軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9. デートへの道

薫たちはそのままなし崩しに解散となった。後藤は

「後で聞きたいことが山のようにありますが、とりあえず日を改めます」

と疲れた顔で帰って行った。麗美も

「私もお店閉めてもう寝るわー」

と去っていく。

住居スペースには薫と小姫だけが残った。

「小姫、お聞きしたいことがあります」

【なんじゃ?】

「今の世界は何度かやり直してますか?」

【…今は2回やり直した3回目の世界じゃな】

「やはりそうですか…」

薫はため息をついた。

【なぜそう思った?】

「あなたのこの前の言動からそのように考えていましたが、世界をやり直すなんてそんなこと、どうやって成したのかが分からなかった。でもこの前知り合いの 探索者(シーカー) からヒントをもらいました」

薫はそっと目を伏せた。

「探索者のレベル100の願い事ですね?」

【そうじゃ】

「一度目のやり直しを願ったのは秋人?」

【うむ】

「二度目は私ですか?」

【そうじゃ】

「三度目のやり直しは勘弁してほしいですね」

と薫はほろ苦い笑顔で笑った。

【三度目は無理だろう。人の魂はそこまで頑丈にはできておらぬ】

小姫の言葉に薫は顔を曇らせた。

【すでに、弱い者はだいぶ消耗しておる。特にあの娘は深刻じゃ。次はないと思え】

彼女の言葉に薫は眉を寄せた。

「因みに以前の彼女はどうなったんですか?」

【最初は無残に殺されてその骸を見た龍は発狂した。次は…目の前でな。二度ともそなたは龍の魔力暴走を抑えるために、魔力回路のほとんどを失い3カ月ほど意識不明だった】

「今回は回避できたってことですね…」

ふうっと薫は安堵のため息をついた。

【この世の者の祈りの力は強い。あの娘は二度悲惨な末路を辿ってもなお、龍を愛することは止めなかった。おそらく2度の死を本能的に覚えていた筈だが、それよりも龍への想いを伝えられなかったことが、娘の後悔の最たるものだったようじゃな】

「?」

【そなたは二度目のやり直しの時に、自分のある能力と引き換えに条件を付けたのじゃ。三度目の世界では龍を慕う者たちがやり直し時の後悔を本能的に覚えているようにと】

薫は応えない。いかにも自分が付け足しそうな条件だとは思った。

【あの娘だけではなく、龍の学友たちもな。あの遊園地で集合に遅刻して揃わなかった者を探して、龍はモンスターへの対応が遅れた。故に被害は今回よりはるかに深刻なものとなった。その事を、後に 救世来神教(エルミネイト) どもにつけこまれ、世論はあの子の敵に回った】

薫も不思議だったのだ。あの年頃の少年少女にしては、1-Bの学生たちは遅刻しない。彼らの後悔はおそらくそれだったのだろう。

「ちなみに私が引き換えた能力って教えてもらってもいいですか?」

薫が尋ねると小姫は意地悪く笑った。

【分かっておるだろう。変態を寄せ付けない能力じゃ。そなたの顔は加護が深いのでな。因業どもを呼び寄せるのだが、加護が追い払っておったゆえに、以前のそなたは今ほどひどい目にはあってなかったよ】

がっくりと薫は肩を落とした。

「たぶん二度目の私が想像をしていたより遥かに私、酷い目に合ってますよね?」

と薫が思わず尋ねると、彼女はうっすらと笑った。

【仕方あるまい。代償とはそういうものじゃ】

と。

翌日の朝、秋人は一応朝食のテーブルにはついていたが、かなり不機嫌全開だった。当夜は、昨日薫が無断で出かけたことに対して、まだ怒っているのかと思っていたので

「おはよう、秋人。まあ先生も無事に見つかってよかったじゃん」

ととりなしたつもりだった。しかし、その事を今の今まで忘れていた秋人は、さらに機嫌が悪くなった。

「ご馳走様」

と一言で席を立つと振り返りもせず家を出た。薫が深くため息をついてテーブルに突っ伏す。

「どうしよう。すごく怒ってる」

「薫さん、何やったの?」

桜子が呆れたように尋ねたが、流石に内容を話せない。

「ちょっと、その…デリカシーのない事を言いまして」

桜子も当夜も「ああ」という顔をした。

「もう、先生は美香ちゃんとのことには、口出さない方がいいと俺は思うっす」

「そうだな。私もあまり人のことは言えないけど、薫さんはちょっとその辺への配慮が足りないと思う。秋人は思春期だしね」

と二人からガン詰めされて、薫はさらに凹んだ。

「招集状の事、話さないといけないんだけど…そこまで話がたどり着かない」

小さくため息をつく。

探索者(シーカー) 本部からの呼び出しは、こちらの事情がよく分かっているのか、春休みを指定してきていた。おかげで薫も仕事の調整がつけやすい。しかし、いまだに秋人に説明ができずにいた。

秋人は学校に着いたらすぐ美術室に向かった。

「おはようございます!」

と元気にドアを開ける。

「おはよう、秋人くん」

と秋人の大好きな美香が笑顔で挨拶してくれたので、今朝の不機嫌はだいぶ吹き飛んだ。

しかし、秋人はそこではたと気が付いた。

「あの…ちょっと相談が…」

歯切れの悪い秋人に美香は首を傾げる。

「明日、美術館に行こうって言ってたけど、日曜日に変更してもいいですか?」

秋人と美香は二人で明日の土曜日に出かけることになっていた。所謂、付き合って初めてのデートである。しかし、いきなりの延期のお願いを言う羽目になって、秋人は悲しい気持ちになった。

「何かあったの?」

不安そうな美香の顔色に秋人は大慌てで首を振った。

「いえ、あの実は…中学生の時にすごくお世話になったおばあさんの行方が分かったんだけど…」

「まあ」

美香の顔に笑顔が浮かんだ。

「それで、今は体を壊して施設に入ってるらしくて、お見舞いに行こうと思ったら、一般のお見舞いは日曜日はだめみたいで」

話しているうちに美香の目はキラキラと輝いていた。

「それは全然気にしないで!あの…でもよかったら私も一緒にお見舞いに行ってもいい?」

「え?」

「秋人くんがお世話になった人なら私もお礼言いたいな」

と美香が微笑んだ。

「あ、そしたら一緒にお見舞いの品を買いに行って、それから行きませんか?」

と秋人が言うと、美香はうんと大きく頷いた。

傍から見ていた他の美術部員たちは、隅っこで小さくなっていた。

「部長!ラブラブ光線がきついです。今までに増して強力に!」

「如月、初のデートが施設へのお見舞いでいいって言うのは、工藤が菩薩だからだぞ。他の女なら一発アウト案件だぞ」

「部長…独り身が辛いですぅ」