軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あいかわらずの大騒動

今回こそはただ静かに席に座って、妖精姫は噂だけが先行してしまっただけで、本当はおとなしくてお淑やかな女の子だったんだと思われるようにしたかったのに……。

どうしてこう毎回問題が起こるのよ!

閉じた扇を片手に、もう片方の手でドレスを摘まんですっと席を立ち、問題の中心になっているテーブルに向かう。

ベジャイアの精霊王もガイオも、クリスお兄様やスザンナも私に気付いて、口を閉じて注目した。

心配そうなスザンナの横で、クリスお兄様が口元を一瞬緩めたこと、見逃しませんよ。

先程の皇太子の台詞といい、ふたりで何か企んでいるでしょう。

あとでしっかりと説明してもらいますから。

「確か以前、一度お会いしていますわよね。風の精霊王様でしたかしら?」

「お嬢ちゃん、子供は向こうにいたほうがいいぜ」

話しかけてきたガイオをちらっと見あげ、すぐに視線を逸らす。

「図体ばかり大きくて頭の中がお子様の人こそ、向こうにいた方がいいんじゃないかしら」

「は?」

怒りより驚きが勝ったみたいだ。ガイオは口と目を真ん丸にして呆気に取られている。

『ディアドラ、彼は悪いやつではな……』

「他国の皇宮内で失礼な態度を取り続け、お兄様やお友達を侮辱したこの男が悪いやつではない?!」

『それは……きっと慣れていなくて』

「貴族として当然の社交が出来ない方をベジャイアは帝国に寄越したのですか? よっぽど人材が不足しているか、帝国を馬鹿にしているか、どちらなんでしょう?」

『いや……あの……』

女の子に扇の先を向けて詰め寄られたくらいで、しどろもどろにならないでほしいわ。

これでは私が精霊王をいじめているみたいよ。

でも、まだまだ言いたいことはあるのだ。

「あなたも自分は何をしているかわかっていらっしゃいますか? 他国に来て、そこの人間の縁談に口を挟むなんて、人間に干渉してはいけない精霊王のやることではありませんよね?」

「おまえ……そういうやつだったのか」

横で英雄が楽しそうな顔になっているけど、無視無視。

自分のところの精霊王が怒られているんだから、フォローしてあげなさいよ。にやにやすんな。

スザンナに冷ややかな目で見られて嬉しそうだったし、マゾなのか?

「ここは琥珀の担当している地域です。もちろん、この場に来ることは琥珀の了承を得ているんですよね?」

『いや、今日は他の精霊王も……』

「他?」

『あとで……その……』

なんなの。話がまるでわからない。

「皇太子殿下、この場に琥珀に来てもらって話を聞いてもいいですか?」

「ああ、かまわないぞ」

腕を組んで背凭れにふんぞり返って見物していた皇太子は、真面目な顔をしようと努力しているみたいだけど、声に笑いが漏れている。

慌てて口元を手で覆ってわざとらしく咳払いしても、バレバレだからそれは。

『ようやく顔を出せるわ。ディアったらもっと早く呼んでよ』

琥珀先生、まだ呼んでませんよ?

でも、皇太子がオッケーするまで待っていてくれるなんて、うちの精霊王達はちゃんと人間社会を理解して尊重してくれて助かるわ。

『ベジャイアの。同じ風の精霊王として恥ずかしいんで消えてくれない?』

今回は翡翠が切れていた。

腰に左手を当て、右手の人差し指をベジャイアの精霊王の胸に当てて、ぐんぐん前に歩いていくから、ベジャイアの精霊王は壁際に押しやられている。

『他国の子供が揃うと聞いたので、精霊王達がいい機会だから会いたいと言ってな』

『ちゃんと俺達が話をつけるから待っていろと言ったのになあ』

そして私の左右に、当たり前のように瑠璃と蘇芳が姿を現した。

「全員で来たんだ」

他の国の精霊王はほとんど姿を現さないっていうのに、帝国の精霊王はなんで毎回全員集合したがるの。

帝国の学生はすっかり慣れたもので、すっと椅子から滑り降りて床に片膝をついたけど、他国の人達はこれが精霊王との初遭遇よ。慌てて跪こうとして椅子を倒したり、あまりの驚きに動けなくなってしまっている子もいる。

