軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

明かされる真実  2

「ペンデルスの再興? まあ、そうなの?」

両手で口元を覆って白々しく驚いたら、アルデルトは片目を眇めて眉を寄せた。

ようやく私の見た目と性格が真逆だということに気付いたの? 遅いわ。

今頃、こんな女に夢を見ていたのかよって心の中で思っているんじゃない?

「じゃあ、もちろんペンデルスに行ったことがあるのよね?」

「……」

「ルフタネンに行けるのにペンデルスには行けないなんてことはないでしょ? ペンデルスの現状だって把握しているのよね?」

「当然だ」

「その情報は誰に聞いたの?」

「パニアグアが……」

「パニアグアパニアグアって、早口言葉かっていうの。つまりあなたの知っている世界は、全部そこの詐欺師が作った物で、あなたは彼のお人形ってことでしょう?」

「違う!」

「黙れ! 小娘!」

「うるさい! 禿げ!」

「禿げてなどおらんわ!!」

カミルやハミルトン、カーラが笑い出したので、パニアグアは苦々しげに私を睨みつけた。

釣られて答えた自分が悪いんじゃない。

「さっきから好き勝手に嘘を並べ立てて、そうやって王太子殿下を洗脳するつもりか!」

「え? なんでそんな面倒なことをしないといけないの? もう決着はついているのに」

勝敗は一瞬でついている。

もう私達の周りで戦っている人は誰もいない。

シュタルク兵は全員捕らえられ、後ろ手に縛られて座らされているか、地面に横たわっているかだ。

その間にも次々と船からフライに乗った兵士が降り立ち、既に荷下ろしが始まっている。

「指揮官が指示も出さずに妖精姫に食いついているんじゃ、まともな戦闘にもならないよな」

「悪名をとどろかせた盗賊団のリーダーも、大神官なんて崇められて贅沢な生活をしていると、咄嗟に何も出来なくなるのね」

カミルとふたりで顔を見合わせて頷きあった。

こいつら、私に注目しすぎなのよ。

「……な」

兵士に指示を出さなければいけなかったことにようやくアルデルトは気付いたようで、はっとして周囲を見回し惨状に唖然としている。

日頃、おだてられて大切にされて、お姫様みたいに暮らしていたんじゃないの?

彼が剣の鍛錬をしたり、兵士の訓練に参加する姿が想像出来ないもん。

パニアグアだってこんなところで私と会話しないで、とっとと拉致して人質にするくらいのことは考えればいいのに。

実行に移していたら、片手くらいは砂になっていたかもしれないけどさ。

「上手くいったようだな。怪我はないかい?」

一通りの指示が終わったようで、お父様がフライに乗って颯爽と現れた。

帝国軍の指揮官達と一緒に、ルフタネンの人達もいる。

「この男が盗賊団のリーダーですか」

「ベジャイアで暴れていた頃の彼を知っている人がベジャイア軍の中にいるそうなんで、あとで確認してもらいましょう」

特にニコデムスの被害にあったことのある西島の人達は、ようやく神官達を捕らえることが出来たと意気揚々だ。

まだ諦めていないのか、パニアグアと神官達はどうにか逃げ出せないかと周囲に視線を走らせているけど、アルデルトはもう放心状態だ。

顔が整っているから、目が死んでいると危うい感じが強まるんだよ。

濃灰のローブの神官達との対比が不気味だわ。

「カミル、あの話はもうディアにしたのか?」

「あ、そういえばまだです」

「あの話?」

「ベジャイアとペンデルスが和解したのは知っているだろう?」

「はい」

ぴくっとアルデルトとパニアグアが反応したのが視界の端に見えた。

「ベジャイア王がペンデルスの状況調査に乗り出してね、オアシスに物資を持って兵士や外交官を送ったんだ。フライのおかげで、だいぶ時間が短縮出来たそうだ。それでオアシスの状況なんだが」

