軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

明かされる真実  3

「ひ……どいな」

首に手を当てて一瞬苦しげな顔をしたアルデルトは、浄化の光に包まれると驚いた顔になり、苦笑いしながら私を見た。

「僕が信じていた世界は全て偽りだった。もう生きる意味がないんだよ」

「ふざけんじゃないわよ!」

はあ? 何を言ってるの?

今回ばかりはマジで切れたわよ。

ずんずんとアルデルトに近付き、思いっきり肩をどついた。

「なに被害者面しているのよ。今までいくらでも気付くチャンスはあったのに、自分に都合のいい嘘だけ信じてきたのはあなたでしょ。あなたにはこの国の王太子としての責務があるの。それもわからないくせにペンデルス再興なんて出来るわけないじゃない。王族ならペンデルス人が大歓迎してくれるとでも思っていたの? 頭の中お花畑すぎるわよ」

文句を並べながら、何度もアルデルトの肩や腕をどつく。

アルデルトは反撃せず、でも私の力じゃたいして痛くもないようで、少しよろめきながらじっと私を見つめていた。

「意味がなかろうが、どんなに苦しかろうが、あなたには自分の生死を決める権利もないと思いなさい。楽に死のうなんて……」

「ディア」

怒りのせいで気付かないうちにだいぶ前に進んでいたみたいだ。

回復魔法を浴びているので死なないけど、そのせいで剣が身体に突き刺さっている痛みをずっと味わっているパニアグアが、すぐ横でのたうち回っていた。

「少し下がるんだ」

不意に血の匂いを感じて身を竦ませた時に、カミルが隣に来てくれたのでほっとしたのに、カミルが剣を抜いていたのに気付いてぎょっとした。

「どうしたの?」

「こいつがディアに触ろうとしたら、腕を切り落とそうと思っていた」

カミルは心底アルデルトを毛嫌いしているようだ。

気持ちはわかるわよ。

自分が仕出かしたことの重大さを少しも認識していないんだもん。

生まれた時からパニアグアに妄想を聞かされ続けて、何か欠けているのかもしれない。

「ディアは僕を死なせたくないのに?」

「気やすく名を呼ぶな!」

「カミル、相手にしないで」

この状況でうすら笑いを浮かべるなんてサイコパスよ。

相手をするだけ無駄だ。

「そういえば、シュタルク国王はどうしたの? 最近表舞台に出て来ないそうね」

「ああ。僕が殺したよ。国内を安定させるために政略結婚しろなんて言うからさ。僕の運命の人はきみなのに」

いかれてる。

父親よりパニアグアの言葉を信じたの?

この期に及んで、まだ運命がどうのとほざいてるのを聞いて、すっと怒りが収まって冷めてしまった。

そんなことより気にしなくてはいけないことが山とあるでしょ。

恋愛脳のサイコパスなんて相手にする価値なんてないわ。

「……」

私が反応を返さなかったら、アルデルトは怪訝な顔になった。

そうか。憎しみでも怒りでもいいんだ。

今まで会話さえ出来なかったから、私が反応するだけでいいんだ。

憎しみも怒りも、彼のことを考えているってことだもんね。

「瑠璃、自殺しないように彼も石にしてくれる?」

「ディア?」

背を向けて歩き出したら、慌てた声が聞こえたけど無視よ、無視。

「こいつも石にするんだろう?」

カミルもアルデルトを相手にするのはやめたようで、剣を収めてパニアグアに近付いていく。

「どうする、これ」

傍で様子を見ていたキースが、パニアグアの腹をつつきながら言った。

そういえば彼らもお父様も、精霊王達も、私とアルデルトの会話は聞いていたのに、何も言わないし止めもしなかったのね。

カミルが傍にいたから安心していたのか、私なら大丈夫だと信頼してくれたのか。

どちらにしても、まかせてくれたのは嬉しいな。

なんてのんびりと考えながらカミルを見ていたら、蹴ってパニアグアを横向きに転がして、肩に足を乗せて固定して、力任せに剣を引き抜いた。

「うがああ!!」

すさまじい絶叫と共に、血しぶきが辺りに飛び散った。

「ディア、大丈夫か?」

「ええ、なんとか」

スプラッタな状況にお父様が慌てて駆け寄ってきた。

「ディアの前で何をしてるんだ」

「あ、すみません」

「ああ、僕が壁になって見えないようにするべきでした」

カミルは幼少の頃から命を狙われていたから、カミルもキースも血しぶきなんかじゃ眉ひとつ動かさない。

心配そうなお父様と、申し訳なさそうなカミルとキースに注目されて、ここはどういう反応を返す方がいいのか悩んでしまった。

衝撃はあるのよ。血の匂いも地面やカミルの服に飛び散っている血痕も生々しいから。

でも剣が抜ければ、回復魔法で傷口は一気に塞がっていくので、そんなにグロくはないのよ。

全然大丈夫だぜって答えてしまうのは女の子としてどうかと思うけど、衝撃を受けたり気分が悪くなっていそうな雰囲気を出したら、やっぱりこういう場に私を連れて来てはいけないんだって思われて、今後は家で待っていろと言われそうじゃない。

「非常事態だもの。謝らなくても……ちょっと待って! この回復は何?!」

なんでパニアグアの頬の古傷が治っているの?!