それに気付いて同じテーブルの帝国の学生が、助けてあげるというほのぼのと心温まる光景が、あちらこちらで展開されていた。

『待て。前にも言ったが、帝国はもう上手くいっているんだから』

『そっちこそ何度も同じことを言わせないで。そんなにこの坊やを高く買っているなら、この子と仲良くしなさいよ。そもそも人間社会に干渉するなという決まりを破りすぎよね。精霊王として失格でしょう』

誰かー、翡翠を止めてー。

どんどん壁際に向かっているせいで、どんどん離れて行ってしまってるわよ。

『アンディ、エルディ、誕生日おめでとう』

でも、琥珀は翡翠を放置で皇族兄弟に声をかけに行った。

「「ありがとうございます」」

皇族のふたりとうちのお兄様達は、今回も跪いていない。

スザンナとモニカも、それぞれ瑠璃と琥珀との挨拶を済ませて、跪かなくていいよと許可をもらっているの。

ガイオはちゃんと跪いていて、シプリアンは腰が抜けたのか変な座り方をしていた。

アルデルトも跪いているので、ここで問題を起こす気はないんだろう。

『誕生日祝いと留学生の顔合わせの茶会なのに、割り込んでごめんなさいね』

あいかわらず精霊王達は内面から光が溢れているように、肌なんてつやつやでとても綺麗。

何がすごいって、全く化粧していなくてこの美しさだからね。

砂漠化まっしぐらのシュタルクや内戦で荒れたベジャイアは、精霊の数が少ないから大気中の魔力量が少なくなっているはずなの。そこから帝国に来て、たぶん魔力の感覚の違いに驚いただろうと思う。

そこに更に精霊王の登場ですよ。

英雄は慣れているみたいだけど、シュタルクの王子様は立てないかもしれないわ。

「琥珀様が来てくださっただけで嬉しいのですから、謝らないでください。他国の精霊王もいらしているんですか?」

『そうなの。リルバーンもデュシャンも帝国を見習って精霊を育てるようになって、精霊獣も増えたのよ。それで精霊王達が子供達と会ってみたいと前から言ってたの。でも、どのタイミングで顔を出すかむずかしくて』

モアナなんて、突然王宮の空にどーーんって姿を現したらしいよ?

精霊王が出現すれば間違いなくみんな喜ぶんだから、お祭りか何かの時に、後光でも背負って登場すればいいんじゃないのかな?

