軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17. デパ地下ダンジョン 2

小一時間ほどの掃討で、そこらに発生していた低レベルのモンスターは全て討伐することができた。

どうやらこの地下ダンジョンは、コントロールは失いつつあったが外側の結界は強固だったため、ダンジョンブレイクを起こすまでには至らなかったようである。

「はー、よかった」

秋人が胸を撫でおろした。

「これで被害が出てたら、本当にお父さんとお母さんの犯罪になっちゃうところだったよ」

という彼の言葉には実感が込められていた。

なんとか制御用のPCも発見し、中を確認するもきちんと動きそうだったので、一回再起動をかけプログラムを起動すると、ダンジョンに蔓延っていた植物が一斉に枯れ始めた。

「ふー、危機一髪だったな」

当夜が安堵のため息をつく。

「ん-、秋人。こっちの方が居住スペースみたいだぞ」

周囲を見回っていた薫が指さす方向には、トレーラーハウスのような簡易の住居があった。こちらは植物の浸食がなかったようで綺麗なままである。

「緊張するな…」

秋人が小声で呟きながら、住居の扉に手を当てた。

扉がふわりと緑色の光を放った。

「あ、結界だ」

秋人は入れそうであるが、薫と当夜はわからないので一旦外で待機だ。

中に入って秋人が様子を見てくると言った。薫は秋人のメンタル的な問題で少し不安だったが、にこりと笑う秋人の顔はつい最近の不安定さはなく落ち着いたものだった。

「大丈夫、行ってくるね」

とひらひら手を振って秋人はかつての住居に向かった。

住居の中は生活感がまだ残っており、先日見た昔の住処よりは家らしかった。

「あ、これ覚えてる」

アイボリーのソファに飴色の木製のローテーブル。テレビは旧式だ。ゲーム機が刺さっているので、父か母かあるいは両方がやっていたのだろうか。

住居は結界で守られていたからか埃もなく、出て行ったその時のまま時が止まっているようだった。

「ここに住んでたんだなぁ」

ぽつりと呟く。笑い声とか話声が聞こえてきそうだった。

キッチンには四つのダイニングチェアが置かれていた。もしかしたら、加藤弁護士もたまには来ていたのかもしれない。

「冷蔵庫がまだ稼働している」

ダンジョンから電気を生み出す機能はまだ動いていたので、電気系統は無事だったようだ。冷蔵庫を開けるのが恐ろしいが、流石にダンジョンに向かう前にはある程度整理していたようで、生鮮食品はなかったが缶ビールや調味料などはまだ残っていた。

「あ、これ…」

ただ一つ。例の和菓子の箱がぽつんと残されていた。中は流石にもう駄目になっているだろうけれども、本当に両親が好きだったことが証明されたみたいだった。

書斎のような部屋には書類が色々とある。秋人には難しくてよくわからないものが多かった。この中に大事なものがあるかもしれないので、ぜひ薫に入ってほしい。

「うーん、結界の挙動はどこで操作してるんだろう」

秋人は周囲に漂う結界魔法の気配を探った。

「これか…な」

玄関のインターホンのような装置があった。

「薫!扉の横のインターホン押してみて」

外に向かって秋人が呼びかけると、ピンポーンとごく当たり前の音が響いた。インターホンのカメラに薫と当夜が映る。細かな数値が画面に並ぶ。薫と当夜の魔力、戦闘力などの細かな分析が表示されていた。

