軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17. 節度あるお付き合い

秋人はふらふらになりながら、魔力回復薬を1瓶煽った。もう1本取り出したが、桜子が横から取り上げる。

「連続使用は体に悪いからダメ」

「この前、薫はやってたよ」

秋人が反論するも、彼女は厳かに首を振った。

「これはダメな大人の見本。子供はダメです」

桜子の言い草に秋人は頬を膨らませた。

「師匠のいけず」

「い、いけずってどこでそんな言葉覚えてきたんだ!?」

桜子は可愛い弟子の思わぬ反撃にダメージを負った。

二人のやりとりを見ていた美香がそっと俯く。デパートでの一コマを思い出したのだ。

さっき咄嗟に好きだと告白してキスまでしてしまったが、秋人は桜子が好きなのだ。美香の気持ちなど迷惑この上ない筈だ。

きっと彼女とこんな風な気軽なやりとりをしているうちに好きになったのだろう。そう思うと切ない。

「先輩?」

さっきまで『美香』と呼んでくれていたのに、今はまた先輩に戻っている。桜子の前だからだろうか。頭がぐちゃぐちゃで美香は泣きそうになった。こんな大変な場面で嫉妬しているなんて、どうかしてる。しかし、

「先輩、あの…先輩の好きな人って僕?」

唐突に秋人がそんなことを言い出したので、一同ぎょっとして秋人と美香を見つめた。

「え?あの…」

美香がどう反応していいか困惑していると、秋人はさらに告げた。

「僕、何日か前の朝、先輩に会いに美術室に行ったんだ。そしたら、先輩が誰かに告白されてて、その時他に好きな人がいるって言ってたから、すごくショックだった」

美香は秋人が何を言い出したか分からず混乱中だ。

「僕は先輩のことが好きなんだけど、先輩の好きな人って僕であってる?さっきそう言ってくれたよね?」

縋るような目で秋人が美香に懇願する。

「僕の事好き?」

ぎゅっと秋人の冷たい手が美香の手を握った。

さっきまで、この手は斬り飛ばされて喪失していたのだ。美香の為に大切な絵筆を握る手が無くなってしまった。

足もおそらく靴ごとダンジョンのどこかに落ちてるはずだ。秋人は片方裸足である。2月の寒空の下、冷たいアスファルトで足指の先が赤くなってる。それも美香を救うために失ったのだ。

美香なんかを助けるために秋人は死ぬような目にあった。心が痛い。自分のような何の力もない人間が秋人の傍にいるのは、彼の為にならないのではないか?という考えが浮かんだ。

霧崎桜子ほどではなくても、もっと有能な 探索者(シーカー) ならこんなことにはならなかったのではないかと…

それでも、美香はもう二度と間違えない。

心に嘘はつかない。

「好き。私は如月くんが好きよ」

美香は秋人の目を見てはっきりと告げた。

その言葉を聞いた瞬間の秋人のえもいわれぬ美しい笑顔に、美香は心を撃ち抜かれたような心地になった。ぞくりと体の奥底の電気が走って、何かががっちりとつながるようなそんな感覚だった。

