作品タイトル不明
16. デパ地下ダンジョン 1
お見舞いを終えてそれぞれが帰宅の途に就いた。秋人は当然そのままデートを続行である。想定していたより時間を取られてしまったので、美術館は諦めて都内の大きな画材屋に二人で向かうとのこと。
薫と当夜は帰宅。夕飯はいらないと秋人が言うので、どこかで食べて帰ろうという話になった。
「先生、俺寿司が食いたいです。回ってないやつ」
「お前ね…」
薫が当夜をジロリと睨むも、彼は悪びれない。
「ナイショにしておきましたよ。能登さんの施設代を先生が出してるの」
「・・・・・・・・・・・・分かったよ」
「ごちになりまーす」
薫は深々とため息をついた。
麗美は加藤の愛人だと自称しているが、そういう関係ではなかったことは知っている。それでも、加藤がかなり気にして世話を焼いていた女性だったので、薫にとっても大事な存在だった。親戚のような気持ちである。その義母の介護施設ということで麗美にはかなり安めに告げているが、本来の月額利用料は0が二つ足りない。
ましてや、麗美は秋人の両親の関係者だ。赤ん坊の秋人の世話をしたこともあるという。ならば、薫にとっても親族も同然だ。
「でも、聞かれたらちゃんと半分くらいは出させてやった方が秋人も安心すると思いますよ」
「分かってるよ」
当夜の指摘に、薫は渋々頷いた。
実際のところ、薫の資産はやばいことになっている。秋人の取り戻した資産の5パーセントの取り分だけでも恐ろしい金額なのだが、Sランクの 探索者(シーカー) の報酬は、弁護士稼業が小遣い稼ぎに見えるレベルで高額だ。つい先日もデステニーワールドの外郭討伐への報酬が目玉が飛び出る金額だった。なので、これくらいの出費はどうってことない。
問題は、先日美香を救出する際の桜子に協力してもらったことへの報酬だ。桜子に直接聞くのは憚られるので後藤に尋ねてSランク 探索者(シーカー) への報酬金額を算出してもらったところ、それが康子に伝わり桜子の知るところとなって、彼女にしこたま怒られたところだ。
「秋人は私の弟子だよ。その彼女を救出するのに私がどうして報酬をもらわなくちゃいけないんだ」
と激怒である。昨日から口をきいてくれないので薫は凹んでいる。
「俺、コミュ力ないのかな」
コミュ力のない弁護士とか成立するのか?と心の中で思いつつ、そうため息をついた。
秋人が自宅に帰るとキッチンに人の気配があった。
「ただいま」
と言うと、薫が跳びあがって驚く。本当にまったく薫は秋人の気配を感じられないのだなと妙に感心した。
「お帰り、秋人」
「これ、お土産」
昼間のデパ地下で買ったプチフールの詰め合わせを手渡す。箱を開けて中身を見た薫はそれが秋人の好みの食べ物だとすぐ気が付いた。
「綺麗だな。今食べるか?」
と薫が聞くので秋人は頷いた。薫が紅茶をセットするのをぼんやりと眺める。心なしか薫にいつもの覇気がない。
「もしかして、薫ちょっと元気ない?」
秋人の問いかけに薫は苦笑する。
「うん、ちょっと。桜子さんと喧嘩しちゃってね」
「何やったの?」
「え、俺が何かやった前提?」
「そりゃそうでしょ」
秋人の容赦ない言葉に薫が撃沈する。薫が例の報酬の話をすると秋人はピクリと額に青筋を立てた。
「それ、僕にも支払いの義務があるのではないかと思います」
「はい、ソウですね」
視線を反らす薫の返事に秋人は一つ大きなため息をついた。
「まあ、いいよ。そこは薫に任せる。でも、師匠が怒った気持ちは、僕はすごーく分かるから、自分で解決してね」
「はい」
薫がしょんぼりと肩を落としたので、秋人は小さく笑った。
こうしてみると薫だってまだ30歳手前の青年で、人生経験が少なく、色々とままならないことがあるのだ。すごく大人で頼りになる人だと秋人は思っていたけど、悩んだり困ったりすることも沢山ある。そういうところが見えてなかったなと秋人は改めて保護者を見て思った。
いつか、薫が自然と頼ってくれるようなそんな大人になろうと、紅茶を飲みながらため息をつく薫を見て、秋人は誓った。
「そういえば、昔住んでたデパ地下ダンジョン発見したよ」
「ぐふっ」
秋人の発言に薫が思わず紅茶を吹き出す。
「一体、いつの間に…」
咳き込みながら薫が尋ねるので、秋人は皿に載せたプチフールを指さした。
「これ買ったところだった。小さめの店舗で駅直結のデパ地下が大きなとこ」
「ああ…」
先日聞いた条件にモロに当てはまるので、薫は納得の表情を浮かべる。
「明日行ってみるか…」
「うん」
秋人は嬉しそうに頷いた。久々に薫と当夜と三人での探索だ。
翌日、秋人と薫、当夜の三人は例のデパートに開店早々訪れていた。
「入り口は覚えてるのか?」
薫が尋ねるも秋人はうーんと眉を寄せた。 瞬間移動(テレポート) ではなかったような気がする。
「エレベーターじゃないっすか」
見本が薫のビルだとしたらその可能性は高い。三人はエレベーターホールへと向かった。小規模のデパートなので、エレベーター乗り場は2つしかない。そのうちの一つが地下にしか行かない仕様になっていた。
「あ、これっぽいな」
薫が呟く。三人でエレベーターに乗り込む。まだ開店したばかりで地下へのエレベーターを利用する人がいなかったのが幸いだ。
「秋人、B1を2回押してみて」
との薫の指示に秋人が従うと、B1の表示の下にB2が現れた。
「ビンゴ」
当夜がニヤリと笑う。仕様としては神崎家のビルと同じようだ。おそらく、秋人の情報が登録がされているのだろう。
三人は表示されたB2でエレベーターから降りた。
「これは…」
思わず薫が唸る。秋人も目を見開いてその光景に息を飲んだ。
樹木が生い茂り、地下とは思えない光景である。辛うじて天井はダンジョンの様相だが、薫のビルとは明らかに異なる。
「管理できてなさそうだな」
薫が片眼鏡を装着する。
「AIと制御装置がうまく働いてないのかも。とりあえず、一旦少し討伐するか」
薫が杖を出して三人に防御魔法を展開した。途端に何頭かのモンスターが現れるも、薫の魔法に弾かれて消滅した。
「周囲の装置は壊さないように気を付けて」
との薫の言葉に秋人と当夜は頷いた。
「この前の討伐で、僕はだいぶ出力絞って攻撃できるようになったんだ」
と秋人が自慢げに胸を張った。
「そりゃあ、頼もしいぜ」
と当夜が笑うも、言葉とは裏腹に秋人が振るった剣は、モンスター3頭を同時に消滅させた上に対岸の壁にまで到達していた。
「あれ?」
「おいー」
秋人が首を傾げる。
「周囲の装置に気を付けて!俺じゃ直せないからな!!」
と再度薫に注意され、二人はペロリと舌を出した。