軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19. 分体

秋人はまだ釈然としない気持ちで項垂れていた。

体が治ったのは分かる。さきほどから本当は立っているのも辛かったのがいつもどおりに回復している。魔力も戻っており、今なら自宅まで美香を抱えて 瞬間移動(テレポート) で戻ることが可能だろう。

けれども、そのために支払ったものに対するダメージが大きすぎて言葉も出ない。思わず樹の女性を恨みがましい目つきで見てしまう。

【まったく、龍の執着は凄まじいのう。一生恨まれそうじゃな】

女性は深々とため息をついた。

「あの、その龍って如月君のことですか?」

美香の質問に女性は「うん」と首肯した。

「あのね、あの男の人が如月くんのことを『龍神族』って呼んでたの」

美香の言葉に秋人は首を傾げた。そんな名前は聞いたことがない。モンスターにもいなかったはずだ。

【厳密にはすこーしちがうのだがな。それに一番近い存在っという事じゃ】

女性が淡々と答える。

秋人はあまり自分が人外であること考えたくないので、積極的にその辺りの知識を深堀しようという気がない。ふいっと横を向いて聞こえないふりをした。

【阿呆め】

女性がまた秋人の頭に拳骨を落とした。

「痛い!」

秋人が頭を抱えてまた蹲った。慌てて美香が駆け寄る。

【先ほどのやりとりを忘れたか!童よ。知識を正しく得ること、モノを考えることを放棄してはならぬ。その所為でそなたは愛する龍珠が最初に作ってくれた貢物を他人に譲り渡すという痛恨の失敗をしているのじゃぞ】

「・・・・はい」

小さく頷いた。

【とはいえ、そなたのもう一つの珠も聞きたがるだろうしな。面倒だな】

「もう一つの珠?」

秋人が首を傾げた。

【ほれ、この前の。やたらと綺麗な顔の男じゃ】

「薫のこと?待ってよ、僕は薫のことは大好きだけど、先輩への好きとは違うよ!!」

不安そうな美香の顔をみて、秋人は慌てて告げた。

【気の多い龍じゃなあ。普通は一珠なのじゃが】

「待って!誤解を解いて!」

あわあわと秋人が焦って手をばたばたさせて女性を追いかけた。

しかし、そんな秋人の焦燥などまったく興味がない女性は「ふむ…」と何やら考え込んだ。

【そうじゃ!これをそなたの住居のダンジョンに植えるがよい】

女性は樹の枝を折って秋人に手渡した。

【妾の分体を作ってやろう。あそこはダンジョンだからその樹を養うことが可能じゃ。そこで、そなたのもう一つの珠と共に色々と話して聞かせようではないか】

「誤解を解いてえええ」

秋人の声に涙が混じる。

秋人が空中に浮かんでいる女性にぎゃんぎゃん抗議していると、不意に美香の耳元に声が届いた。

【娘よ】

慌てて辺りを見渡す。

【よく耐えた。よく頑張った。よくぞ死の淵から蘇った】

女性の声はどうやら美香にだけ届いているようだ。

【そなたの死は童の心を殺した。一度目も二度目も魔力暴走を起こした童を止めるのにあの男は魔力回路のほとんどを焼き尽くされたほどだった。それがなくば、ああも簡単にやられはしなかっただろう】

声には悔恨が籠っていた。

【二度の死の記憶は恐ろしかったであろうに、よくぞやり切った】

美香は彼女が何を言っているのか理解できなかったが、何かずっと胸の奥に潜んでいた後悔が報われたような気がした。

【褒美に妾の加護をやろう。一度だけ、無理難題を聞いてやる。妾の名前を呼ぶがよい】

咲夜姫

それが彼女の名前だった。

無事に新潟から帰って来た秋人はキラキラした枝を一本掴んでいたが、かなり凹んだ表情をしていた。

「もらえなかったのか?」

と当夜が心配したくらいである。秋人は静かに首を振った。

「僕のチョコレートケーキ取られた」

とだけしか言わないので、帰りを待ってた三人は困惑した。

「薫、これダンジョンに植えろって」

と枝を渡す。

「急いだほうがいいか?」

「たぶん」

慌てて二人でダンジョンの地下に降りてその小枝をダンジョンの床に植えた。

二人は枝をしばらく眺めていたが、キラキラした光がダンジョンから降り注いでいるだけで、何の動きもなかった。

「これでいいかな?」

「少し時間かかりそうだね」

「そうだな…」

仕方ないのでそちらは後回しにして、美香を家まで送っていこうということになった。

既に、彼女が行方不明になって24時間以上経っている。家族はさぞ心配しているだろう。一応ギルドから犯罪現場に居合わせてしまい、犯人に誘拐されてしまった旨は伝えているが、家族はきっと生きた心地がしないに違いない。。

「ただいま」

部屋に戻ると美香から事情を聞き出した桜子と当夜が、不憫なものを見る目で秋人を見ていた。

「ま、まあ元気だせよ」

当夜がぽんぽんと秋人の背中を軽く叩く。秋人は憮然とした顔をしている。

「僕のチョコレートケーキ…」

思い出すだけでじりじりと胸が痛くなり泣きそうになる。そんな秋人を美香はなだめすかしている。

その様子を見ていた当夜は

「すごい甘えてるんですがいいんですか、あれ?」

と桜子に尋ねる。桜子は

「まあ、いいんじゃないか」

と遠い目をした。

実は桜子も現在痛恨の事態に陥っていたのだが、見た目は落ち着いていたので誰も気が付かなかった。

「独り身にはきついっす」

と当夜がぼやいた。

「工藤さん、送っていくよ。ご両親にもお話させてもらわないとね」

と薫が車のキーを掴む前に、当夜が取り上げた。

「先生、俺護衛なんで。ほんと、俺を忘れていくとか勘弁してくださいよ」

昼間秋人を連れて二人だけでギルドへ行ったことを怒っているらしい。

秋人も行くと言ったが今回はダメだと薫は言った。

「秋人の気持ちはわからなくはないが、少々誤魔化しを交えて説明する必要があると思う。秋人は顔に出るからな」

との薫の尤もな言葉に秋人は撃沈した。

今日は己の未熟をこれでもかと味わわされる日らしい。

「帰ったらRINEするね」

の美香の言葉がなければ立ち直れないところだった。