『どうだろう。精霊王達を呼んでもいいだろうか?』

瑠璃に聞かれて、この場の空気で嫌だと言える人はいないでしょう。

リルバーンとデュシャンの留学生は、自国の精霊王に会える期待と、他国の精霊王だとしても、目の前に精霊王がいる状態に感動して目がウルウルしちゃってるんだよ。

何かもう幻が見えちゃっているのか、床にへたり込んで、遠くを見つめてぼんやりしている子までいるんだから。

「むしろ呼んであげてください。こちらの騒動のせいで、すっかり無駄な時間を過ごさせてしまって申し訳なかったんです。来ているのは二国だけですか?」

『シュタルク以外は来ているわ』

「な……なんで……」

思わず声をあげたシプリアンを琥珀は冷ややかに見降ろし、すぐにふんと横を向いた。

『アンディ。ディアをシュタルクに行かせては駄目よ。たとえ短い滞在であってもよ』

「承知しています」

『琥珀、話はあとにして精霊王を呼ぼう。彼らの話す時間が減ってしまう』

『そうね。蘇芳、あなたも手伝って。瑠璃はディアの傍にいてね』

『ベジャイアの精霊王は呼ばないわよ。この馬鹿がしでかしたんだから、このまま帰ってよね』

翡翠は壁際まで追い詰めたベジャイアの精霊王を置き去りにして、琥珀の傍まで戻ってきた。

それからはもう、各国それぞれに大騒ぎだ。

『姿を現してもいいわよ』

琥珀が言うとすぐに、空中にほわっと光の玉が浮かび上がり、徐々に大きくなってうっすらと人の姿を浮かび上がらせた。

それを見て、私は素晴らしいと感心したね。

突然、ぽんっと現れるんじゃないのよ。驚かせないようにという配慮なのかどうかはわからないけど、ここに現れますよーってちゃんと知らせてから、ゆっくりと姿を見せるやさしさ。

そういえば瑠璃も最初はそうだったよね。

床からぬおーーーっと現れた某精霊王もいるけど。

『これってひどいわよね。この男もひどいけど、あっちなんて学園に通える年齢じゃないんでしょ?』

現れ方はよかったのに、姿を現した途端に瑠璃に突撃して文句を言い出した精霊王がいたわ。

瑠璃の妹なんですって。

たしか……モアナって言いましたっけ?

興奮して、言ってることがよくわからないわ。

『今回は確かにおまえの言う通りだな』

『でしょう? ルフタネンはちゃんと決まりを守って、礼儀正しくしていたわよ』

『そうだな。呼んでいいんじゃないか?』

『そうね』

蘇芳や琥珀が頷いているのはなんの話だろうと、私は自分の頭上で交わされる会話を首の後ろをさすりながら聞いていた。

だって、みんな背が高いんだもの。真上を見上げるようにしないと目を合わせられないのよ。

「なんの話? 何かするならちゃんと皇太子殿下に話してからにしてよね」

「ああ、気にしないでいいぞ。皆も空いているテーブルに移動してゆっくりしてくれ。来賓は精霊王とゆっくり話したいだろう」

それぞれの国からふたりずつ精霊王が顔を出していて、リルバーンとデュシャンの人達は、生徒達だけじゃなくて同行していた関係者まで、感激に顔を紅潮させて精霊王の話を聞いている。

中には感激のあまりに、会話が頭に入っていない人もいるんじゃないかな。

彼らと同じテーブルにいた学生達は、帝国の人間が傍にいるのは邪魔じゃないかと遠慮して、少し離れた場所で待機していたの。

そこに皇太子からゆっくりしていていいよとお達しがあったから、空いていたテーブルに座り、お菓子やお茶を用意してもらって、仲間内でお茶会を始めた。

帝国の学生、精霊王に慣れすぎ問題。

私達のことを気にしてはいるようだけど、慌てている人は誰もいない。

そしてルフタネンの精霊王は、姿を現した途端に瑠璃に突撃したモアナと、少し遅れて笑顔で手を振りながら近づいてきたマカニの見慣れたコンビだ。

ルフタネンの留学生も精霊王に慣れていて、ふたりが自分達より先に私達のほうに来ても気にしていないみたいだ。

『じゃあ呼ぶかな』

「誰を?」

『シロ!』

そうか。そうだよね。

これだけ各国の人が揃っているんだもんね。

『はーーい。呼ばれたー。瑠璃様ー』

各属性の色に輝きを変えながら、光の玉がしゅんしゅんと瑠璃達の上空を飛び回り、降りてくると同時に、耳の大きな掌サイズの白いモフモフに姿を変えた。

『説明してあるんだろう? カミルを連れて来てくれ』

『やっとだー。待ってたー。ここでいい? ここでいい?』

『ここだな』

瑠璃が示したのは、私のすぐ横だ。

傍にいた蘇芳と琥珀は、場所を空けるために横に移動した。

『はーい。ちょっと待っててー』

効果音をつけるとしたら、しゅるんかな?

気付いたらもう姿が消えていて、

『ただいまーー』

姿が見える前に声がして、すぐ隣に肩にシロを乗せたカミルが立っていた。