作品タイトル不明
8. 連行
ダンジョンから人数を増やして戻ってきた3人に、ギルドマスターのローランは当初不愉快そうだった。正直な事をいうとダンジョンでそのままケリをつけて欲しかったという気持ちだったのだ。こんな厄介な囚人を扱いたくはなかった。
しかし、捉えた男が数年前に彼の父親である二代前のギルドマスターを殺した相手だったことが指紋からわかった途端、目の色を変えた。
「そんな前から我が国をつけ狙っていたのか」
と彼は悔しそうに唇を噛み締めていた。
「それで、ムッシュ神崎。彼らをどのように処遇されるおつもりですか?」
「そうですね…本来なら刑務所に捉えていただいて裁判にかけていただくのが筋なんですが、可能ですかね」
薫の答えにローランは渋い顔になった。
男の方は既に三度自殺未遂を犯している。これが阻止できたのは、年末のパーティーの時に連中が自決したのを知っていた薫が、無理やり契約で自殺できないように縛ったからだ。
さらにややこしいのは少女の方だ。
どう見ても未成年。ローティーンだ。しかも、おそらくかなり偏った教育を施され、宗教的な洗脳状態に置かれている凄腕の 探索者(シーカー) 。おまけに自称如月秋人の妹だというオマケまでついている。
こんな厄ネタをどう扱うべきかなどローランに判断の範疇を超えていた。
「男の方はこちらで調査します。しかし、少女の方はそちらで引き取っていただきたい」
ものすごく身勝手な事をローランは口にしている自覚はあった。
男は父の仇だ。聞きたことが山のようにある。しかし、少女の方は手に余る。なので、適切な相手に押し付けてしまおうという魂胆だ。
「妹と自称しているのでしたら、そちらも調査が必要でしょう」
とローランが言うと、薫は困った顔で眉を寄せた。
「しかし、我々はこの後飛行機にのって本部へ行くんですが」
「連行してください」
「はあ…」
薫は気乗りしないようだったが、最終的に本部に許可をもらって連行することにした。
日本での騒ぎにも関わっているので、他にも事情聴取が必要であることも連行する理由の一つだったのだろう。
「わかりました。ではそのように」
薫は仕方なく頷いた。それから 探索者(シーカー) ギルドフランス支部には経費として帰還のスクロールを弁償してもらい、二人分のSランク 探索者(シーカー) の報酬を貰った。
「今回は本当にありがとう。助かりました」
空港に見送りにきたレアは深々と頭を下げた。
「いや、こちらとしてはまあまあの収穫だったよ」
にこりと薫が笑う。
「でも、厄介な囚人連れて行く羽目になったんでしょ。私の所為でごめんなさい」
レアが気にしていたので、薫は種明かしをする。
「実は、もともとあの子だけ連れて帰るつもりだったんですよ。ムッシュローランがちょろい人で助かりました」
「え?」
レアが思わず声をあげる。どうやら薫がうまく誘導したようだった。
「秋人の妹だと名乗る人物をフランスに放置する訳には行きませんからね。調査は必要です。なにしろ容姿が他人のそら似の範疇は超えているので」
「確かに」
レアは何とも言い難い顔で頷いた。自国のギルドマスターが転がされている事実に笑うに笑えないという心境である。
「だから、心配しないでください。あと、あの焼き菓子はあなたの祖父さんが作られたんですよね。店の名前を秋人が聞いておいてくれと言ってました」
薫の言葉にレアは首を傾げた。
「あの、秋人くんは?」
別れの場に少年がいない。少々無礼な態度をとっていたので、最後に謝罪したかったのだが。
「ああ、あの子が飛行機に変なことしないように見張ってると。これ以上遅延したくないんですよ。春休み終わっちゃうんで」
薫が苦笑を浮かべた。
「本当に高校生なんですね、如月秋人」
レアはあの後、日本の 探索者(シーカー) を調べて、秋人が三つのSランクダンジョンを単独制覇した猛者だと知ったのだ。日本になんかすごい 探索者(シーカー) がいるというのは知っていたのだが、あまり名前などは知らなかった。
「内緒にしててくださいね」
イタズラっぽく薫が笑った。どきりと胸の奥が跳ねるような笑顔だった。
レアは当然神崎薫も調べた。Sランクの 探索者(シーカー) で弁護士と兼業。数百の魔法を飛行しながら撃てるこちらも相当の手練だ。そして、同じくSランクの美しい婚約者がいる。
「それから、まあ余計なおせっかいかもですが、早いところ新しいパーティー探した方がいいですよ。働いてもいないのに報酬を分けろなんていう連中とは、縁を切ってもいいと思います」
薫の言葉にレアが今度は素直に苦笑した。
結局レアのパーティーは彼女の苦労などどこ吹く風で、終始大した怪我でもないのに入院しているリーダーにくっついて一度もダンジョンに足を運ばなかったし、レアをねぎらいもしなかった。それどころか討伐報酬を平等に分けろと言ってきたのだ。
これには流石にレアも呆れた。
討伐の報酬の一割をパーティーの費用として積み立てている。そこに金を入れろというのはまだ理解できた。しかし、参加もしていない戦闘の全報酬を四等分しろというのは納得できなかった。
「フランスの資格は持ってないので私は弁護できませんが、持っている知り合いが何名かいますので、困ったら連絡してください」
薫が名刺を差し出す。
「本当に弁護士なんだ」
レアは珍しいものを見たというように、そのカードを覗き込んだ。アニメやマンガでよく目にする「名刺」というやつである。
「 探索者(シーカー) は趣味みたいなもんです。私の本業はあくまで弁護士なので」
と薫が嘯くと、レアは今度は声をあげて笑った。どこの世界にSランクまで上り詰めた 探索者(シーカー) 業を趣味などと言う男がいるだろうか。
本当は少しくらいはアタックしようかと思ったのだ。
婚約者は確かに綺麗な女性だったが、自分だって捨てたものではないはずだという自負もある。これでも、フランスではまあまあ人気 探索者(シーカー) なのである。
しかし、薫がかかってきた電話に答えているのを偶然見てしまってから、そんな気持ちは捨て去った。本当に嬉しそうな、幸せな顔をして、彼は電話の向こうに話しかけていた。
「さよなら」
レアは笑って手を振った。それで終わるのが一番いい思い出だ。楽しい思い出になる頃、日本へ旅行するのは悪くない。
できれば世界で一番大きな夏のオタクの祭典の頃に行きたいなとレアは思った。
「お帰り」
飛行機の中で秋人が複雑な顔で薫を迎えた。
「どうしたんだ?」
きょとんとした顔で薫が秋人を見る。
「薫ってさ、結構鈍いって言われない?」
「え?」
薫はいきなりの発言に驚きの声をあげる。
「うん、まあ気が付いてないならいいや。師匠に報告はしないであげるよ」
と秋人は呆れたような顔でそう嘯く。
薫は養い子の発言の真意が分からず、頭上に「?」マークを出して首を捻っていた。