『全力で回復って言った』

「おーのーー!!」

ガイアに言われて頭を抱えた。

確かに言った。言いました。

『まずかったのか?』

「蘇芳ってば、なんであなたまで回復しているの? 頬の傷が消えちゃったじゃない。手配書で確認出来ないわよ!」

『手配されてようがいまいが、五回は処刑されてもしかたないくらいの罪状があるんじゃないか?』

『おまえを攫う計画を立てただけでも、八つ裂きにしていいくらいだ』

瑠璃が静かに怒っていた。

いつのまにかニコデムス側はもう全員石にされている。

パニアグアも倒れたまま石になっていた。

ずらりと彫像が並ぶ様子は圧巻よ。

黒に緑の模様が入った綺麗な石だなあ……。

『全員、海に沈めるか? それとも砂漠に捨ててくるか?』

「王都まで運ぶのよ。裁判をするの」

『めんどうだな』

たぶん、ここで処刑しちゃっても問題にはならないんだろうけど、今はシュタルクの人がいないでしょ。

国をめちゃくちゃにされた人達に、彼らの処分は任せた方がいいじゃない。

「ディア、言われた通りに精霊車は運んだが、あんなにたくさんの石像を詰めるのかい?」

お父様に聞かれて、私は得意げに頷いた。

「みなさん、蜂の巣ってみたことがありますか?」

興味津々な様子で私の答えを待っている人達にも聞こえるように言ったら、いつの間にか地上に降りて精霊獣と遊んでいた精霊王達まで近付いてきた。

琥珀と翡翠がカーラの九尾の狐の尻尾に頬ずりしていたのはしっかり見たわよ。

「なるほど。あの枠の部分に石像を入れるのか」

「さすがお父様、話が早い」

別名、カプセルホテル方式よ。

石像は寝返りしないんだから、かなり狭いスペースに収まるでしょ。

移動ラックのように動かせるようにして、詰め込めばいいのよ。

「彼らはどうする?」

お父様が聞いてきたのはカザーレ達のことだ。

パニアグアの正体を知って、国王が王太子に殺されたという話まで聞いてしまったので、もう立っていられないくらいの衝撃を受けて、地面に座り込んで肩を落として俯いている。

「裁判次第じゃないですか? あのままでも逃げたりはしないでしょうけど、自害はするかも」

「ああ、そうかもしれないね」

気になってカーラがどんな様子かちらっと見てしまった。

微妙な関係だったとはいえ半年以上やりとりしていたから、情が移ったりしているんじゃないかなって。

でもカーラもハミルトンも、精霊王やルフタネンのオジサマ方に囲まれて笑顔で話していた。

成人していない子供がふたり、囮になって外国に来ているんだもん。注目されるわよね。

何もかも失ったカザーレと、今後はシュタルクやベジャイアの高位貴族達にも注目されて、味方を増やしていくだろうカーラと、見事に光と影に分かれてしまったけど、今までの行いを考えれば当然よ。

カザーレに同情する気にはならないわ。

もうここでの決着はついた。

船から物資を降ろす作業は続いていたので、私は主だった人達と精霊車に乗って待機することにした。

ベジャイアとシュタルクの将軍の軍勢とも、この港で合流する予定なの。

ここまで来る間に彼らが持ってきた物資は使い切ってしまって、ここからは彼らも帝国とルフタネンが船に積んできた物資を運搬して、シュタルクの各地に行く予定なのよ。

「やっと終わったのね」

カーラがほっと息を吐きながらカップを手にしている隣で、私は早速お菓子に手を伸ばした。

気を張っていたせいか、さっきまではなんともなかったのに、こうして座った途端にものすごく疲れた気がする。

こういう時は甘いものを食べなくては。

お父様やカミルは、これからの日程の確認を始めとした難しい話をしているので、私はカーラとハミルトンと三人で、窓際の席で休憩中よ。

空間魔法でかなり広くしているので、大勢の人がいても窮屈ではないんだけど、出来れば私達だけ別の精霊車に乗りたかったな。

家族以外の大人がたくさんいる場所では、背筋を伸ばして姿勢よく御令嬢らしくしないといけないでしょ。

「貴族の相手はこれからだから、まだ終わりじゃないよ」

「それは私達がやる仕事ではないでしょ?」

「ああ、そうか。……というか、僕達何もしていないよね」

「そうなのよね」

まったりと姉弟で話しているところ悪いけど、今回のことのきっかけを作ったのはカーラだし、船や港で修羅場っている時にも、騒ぎの中心に立っていたじゃない。

むしろ全く動揺せず、冷静に会話しているふたりに驚いたわよ。

「ディアの後ろにいて、身に危険が及ぶとは思えなかったから」

「それまでみんな冷静だったのに、ディアがアルデルトに食って掛かっていった途端に、緊張が走ったよね」

「この港はシュタルクの水の精霊王の住居だったんでしょ? ディアが破壊したらどうしようって思ったんじゃない?」

「…………え? 私はどういう扱い?」

「ディアのおかげで私達は何も心配しなくて済んだけど、功績だなんて言ったら申し訳ないなって思えてきたって話よ。ねえハミルトン」

「そうだよ。精霊獣に囲まれて立っていただけだっただろ?」

子供の頃は分かれて生活していたから、あまり親しくないなんて言っていた時期が嘘みたいに、このふたり仲良し姉弟じゃない?

「いいのよ。あの場にいたことに意味があるの。これから各国の軍と一緒に王都を目指せば知り合いも増えるでしょ。頑張って外交してね」

「ですって」

「僕がやるの?」

そりゃ、爵位をもらうのはハミルトンでしょ。

まだ十一になったばかりですって話せば、将来が楽しみだって印象に残るわよ。

頑張れ。