「嬉しい」

秋人はそう呟いて、握った美香の手に口づけた。

「ひゃっ」

美香が思わず変な声をあげると同時に、二人を通して金色の光が走った。

「なんだ?」

桜子と当夜がきょろきょろ見渡す。薫もさすがに今のは見えた。

「何か、契約っぽかったな」

その辺を司るジョブだからか、薫にはそのように感じられた。悪い感じではなそうだった。

「秋人、何かした?」

薫の問いかけに秋人はふるふると首を振ったが、何かが美香とつながったのは何となくわかった。

しかしである。

「あのね、でも如月くんは、他の人が好きなんじゃないの?」

美香の言葉に秋人が驚嘆の表情を浮かべる。

「な、なんで!?」

せっかく幸福感で溢れていたのに一気に地獄に叩き落とされたような気持になった。

「えっと、その…デパートで見たの」

「何を?」

あまりにも秋人が心外そうな顔をするので、美香も若干自信がなくなってきた。

「如月君が霧崎さんにチョコレートをあげてるのを見たの」

蚊の鳴くような声で美香が告げる。

言われた秋人は意味がわかっていなかったが、桜子は瞬時に理解した。そりゃああのシーンを見たら誤解も六階もない。

「ああ!あれ?あれは違うよ。美香ちゃん。秋人がお礼にってくれただけだよ。薫さんと一緒に食べてって。義理だよ。義理チョコ」

「違うよ、師匠。東部デパートで一番本命のチョコレートだよ。美味しかった?」

と秋人が呑気に桜子に尋ねる。その言葉で美香がまた不安そうな顔をした。

「またややこしい事を言い出したな」

と薫が頭を抱える。

「そういやあ、変な覚え方してたな。バレンタイン」

当夜が深いため息をついた。

薫は一連の騒動について若干脳内で整理してから、美香に向き直った。

「秋人は桜子さんに対して恋愛感情は欠片ももってないので大丈夫です。どっちかというとお父さんみたいに思ってます」

「待って!性別が違う!せめてお母さんにして!」

と桜子が抗議の声を上げるも、当夜までうんうんと頷いている。

「秋人は本命チョコの定義を完全に間違って覚えているので、後で教えてあげてください」

と薫はいたずらっぽく美香に笑いかけた。

「?」

言われた内容が理解できず、秋人は首を傾げていたが、ふと当夜に尋ねた。

「 探索者(シーカー) になる24時間って積算?それとも一回出たらリセット?」

「リセットだな。そうじゃなかったら、ダンジョンに1時間だけ入って24日通うとかいう奴が山ほど増えてるだろ」

「そっか」

秋人はごそごそと収納魔法から一つの白い珠を取り出した。

「新潟に行ってくる」

美香をさっと抱きかかえるとそんな事を言い出した。

「僕はともかく先輩の怪我はポーションとか回復魔法じゃ完治しないから、万能薬をもらってくるよ」

そそくさと準備をしだした秋人に薫が待ったをかけた。

「秋人、うちの門限はたった今23時になった」

「え?」

夜更かししている訳ではないが、そんな事を言われたことがなくて秋人は何事か分からず、薫の顔を見上げた。

「わかった。できるだけ23時までに戻ってくるよ」

今はもう21時に近い。ちょっと無理かなとは思ったがとりあえず頷く。しかし、薫は真剣な顔である。

「あー…君も工藤さんも高校生だ。それは分かってるね?」

薫がやたらと遠回しだが真剣な顔でそんな事を言い出した。秋人は薫の言いたいことがよく分からず首を傾げた。

「高校生としてだな…その…せ、節度あるお付き合いをしなさい。俺は秋人を信じてるよ」

とまったく信じてない顔で薫が告げる。

秋人より先に美香の方が薫の言いたいことがわかって、トマトのように赤くなった。その美香の様子を見て、ようやく秋人は薫が何を心配しているのか理解した。

「な、何ってもう!ひどいよ!薫の馬鹿っ」

と秋人が叫びながら珠の力を使って新潟のダンジョンへ跳んだ。

「ば、馬鹿ってそんな…は、反抗期?」

薫ががっくりと肩を落とす。秋人に初めて罵られてかなりショックを受けている。しかし、そんな恋人の様子を見て、桜子はぼそぼそと当夜に話しかけた。

「あのさ、もしかして薫さんに今までまともな恋人ができなかったのって、その…女難の所為ばっかりじゃないのでは…」

「いや、俺ももしかしたらそうじゃないかなーとちょっと前から思っていたところでして」

ぼそぼそと二人は薫についての疑問を確認し合った。

「デリカシーってものがちょっと…ねえ」

と。