

デザートのオレンジを齧りながら薫が、自分が魔法使いになった経緯を説明し出した。

10分後、ロールパンをもそもそ齧りながら冬由が可哀想なものを見る目で薫を見ていた。

「…というわけで、俺は魔法使いになったのです」

薫の締めの言葉に何とも言えず、チラリと秋人の方を見る。

秋人はそっと視線をそらした。こと、この話になると神崎家の人間は『触らぬ神に祟りなし』を貫くという処世術が通例化していた。

「冬由ちゃんは、ジョブは何?俺は審議官で、秋人は魔法剣士だよ」

「・・・・・私は二属性あって氷系の攻撃魔法と回復魔法が使える」

先ほどの薫の人生につい同情心を掘り起こされた冬由は、うっかり自分のジョブを暴露してしまい、「しまった!」という顔になっていた。

「そう言う時は魔法回復師って言うの?」

「言わないんじゃないかな」

「でも、秋人が魔法剣士なら、冬由ちゃんは魔法回復師なんじゃないか?」

「うーん、どうだろう。僕は魔法師と剣士で大きく違うジョブが二つくっついてるけど、攻撃魔法師も回復魔法師も魔法師で一括りできるからなぁ」

またも、呑気な会話が続いて冬由はうんざりしてきた。なんて緊張感のない連中なのだろうと呆れ果てた。

「私、日本に着いたらどうなるの?」

彼女の言葉に秋人は薫を見る。薫はうーんと首を傾げた。

「君は未成年だし、だいぶ偏った倫理観と教育で洗脳されてるから、ある程度事情聴取を受けた後にカウンセリングなどを受けて、そこから里親とか養育親を探すことになると思うけど、まあ心配しないで。いざとなったらいくつか脅すネタはあるから」

さらっととんでもないことを言う保護者に秋人は苦笑を浮かべる。

「うちで面倒を見るよ。大丈夫。何も心配しなくていいから」

「はあ?」

彼女が不満そうな声をあげる。

「バカにしてるのか?誰がお前らなんかと馴れ合うものか!私は教団に帰る」

冬由の抗議に、しかし秋人は大きく首を振った。

「そのリングしてる限り、帰れないよ」

「ぐっ」

言葉に詰まって冬由は俯く。忌々しげに腕に嵌っているリングに爪を立てるが、そんなことで外れるものではない。

「それは僕か薫か当夜にしか外せない」

秋人の言葉に恨みがましい視線を送る。

「帰らなくていい。少なくてもうちにいたら誰かを殺したりする必要はない」

薫の言葉に冬由は俯く。

「私は…エリートのナンバーズだ。いずれ、幹部候補になって教皇様にお仕えするのだ」

「30近い男を囲おうなんていう変態が教皇な宗教、ダメダメだと俺は思うよ」

座った目で薫が冬由の痛いところを突いた。

「そういえば、見目のいい男を侍らせてるって誘拐犯が美香に話してたって」

秋人の言葉に薫がうげっと声を上げた。

「真性の変態じゃんか。秋人、気をつけなさい。お前もだいぶあっち系統に好かれる気配がしてる」

薫の変態センサーにどうも確実にひっかかるらしい。しかし、薫は冬由をじっと見た後、ぐっと親指を立てた。

「冬由ちゃんは大丈夫そう。まだ子供だからね」

楽しげにウィンクまでつけたので、空になった皿が薫に向かって投げられた。

「わあ、危ないよ」

避けたは避けたが、皿が壁に当たって砕けた。

「冬由まだ小さくても女の子だよ。今のは薫が悪いよ」

と秋人が冷静にツッコミをいれた。