軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

覚悟を決めた女は強い

精霊の森の屋敷にフェアリーカフェの支配人が訪ねてきた時、私はカミルやお兄様方と少し早めのランチを終えたところだった。

わざわざ支配人自らフライで飛んできたのよ。

カーラのことで報告があると言われて、あのベジャイアの小物を売っている店員のことがすぐに頭に浮かんだ。

カーラがたびたび一緒に出掛けていると聞いて、ウィキくんで彼のことはチェックしていたからシュタルク人だっていうのは知っていたけど、シュタルクからベジャイアに移り住んだ人の人数ってすごいのよ。

そういう人達のほとんどは新天地で必死に頑張っているから、それだけでニコデムスの関係者とは断定出来ない。

カザーレだってもう何年もシュタルクには帰らないで、帝国とベジャイアを往復する生活をしていると書いてあったわ。

ベジャイアにいる時も接触するのはベジャイア人ばかり。

ただ仕事仲間にニコデムスがいるかどうかまでは、ウィキくんには載っていないんだなこれが。

ウィキくんに載っているのは誰が何をして、その結果どうなったか、どんな評価をされているかしか書いてない。

その人が何を目的に行動しているのかだって書いてなんていないわ。

エーフェニア様の考えが書いてあったら、もっと早く何か出来たかもしれないけど、将軍を愛していることしか書いてなかったもん。

誰を愛しているか。

誰を殺したいほど憎んでいるか。

何が好きか。

何が嫌いか。

周囲の人達から認識されていることしか書かれていない。

ただカザーレの項目には、家族がシュタルクで生活していてニコデムス信者だということが書かれていて、カーラを愛しているとは書かれていなかった。

いったい何が基準かわからないけど、たぶん王家や高位貴族等の重要人物、あるいは有名人の項目は詳しく書かれているんだと思う。

その辺りを確認したくて、中身は読まないようにして手当たり次第項目を調べたことがあるんだけど、級友のほとんどが父親の家族欄に名前が載っているだけで、その父親さえ、主だった家系の人以外は身分や誕生日くらいしか載っていなかった。

ただし例外はある。

有名人じゃなくても、たとえば侍女や執事でも、私と個人的に親しい人は徐々に項目が増えていくの。

それにもちろん未来のことも書かれていない。

計画段階のことも書かれていないわ。

そうやって考えると不便よね。

欲しいものの作り方や材料を調べるには便利なんだけど。

いや、充分に役立ってくれているわよ。

これ以上を望むのは 図々(ずうずう) しいわ。

カザーレが過去にニコデムスとして動いてくれていれば、それは確実に載っていたはずなんだけど、そんな簡単に尻尾を掴まれるようなやつを、シュタルクも私の傍に送り込んでは来ないだろうし、彼に関しては信用していいのかどうか全く判別不能だった。

