軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16. エリクサーの秘密

「如月君!!」

美香が振らつきながら秋人の元へ転び寄る。フラフラで今にも倒れそうだった。

「霧崎さん!如月君を助けて!如月君が死んじゃう」

美香がわあわあと声をあげて泣いている。その声が切なくて大丈夫だよと言ってあげたいのに、肺が潰れているせいでうまく声が出なかった。

「秋人!!」

声と共に桜子が駆け寄った。

「これ、抜いても大丈夫なんだろうか?」

桜子が秋人を貫いている棒状のものに手を掛けるも、抜くと大量の出血になりそうで躊躇う。

アークエンジェルなら回復魔法師のリサがいるので、問題ないのだが神崎家は回復魔法が使える魔法使いはパーティーにいないのだ。代わりに薫は信じられないくらいエリクサーを使いつぶしているが。

「どうやってここへ?」

秋人が苦しい息の元桜子に問いかける。こんな場で聞く話でもないかもしれないが、聞かずにはいられなかった。

秋人は場所を薫に告げられなかった。AIの復活はまだではなかったのか?

「薫さんと跳んできたんだけど、彼は魔力切れで当夜が背負ってこっちに来る予定」

三人の人間を移動させるのは、流石に魔力が多い薫でもかなり苦しかったらしい。

「どうしてこのダンジョンだって分かったんですか?」

秋人が尋ねると、桜子は肩を竦めた。

「ああ、それか…」

秋人が跳んでから慌てて帰宅した薫は、大急ぎで地下に向かった。当夜と桜子も一緒に初めて地下ダンジョンに入った。

「先生!」

薫がPCに向かって問いかける。

「便利屋じゃねーぞ」

とPCの中の加藤が文句を言うのに、当夜と桜子は困惑した。人間すぎる受け答えで、到底プログラムとは思えない。

「AIでしょ。計算して。 救世来神教(エルミネイト) の死体の位置はこれ。この道筋で工藤さんが連れ込まれた可能性が一番高いダンジョンはどこ?」

薫の言葉にしばし加藤の映像が止まる。

「時間がかかるぞ」

「急いで!」

「分かった」

加藤は頷いて、そこから動かなくなった。ローディングマークがくるくると回っている。薫はイライラとしながら1時間近く待った。

「霞が関第一の可能性が高い」

AIらしいぶっきらぼうな返答がようやく返って来た。

「地図!」

Webマップで霞が関第一ダンジョンの場所を確認する。

「ここなら跳べる」

薫が地図を見ながら大きく頷く。しかし、加藤は難色を示した。

「三人で跳ぶのはお勧めしないぜ。お前の魔力量だと着いたとたんに魔力切れだ」

「当夜に運んでもらう。秋人の傍に行きたいんだ。たぶん拙いことになる」

「気をつけろよ」

PCの画面がブラックアウトした。

「先生、これ大丈夫っすか?」

思わず当夜が呟く。

「かなり無茶な計算してくれたからショートしたんだろ。しばらく放置しておけば勝手に治るから大丈夫」

「え?」

当夜と桜子が困惑する。

「自己修復するんだよ、このAI」

薫の言葉に当夜と桜子はげんなりした。ここはおそらく自分たちが想像しているよりやばい場所だと分かったのだ。

「それじゃ、跳ぶよ。桜子さんは着いたらすぐ秋人のとこに行ってください。俺は当夜に面倒みてもらいます」

「分かった」

薫が杖を取り出す。

【 瞬間移動(テレポート) …】

桜子はダンジョンの背後の建物を指さした。

「あの建物、何か知ってる?」

「さあ?」

秋人が首を振った。美香はもうハラハラしていてこんな呑気な会話をしている意味が分からない。

「あれは東京家庭裁判所。薫さんが事務所と自宅の次によく通っている職場だよ」

だから跳べたんだと桜子は言い放った。

「おーい」

とそこでようやく声がして、薫を背負った当夜がやってきた。

「秋人!大丈夫…ぎゃっ、痛そう。お前なにやってんの?」

当夜の言葉に憤然と美香が食って掛かった。

「朽木さん!そんな悠長なことを言ってる場合じゃないです!」

まあまあと桜子が宥める。

ふらふらの状態で薫が当夜の背中から降りた。それからごそごそとポケットから金色の瓶を取り出す。

「じゃじゃーん。万能薬(の瓶)―」

青いネコ型ロボットの真似をして、薫が瓶を掲げる。

いつものことなので、当夜は薫の奇行を黙って見つめているが、桜子と美香はちょっと引いた。

「秋人、大丈夫か?」

そっと薫が秋人の顔を覗き込みながら、秋人を貫いている杖に軽く手を掛けた。

「これ、抜きながら薬掛けるから、それで治った風に治せるか?」

ほとんど吐息のような小さな声だった。秋人ははっとして薫の顔を仰ぎ見た。

「中身はただのエリクサーだけど、金子に万能薬の瓶をもらって来たんだ。その辺で誰が見てるか分からないし、まだAIが直ってないから映像は残らないと思うが、念の為な」

「いつから?」

秋人は茫然と薫の顔を見つめた。

何度も話そうと思ったけどどうしても言えなかった自分のこの能力に、彼が気がついていたことに驚いた。そんなそぶりは欠片も見せなかった。

薫に嫌われたり、恐れられたら、おそらく自分はもう生きる力をなくしてしまうだろうとそんな想いから、どうしても口に出すことができなかったのに。

「最初に気が付いたのは俺じゃないよ」

小さく薫が笑う。

「できるか?」

もう一度問われて秋人は小さく頷いた。

杖を当夜がゆっくりと引き抜く。薫は金色の瓶から液体を傷口に掛ける。染みるらしく秋人が小さく呻いたが、どうにか抜き去ることに成功し、傷も塞がった。

「さすが、万能薬!まあいつもエリクサー飲んでるからね。治癒力も上がってるし、良かったよかった!」

薫が自画自賛する。

「え?エリクサーってそんな効能あるの?」

と桜子が驚きの声を上げる。

「まあ、うちほど阿呆みたいに飲んでいれば?」

と薫が偉そうに胸を叩く。

「常識外れなほど消費してるっすよ。神崎家のエリクサー消費量はおそらく日本での使用料の半分くらいだって後藤さんに言われてます」

と当夜が遠い目をした。

秋人は茫然と薫の美しい顔を見る。薫は笑って親指を立てた。秋人は今日初めて、薫が「美味しいから」と毎度些細なことでエリクサーを使用していた理由を理解した。

秋人のこの能力を誤魔化すためにやっていたのだ。