軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7. 妹

「だいたい、なんだってお前たちがこんなところにいるんだ!?日本にいるんじゃないのか?」

少女は胡散臭そうに薫たちを見る。

「いやあ、それを君に言われるのは、なんというか微妙だな」

薫が誤魔化すように首を捻るが、秋人は少女の衝撃発言に固まってしまっていた。

「い、妹?僕に?いもうと???」

心底驚いている秋人を見て、レアは不思議そうな顔になった。

「ムッシュ如月、その、僭越ながらあの女の子はあなたによく似てると私は思うよ」

レアの助言に秋人はさらに混乱した。

「僭越ながらなんんてよく知ってるね、レアさん」

薫が感心しながら言うと、えへへとレアは照れ笑いを浮かべた。

「日本のまんがとアニメは世界一だからね」

とやや胸を張って告げる。

「うん、まあ日常会話ではあんまり使わないもんな」

薫の言葉にレアは愕然とした。

「え?そうなの?僭越ながらってそういう扱い?じゃあ、麗しのとか、すべからくとか、拝謁たてまつるとかも言わないの?」

「ううん。ツッコミどころがよくわからないが、あんまり使わないかな」

「がーん」

「あ、それもあんまり言わない」

「ええええええ」

レアと薫の会話に少女は額に青筋を立てた。

「真面目にやれ!お前たち、ここで死ぬんだぞ」

少女の怒りを、しかし薫は受け流す。

「死ぬってどうして?」

「私が殺すからだ」

「君、秋人の妹だって自称してるけど、お兄ちゃんを殺すのはどうかと思うぞ。今はなくなったけど昔の刑法だと、親族を殺すのは関係ない人を殺すより罪が重くなったりしたくらいだし」

薫の言葉に、しかし少女は露骨に眉を顰めた。

「黙れ!似非弁護士め!貴様は顔しか取り柄がない癖に小賢しいことを囀るな!どうせ宗主様の慰み者になる運命だしな」

少女の発言に薫は「ひい」と小さく叫ぶと袖を捲った。

「気持ち悪い事言わないでください!見てくださいよ!この鳥肌!なんで私が大の大人の慰み者にされなくちゃいけないんですか!?ごめん被りますよ!」

「だいたい、殺されたら慰み者にはできないのでは」

レアが思わず突っ込む。

「あ、私BL関連も視聴済みなので、意味わかってますからね。いや、しかしムッシュ神崎ってテロリストの親玉に狙われるくらい綺麗な顔なんですね」

と薫の方にレアが突っ込むので、薫はがっくりと肩を落とした。

「黙れ」

静かな声がダンジョンに響き渡った。ふわりと緑色の光が立ち上る。魔力圧に思わずレアが小さく悲鳴をあげた。

「お前が何者か知らないが、これ以上薫を侮辱するなら容赦しないぞ」

秋人が静かに宣言する。迷宮核の小部屋中に秋人の魔力が満ちた。少女とその足元にうずくまっている男は苦しそうにうめき声をあげる。

男は元々秋人の魔法によって術を返された形になりただでさえ弱っていたところをかなりのダメージのようだった。

「秋人、落ち着いて」

とのんびり薫は声をあげた。秋人の魔力圧がいかに強かろうと薫には関係ない。感じ取れないのだから。

「お嬢さんたちは、この迷宮核を弄ったんだろ。ずっとここに居たのかい?」

薫が平然と尋ねると、少女は唇を噛んだ。

「たまたま様子を見に来ただけだ」

「うわあ、なんて間の悪い。そういうとこ秋人に似てるなぁ。やっぱ兄妹かなぁ」

チラリと薫は秋人に視線を送った。秋人はそれに気がつくも態度を変えない。

「君が秋人の妹だって証拠はあるの?」

薫の質問に少女は「はっ」と小さく笑った。

「その女が言った通り、顔が似てるじゃないか」

「他人の空似なんていくらでもいる。自分と同じ顔が世間に3人いるって昔の偉い人が言ってるくらいだよ」

薫が少女の言葉を混ぜ返す。

「黙れ!いいか、お前の両親は私をおいてお前だけ連れて教団を逃げ出したんだ!龍玉を盗み出してな!私はたった一人置いていかれたんだ!!」

少女の叫び声に秋人は眉を寄せた。本気の悲嘆がその言葉からは感じられた。少なくてもこの少女はそう信じているようだった。

薫は彼女の言葉の矛盾点を既に見つけてはいたが、それが彼女の存在を否定する材料にはならないので、心の中で彼女が秋人の妹であるか否かの判断は保留のままだ。

「一人教団に残された私がお前たちの罪を背負って、どれほど教団のために尽くしてきたか。それなのにお前たちの所為で評価されず、いまだにこんな末端の戦闘員の仕事しかさせてもらえない!この屈辱はお前たちには分かるまい!ツケは払ってもらうぞ」