お兄様方も当然調査はしたみたいよ。

でも彼も店の従業員も、どう見ても怪しい雰囲気なのにいっさい怪しい行動はしていないから、むしろ反対に怪しいかもしれないという状況だったのよ。

「それで何があったんだ」

「おそらくカーラ様は一緒に来店していた男性に、何かクスリを盛られたのではないかと思われます」

「なんですと?!」

思わず叫びながら立ち上がってしまったので、スマートでダンディな支配人はあまりに驚いてびくって肩を揺らしていた。

「ディア、落ち着こう。座って」

「離してカミル。話ならカーラから聞けばいいじゃない。これから会いに行けば」

「カーラがきみに会いたいと思っているとは限らないだろう」

クリスお兄様の冷静な声と言葉に、体の内側が急激に冷えた気がした。

「相手の男とどういう関係かもわからないんだ。僕達と関係のない痴話喧嘩だったらどうするんだい?」

「そんなこと思っていないくせに、兄上はたまにディアに冷たい言葉を言いすぎだよ」

「そうだ。言い方ってものがあるだろう」

「いいえ。大丈夫。落ち着いたわ。まずは報告を聞きます。余計なことをしてカーラに迷惑をかけられない」

出来ればニコデムスやシュタルクとは無関係であってほしい。

カミルが命を狙われたと聞いた時もそうだったけど、それは過去の話で、目の前に元気なカミルがいたからまだよかった。

でもカーラは、現在進行形でつらい目に合わされているのかもしれないと思うと、胸がざわざわしていてもたってもいられなくなってくる。

居住まいを正しテーブルの上で手を組んだら、カミルが包み込むように手を重ねてきた。

温もりに勇気づけられる反面、私にはこうしてなによりも私を優先して守ろうとしてくれる人がいて、それが当たり前になっていて、甘えてしまっている自分がいることに気付いて後ろめたくなる。

カーラにはそういう人はいるの?

「室内で大きな物音がしたので部屋に入った時、カーラ様はかなり体調が悪そうでした。男達は近くに自分の店があるからそこで休ませると言いましたが、カーラ様は自分の屋敷に帰るとおっしゃっていましたので、男達を引き離し、精霊車にお乗せしたのです」

お兄様達も私もカミルもソファーに座っていて、支配人だけが立って報告をしている。

彼に連れられた犬系の精霊獣達は、私達の精霊獣がずらりと揃っている様子がこわいのか、支配人の足元に小さくなって固まっていた。

「待って。体調が悪くても精霊がいるでしょ? 浄化魔法を使わなかったの?」

「はい。カーラ様の精霊はかなり光が弱まっていましたし、侍女の精霊も魔法を使っていませんでした。それで何か理由があるのかもしれないと思い、その場では回復せずに男達と離れてから私が回復しましょうかと申し出たのですが断られまして……」

「へえ」

アランお兄様が興味津々という感じで、少しだけ身を乗り出した。

クリスお兄様はいつもの無表情のままだけど、興味を示しているのは間違いないわ。

この反応はいい反応よ。

これなら協力してもらえそう。

「精霊車に一緒に乗り込んで、このままでは危険かもしれないので浄化させてほしいと言ったところ、これから知り合いの医者に会い、どのようなクスリを飲まされたか調べてもらいたいから嫌だとおっしゃいました」

「まじか。たいした子だな」

カミルが感心したように言うと、お兄様方も笑みを浮かべながら頷いた。

「どうやらカザーレに騙されていたわけではないようだね。それでどうしたんだい?」

「クリス様からカーラ様が来店した時には、気を付けるようにと前もって指示されておりましたので」

「え?」

「テーブルは片付けないでそのままになっているので、皿や残っているソースや飲み物から毒物を調べることは出来る。ただし、どちらにしても本日のことはクリス様に報告させていただくとお話したところ、では浄化魔法をかけてくださいとおっしゃられたので回復させていただきました」