「どうだったんですか? ひどい状況だったんですか?」

「精霊獣の楽園になっていた」

「……はい?」

精霊王に見捨てられて、砂漠に囲まれたほんのわずかな土地で生活していた人達が、今度は盗賊に襲撃されたんだよ。

何人も殺されたって聞いていたから最悪な状況を想像して、もやもやした感情がずっと胸の奥に残っていたのに、楽園と聞いて思わずきょとんとしてしまった。

それはパニアグアやアルデルトも同じだったようで、神官達も含めて呆けた顔でお父様を見ている。

「でも、あの地は精霊王に見捨てられて……あっ! 他の国の精霊王になってからも、実は気にして様子を見に行ってたの?!」

姿は見えないので適当に空に向かって言ったら、風に乗って微かな笑い声が聞こえてすぐ、空中にずらりと精霊王が姿を現した。

帝国とルフタネンと、前はペンデルスで今はタブークの精霊王の計十二人が、私達の周りを取り囲んで円を作り、空中から見下ろしているの。

私側の人達から見たら心強い味方だけど、ニコデムス側から見たら恐怖でしかない。

彼らは精霊王に遭遇するのが初めてだから、人間より格段に強い気配に対する恐怖と、その場にすぐに跪きたくなる衝動でパニックのはず。

ニコデムスにとっては敵であるはずの精霊王に気圧されて、耐え切れずに神官達は次々と膝を折り跪いていた。

「彼らが……精霊王……」

アルデルトが立っているのは、感情が麻痺しているからだと思う。

パニアグアなんて大神官だから跪くわけにはいかないと必死に立っているんだろうけど、気絶しそうになって膝ががくがくしている。

もちろん私とカミルとお父様以外は、ルフタネンの人達も周囲の兵士達もすでに跪いているわよ。

「結局甘いんだから。でもそういうところが好き!」

『だって、今を生きている彼らには罪がないじゃない』

タブークは、一年の半分を雪に覆われた土地で生活する遊牧民の国だ。

精霊王に気候は関係ないはずだけど、国民と同じようにモフモフした帽子に毛皮の上着を着て、スパッツやパンツの上に色鮮やかな織物を巻いている。

薄手のひざ掛けを巻いて歩いているのを想像してもらうといいかもしれない。

『そうだよ。襲撃された時にオアシスにいなかった者と、身を潜めて生き永らえた者を合わせても、百人に満たないくらいしかペンデルス人は残っていなかったんだ。国境の村と、各国に移住した者を合わせても気の毒なくらいの数しかいなかった。彼らは生き残る方法を考えに考えて、精霊を育てようと魔力を放出し始めたんだよ』

最初に答えたのが水の精霊王で、今答えてくれたのは土の精霊王だ。

防寒重視のせいで服装に男女差があまりなくて、しかもふたりとも帽子から長い髪の毛がふわふわと出ていて、違いは色だけ。お揃いみたいよ。

『私達が精霊を連れて行ってしまったから、そんなことをしても無駄なのに、それでも彼らには他に道が残っていなかったのよね。何日も何日も、十日経ってもひと月経っても精霊を探す彼らを見て、放っておけなくなっちゃったのよ』

