軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13. 警告

豪華な夕飯が終わり3人はそれぞれ就寝した。

しかし、秋人はふと夜中に目を覚ました。何かに呼ばれたような気がしたのだ。

「誰?」

新潟の姫のような存在だろうか?と辺りを見渡したが、どこにも見つからない。パジャマから簡単なシャツとデニムに着替えてホテルの部屋を後にした。

廊下に出るとしんと静まり返っている。スマホで確認すると夜の2時を回ったところだった。

「門限すぎちゃった」

一応神崎家の門限は先日23時に決まったばかりである。薫はぐっすり寝ているし朝まで起きることはないだろう。秋人は夜の散歩に出かけることにした。

念の為にホテルの部屋には厳重な結界を張り巡らせておく。

薫や冬由への悪意があれば反応して麻痺させる結界だ。

「明日の朝には大量に人が倒れてたりして」

秋人はそんな事を思ってくすりと笑った。

ホテルのロビーを抜けると海岸線へつながる小道がある。秋人はぶらぶらとそこを歩いて海辺へ向かった。

気になるのは昼間会ったレオネアだ。

彼女の声はとても懐かしい。母の子守唄を思い出させた。

秋人は思い出した歌を小さく口遊みながら海辺を歩いた。それが巨福呂坂で己が唱えた祝詞の一部だとは知らない。ただ、懐かしく愛おしい想いだけが、じわじわと込み上げてきた。

母の日記を毎日読み進めている。そこには暖かくも優しい時間が刻まれていることもあれば、辛い悔恨が綴られていることもあった。

救世来神教(エルミネイト) での日々は彼女や彼女の夫にとって悪夢だった。無知故の死と殺戮の数々。

母は何の罪もない人を殺したことへの罪悪感で押し潰されそうだと綴っていることも多かった。

今が幸せであればあるほど、出会った人の優しさや思いやりに触れるほど、自分たちにそんな価値があるのだろかという疑問が浮かんでくるのだ。

けれどどんなに辛い心情が書かれていても、最後には秋人と夫への深い愛情が記されている。

しかし、そこには冬由の姿はない。その事が秋人には哀しい。

「冬由もお母さんから生まれたならよかったのに」

そうしたら、絶対に辛い想いなんてさせなかった。大切に守って生き物を殺すような人生を歩ませたりはしなかった。

秋人は何か自分が彼女から大切な特権を奪ってしまったような気持ちになった。そうではないとは理性ではわかっているのだが、気持ちが追いつかない。

彼女が時々見せる辛い生活の片鱗が、薫に出会う前の自分と重なって見えた。

「このままうちで引き取れないかなぁ」

秋人はぽつりと呟いた。

「眠れないの?」

不意に背後から声を掛けられて秋人が振り返った。

そこには想像した通りレオネアが立っていた。気配がまったくなかったし、魔力も感知できなかった。おそらく 瞬間移動(テレポート) の類だろう。

昼間出会った時と違ってシニョンに結い上げられていた銀髪が流されるまま海風に揺れており、白いドレスが波のように揺れていた。まるで精霊のようだった。

噴き上がる魔力が風に揺れるヴェールのように見える。秋人はそれをとても美しいと思った。

「あなたは…あなたも龍神族なのですか?」

秋人が尋ねると、少しだけ彼女は目を細めた。

「まあ、もうそんなことまで知ってるの?」

困った人ねと笑う。秋人は眉を寄せた。そして、一歩距離を取った。

「やっぱり、あなたは僕のことが本当は嫌いなんですね」

「まあ、どうして?」

「僕は本当の愛情を知ってる」

秋人の言葉にレオネアはふっと唇の端を上げた。レオネアからの悪意が昼間より鮮明に秋人に向けられた。

「本当の愛情?それはあの人の事を言ってるの?あの綺麗な人」

謳うように彼女は囁いた。

「綺麗な人だわ。あなたなんかいなくても平気なんじゃないかしら?素敵な恋人もいる。仕事も金もある。とっても人望もあるみたい。順風満帆な未来が待ってるわ。あなたの事情に巻き込むのは可哀想よ。ねえ、秋人、ここに残らない?」

レオネアが手を差し出した。

「あの素敵な人に自分は化け物だって知られたくないでしょう?」

脅すような言葉とともに彼女の口元に浮かんだのは嘲笑だった。

ふうっと秋人が息を吐いた。

「危なかったなぁ。ほんと」

ぽつりと呟く。

「ほんの一ヶ月前にそんな風に言われたら、僕は頷いていたかもしれない」

秋人は憐れむようにレオネアを見た。

「言っただろう。僕は本当の愛情を知ってるって」

秋人はにこりとこの世の全ての人よりも幸福を味わっているように微笑んで見せた。

レオネアの表情が初めて歪んだ。

「まさか、彼はあなたが何か知ってるの?」

「ええ、知ってますよ。あの人にとって僕の人外な部分は、個性で才能です。便利だとか死ななくてよかったねって言われました」

レオネアが複雑そうな表情になった。困惑していると言っていい。

「どこまで知ってるの?」

「僕がこの世を破壊できる生き物だというところまで」

「それでも生きてていいって言うの?」

「はい」

彼女の表情が大きく崩れた。怒りと悲しみがないまぜになった複雑な表情だった。

「そんな人はいないわ。いるはずがないわ!!」

秋人はそれ以上言わない。言う必要がないからだ。秋人の薫はとんでもなく貴重な人なのだ。だから、彼女が信じられないのも理解できた。

「因みに僕の彼女も僕がモンスターでも宇宙人でもいいそうです」

秋人の美しい恋人は手足を自在に生やす化け物を見ても、そう言ってくれたのだ。

秋人の宝物たち。大切な優しい人。

「僕はそっとしておいてくれたら敵対するつもりはありません。あなたは僕には勝てない」

秋人の体を緑色の焰が包んだ。噴き上げた魔力の圧力はレオネアを遥かに上回っていた。

「・・・・・・」

レオネアが一歩後退する。

「あなたの目的は何です?」

「・・・・・・」

彼女は答えない。そのまま風にまぎれるように消えた。