「クリスお兄様」

「うん?」

「支店長や今回の件に関わった人達全員に特別手当をあげてください。素晴らしいわ」

「彼は皇都の店の支配人なんだよ。優秀な人に決まっているだろう」

今まで淡々と報告していた支配人は、私とクリスお兄様に褒められて照れ臭かったらしくて、急に目が泳いでしまっている。

お父様より年上の男性にこう言っていいかわからないけど、かわいい。

「ではカーラはもう回復して元気なのね」

「はい。ただ精霊の方は光が弱いままでした」

「……アラン、ハミルトンと仲が良かったよな。屋敷に行ったことは?」

「うん。ちょっと行ってくる」

「たのむ」

フェアリーカフェを使ってくれてよかった。

あそこの従業員なら守ってくれるってカーラもわかっていたはずだわ。

ということは、カーラはベリサリオに知られてもいいと思っていたし、カザーレが何かするのではと疑ってもいたのね。

「ディア」

転移して姿を消したアランお兄様がもう戻ってきた。

「面倒だから空間を繋げて。ちょうどハミルトンがこっちに来ようとしているところだった」

「まかせて!」

ハミルトンが来ようとしていたってことは、カーラが私を呼んでいるのよ。

よかったよー。

会いたいと思ってくれているよー。

すっかり心が軽くなって絶好調よ。

よそ様の屋敷に行くんだから玄関からお邪魔するべきよね。

クリスお兄様が支配人にねぎらいの言葉をかけている間に、私は部屋の壁に人がふたりくらい通れる穴を作って、ヨハネス家の皇都のタウンハウスに繋げた。

ただカミルもお兄様方も、私よりずっと身長が高いことを忘れていたわ。

彼らには屈んでもらわないといけないけど、急いでいるんだからそのくらいは我慢してもらおう。

「ディア!」

私が来るのを待っていたハミルトンは、安心したのか今にも泣きだしそうな顔になって、慌てて両手で顔を擦って、後ろからやってきたお兄様達を出迎えた。

「カーラはどこ?」

「自分の部屋にいるんだ」

「わかった」

日頃から普段着は少し丈を短めにして、思い切り走れる踵の低い靴を履いているのが役に立った。

ドレスをつまんで優雅に移動なんてしていられないわよ。

「ちょ……待って」

「なんでカーラはそんな無茶をしたの?」

「カザーレがニコデムスの関係者の可能性が高いから尻尾を掴みたくて」

「はあ?!」

慌てて立ち止まったら、後ろを走っていたカミルがぶつかりそうになって、慌てて私の肩を抱いてくるりと位置を入れ替えながら勢いを殺した。

「急に止まったら危ないよ」

「何かにつけてディアに触るな」

急にカミルに肩を掴まれてよろめきそうになった私を、アランお兄様が支えてくれて、クリスお兄様がカミルの手を叩き落とした。

「ぶつかりそうになったから避けたんだろ」

「反射神経鈍いんじゃないか?」

「今は喧嘩している場合じゃないですよね」

アランお兄様の腕をそっと外しながら、カミルとクリスお兄様の間に割ってはいる。

いまだにクリスお兄様は、こうしてたまにカミルに文句を言うのよ。

複雑な兄心なんだって。

「カーラはカザーレがニコデムスと関係あると承知で囮になったと聞いたら、そりゃ驚きますよ」

「は?」

「帝国の女性は、みんな根性あるな」

いやいやいや。帝国女性全部がそんな無茶をするわけじゃないからね。

「相手はずっと年上の大人だし、危険が大きすぎるからやめてほしいって言ったんだけど、祖父の代までは堅実にやってきたヨハネスを父が潰したことが許せなくて、功績をあげれば爵位を取り戻せるかもしれないって言われて、僕もふたりで協力して爵位を取り戻したいと思ってしまったんだ。しかたないとはいえ、姉に求婚してきているのはずっと年上だったり、遊び人だったり、問題のある男が多いんだよ」

醜聞にさらされて潰れた侯爵家の娘を嫁にしてやるんだって、恩着せがましいやつもいるんだろう。

なかなか婚約相手が決まらないのは、ノーランドが出来るだけいい縁談を探してくれているからなんだと思う。

「まさかニコデムスのことを承知だとは思わなかったな」

「商売を成功させようとしているのかと思ったね」

さすがにうちのお兄様達も、カーラがそこまで思い切ったことをするとは思っていなかったみたいだ。

「それに、ディアはニコデムスに狙われているだろう? いつも助けてもらってばかりだから、少しは役に立ちたいって」

カーラってば、そんなことを考えていたの?

私は何も出来ていないわ。

相談には乗ったかもしれないけど、それは友達なら誰でもやることよ。

危険を冒してまで無茶してほしいなんて思っていないのに。

「って、のんびりしていられないんだった。姉はもう回復出来たんだけど、精霊達の様子がおかしいんだ。いつもより光が弱くなって、動きが鈍くなっているんだよ。たぶんカザーレが姉にプレゼントしたブレスレットのせいだと思うんだけど、はずせないんだ」

「魔道具かもしれないわ。イフリー、乗せて」

一刻も早く駆け付けるわよ。