初めて精霊を仲間に出来た人間が現れた時、彼らはどれだけ喜んだんだろう。

きっともう手の甲の痣は消えて、精霊は生きていく上になくてはならない相棒になっているんだろうな。

『ペンデルスでは今、妖精姫は大人気よ』

話しかけてきたのはタブークの火の精霊王だ。

彼女は少しだけ巻いている布が薄いかも。

「え?」

『あなたが書いた指南書がベジャイア経由でペンデルスにも届いたのよ。それを参考にしたら一気に精霊獣が増えたから、妖精姫は精霊のエキスパートとして崇められているの』

「その本は私だけが書いたんじゃないのよ。お友達が何人も手伝ってくれたから出来たのよ」

でも、あの本が役に立ったんだ。

最初はほんの思い付きだったけど、お友達が協力してくれたおかげで世界中に配ることが出来て、人間と精霊を繋ぐ橋渡しが出来た。

やってよかった。

帰ったら、みんなに話さなくちゃ。

きっと喜んでくれるわ。

「よかったな」

「はい」

お父様に言われて笑顔で頷いたけど、まだほっこりしている場合じゃない。

まだ話さなければいけない大事な話があるのよ。

「アルデルト、あなたがペンデルスの再興を望んだのは、母親がペンデルスの王族の血を引いているからよね」

「……そうだ。母の悲願だったんだ」

「って、そこの詐欺師が言ったのよね?」

アルデルトがはっとして振り返った先にいたパニアグアは、今すぐに殺してやりたいと言いたげな顔で私を睨んでいた。

「ねえ、ニコデムスの大神官は王族の血族じゃないとなれないって知っていた?」

怖がったら喜ばせるだけでしょ。

だから、にっこり笑顔で話しかけた。

「ペンデルス人でニコデムス教徒だったら手の甲に痣が出来るわよね。大神官にとっては教徒の証になるんじゃないの? なんで手袋で隠しているの?」

ぎりっと奥歯を噛み締める音が私にまで聞こえたわよ。

神を称える神官がそんな目をしちゃ駄目だなあ。

それは人殺しの目よ。

「パニアグア?」

先程までの呆けていた様子は消えて、アルデルトは今にもパニアグアに飛び掛かって問いただしそうだ。

握りしめた拳が震えているのは、どういう感情なんだろう。

恐怖? 怒り?

「どうでもいいだろう。どうせ俺達は死刑だ」

『ペンデルスの王族は、誰もこの世にいないわよ』

答える気がないパニアグアの代わりにタブークの水の精霊王が答えてくれた。

『あの頃のペンデルスのやったことはひどかったんですもの。王族は誰ひとり残さずに砂にしたわ。あなたの母親は彼らがオアシスを襲撃した時に攫われた娘のひとりよ。貴族でもないわ』

「…………」

精霊王が答えている間も、アルデルトはずっとパニアグアを睨んでいた。

唇をきつく噛みすぎたせいで血が出ている。

「ど……ういうことだ」

「どうもこうもねえよ」

とうとう開き直ったのか、パニアグアは口を覆っていた布をむしり取った。

「その傷、ベジャイアの王都で指名手配の紙を見たことがある」

カミルが言った通り、パニアグアの右頬には剣で斬られたのか大きな傷跡が残っている。

指名手配をされていたから顔を隠していたのか。

「そうだよ。おまえの母親は攫った娘だ。男達が夜の相手を争うくらいに美人だったから、貴族を騙すのに使えると思ったんだよ。まさか国王になれる位置にいる公爵が釣れるとは思わなかったぜ。とっくに傷物になっていた娘なのにな」

「き、きさま……」

「父親だって国王かどうかわかったもんじゃないぜ。おまえの母親はあの男に引き渡す前まで、盗賊達の慰み者になって、うぐっ!」

突然苦痛に顔を歪めてパニアグアは言葉を切った。

「あ……」

「回復!」

パニアグアの脇腹から、剣の切っ先が飛び出していた。

まるでスローモーションのように刃に沿って真っ赤な血が流れて、ぽたぽたと滴る様子が見えた。

突然のことに頭が上手く働かず、アルデルトが身体ごとぶつかりながら、パニアグアの腹に剣を突き刺したのだと気付いた時には、カミルが精霊獣に回復するように命じていた。

「じょ、浄化も! 回復も全力で!」

カミルの精霊獣の魔法の光が眩しくて、すっと頭が冷静になった。

アルデルトが自害するかもしれない。

剣はパニアグアの体に突き刺したので、毒を使うんでは?

なんて、順を追って考えたわけじゃない。

叫んだのは本能半分、ともかく浄化と回復をしておけばどうにかなると日頃から思っていたのが半分だ。

「ひ……どいな」

首に手を当てて一瞬苦しげな顔をしたアルデルトは、浄化の光に包まれると驚いた顔になり、苦笑いしながら私を見た。