少女が氷の槍を空中から取り出して構えた。

「秋人、生捕りにできる?」

ぼそっと薫が小さく呟く。

秋人は嫌そうに顔を歪めた。正直めんどくさい。少女はなかなかに強力な戦士だ。ましてや秋人の中で、 救世来神教(エルミネイト) はもはや仇敵扱いだ。

年末の薫への暗殺未遂、美香の誘拐、果ては早苗の駄菓子屋の閉店の原因と、彼の愛するものを脅かす全ての元凶である連中を、捻り潰すのに何の良心の欠片も疼かない。

しかし、薫の願いなら叶えない訳にはいかない。

秋人は薫に小さく頷き、

「やってみる」

と一言。

それから一閃。

「な」

少女の目が大きく見開かれた。

「遅いし、弱いし、脆い」

容赦ない秋人の言葉と同時に彼女の防御魔法も氷の槍も霧散する。そのまま秋人は剣を使わず、少女の胴体に容赦無く拳を振るった。

「ぐっ」

くぐもった悲鳴をあげる少女を今度は蹴り飛ばす。少女はダンジョンの壁にぶつかって崩れ落ちた。

そのまま秋人は少女の足元にうずくまっていた男を魔法剣で地面に縫い付ける。臓器の隙間を縫って、ここしかないという場所を通している妙技であるが、レアも薫もその凄さが分からない。桜子直伝の 探索者(シーカー) 崩れ対策だ。

レアはひたすらその戦闘の凄まじさに息を飲み、薫はぱちぱちと場違いな拍手をしていた。

「そもそも君、近接戦闘型じゃないでしょ」

秋人はその年齢に似合わない膨大な戦闘経験の持ち主である。彼女の戦闘能力の大半はもうだいたい見当がついていた。

「悪いけど、無力化させてもらう」

言葉と同時に秋人の手が少女の手首を掴んで、がちゃりと金属音を立てた。

「あ?」

少女の目が驚嘆に見開かれる。

「魔力無効のリング。僕が弄ったからそうそう簡単には外せないよ。薫!捕まえたよ」

背後の薫に秋人が報告するのを悔しそうに聞いていた少女は、反撃を試みた。

「何をする?変態!」

「へ、変態!?」

さっきまで冷静な表情だった秋人の顔に動揺が走った。

「女を捕まえて攫って帰るなんて変態がすることだって導師様が言ってた。お前は変態だ」

少女の苦し紛れの嫌がらせが、秋人には思いもよらぬダメージになった。

口をはくはくと動かすも言葉が出てこない。さらに少女が罵詈雑言を喚き散らすも、口で勝てるわけもなく秋人は涙目で薫を振り返った。

「薫!なんとか言ってよ!僕の代理人でしょ」

反論したいが言葉が出てこないので、代理人に任せることにした。

「ええええ、そこで俺に投げるのおおお」

薫が頭をかく。

「お嬢さん、君は犯罪者だ。ダンジョン迷宮核への違法な改造行為を私は審議官として記録している。ダンジョン内での犯罪は 探索者(シーカー) には逮捕権が保証されている。なので、秋人や私が君を逮捕し連行する行為はなんら問題のあるものではない。よって変態行為ではない」

薫の言葉に少女が睨み返す。反論の余地のない言論は流石弁護士である。秋人はほっとした顔で薫を見た。

「とにかく、彼女達を連れてダンジョンを出よう」

薫は収納から帰還のスクロールを取り出す。

「これ、フランス支部がお金出してくれる?」

とレアに薫が尋ねたので

「出してくれなかったら私が出します」

とAランク 探索者(シーカー) としての意地で返事した。