「うわ、凄い。解析能力付きだ。あ、薫レベル上がってる。当夜はそろそろ50だ」

思わず見入ってしまった。赤いランプがついているので、それを押すと『clear』という緑色のランプに変化した。

「入れるよ」

とインターホン越しに秋人が告げると

「お邪魔します」

と場にそぐわない挨拶付きで薫と当夜がドアから入って来た。

「普通の家だな」

と当夜が言うが、薫は 片眼鏡(モノクル) をつけているので、この家がどれほどの魔力で構築されているかよく分かった。

「凄いな。秋人のお母さんは本当に凄い魔法使いだったんだなぁ」

薫はあまりきちんとした魔力についての学習はしていないが、それでも高度さが分かるくらいにあちこちに仕掛けが施されてあった。

「薫、ここに書類が沢山あるんだけど、正直僕にはさっぱりわからない」

「分かった。俺が見るよ。秋人と当夜は他の部屋を調べてきて」

適材適所である。

薫が一番見つけたいのは例のDNAの鑑定書だ。

あれがあれば言いがかりに証拠をもって反論できる。素早く書類を仕分けていく。主なものはギルドからの依頼書や報酬関連の書類、ドロップ品の買取や売却についての証明書、健康診断の書類なんてものもあった。

「あ、これ」

秋人の母子手帳も発見した。

「ふふ、可愛いな」

まん丸の赤ちゃん姿の秋人の写真が綺麗に貼ってあった。そのすぐ近くにはアルバムが無造作に並んでいる。

「しかし、凄い枚数だな」

連写かよというレベルで寝返りを打たない我が子の写真が続いているページとか若干狂気を感じる。それでも、彼らの秋人への愛情が偲ばれた。

「後で秋人に見せてやろう」

薫はそっとアルバムを閉じて、横に重ねた。

「この中かな…」

小型の金庫を発見した。

「秋人!」

呼びかけると秋人と当夜がやってきた。

「この金庫開けられるか?」

と薫が尋ねると秋人は少し首を傾げた。

「ダイヤル式みたいに偽装してるけど、たぶん違うね」

フムフムと秋人が金庫に手を当てて何かを読むように瞳を動かした。

「これかな…」

表の扉ではなく裏側の平たい部分に秋人が手を当てた。

かちゃん

軽い音がして裏側の部分が開く。

「こっちが扉なんだ」

当夜が思わず呟いた。

「大事なものが入ってるみたいだな」

薫が見ている中、秋人が金庫の中から取り出したのは、いくつかの封筒だった。

「薫、これ」

「ああ、DNA鑑定書だな」

中の一つは探していた書類だった。

もう一つの封筒を開けると秋人は少し顔を曇らせた。

「遺言書だ」

「そうか…」

自分たちが死んだ時のことについて、細やかな内容が記載されていた。おそらく、もしもの時は加藤がこれを処理する予定だったのだろう。

「秋人…これはお前宛てだ」

少し大きめの封筒の中には日記が入っていた。

「お母さんの日記!」

秋人は恐る恐るページをめくった。女性らしい几帳面な文字でつづられた日記だった。

「後で読むよ」

三つの封筒を秋人が収納魔法でしまった。

さらに、もう一つ。金庫の中に鎮座しているものがあった。

「なんだこれ?」

秋人が首を傾げる。キラキラした美しい魔石だった。虹色に輝く不思議な石で、見たことがない代物だ。

「たぶん、ヤバい物だな」

「うん、俺もそう思う」

薫と当夜が即答する。

「なんで?」

と思わず秋人が尋ねると薫は肩を竦めた。

「DNA鑑定書と遺言書と日記と一緒に入ってるもんだぞ。こんな無造作に突っ込んであるが、絶対ヤバいもんだ」

「それもそっか」

思わず納得してしまう秋人だった。彼は自分たちの両親がちょっとだけ自分が想像していたよりエキセントリックな人たちだったという事を受け入れつつある。

「じゃあ、これは薫が持ってて」

秋人は魔石を薫に手渡した。

「何かあった時の為に分けておこう」

という秋人の提案に薫はさほど考えもなく頷いた。

「帰って小姫に見てもらうか」

「そうだね」

とこの石についてはそれで終わった。

とりあえずデパ地下ダンジョンのコントロールは回復したので、一旦再封印することにした。まだ調査したいものもあるし、家のAIに尋ねてどう処理したらいいのかを聞く必要があるからだ。

「また来るよ」

秋人はほんの少し懐かしさを覚える住居にそっと別れを告げた。