軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鉄ダンジョン攻略3

24階層の入り口で待機することさらに数時間。1つの騎士団グループが、大怪我を負って退散してきた。

彼らは昔から見知ったベテラン騎士団であり、年単位でダンジョンにこもっていることもある強靭な連中だ。

あれほどの超一流の集団といえども24階層ともなれば、一瞬の油断が壊滅へとつながるのだ。

強くなったことに酔いしれることなく、気を引き締めていかねばならないとトウジ隊長は頬を叩き気合を入れなおす。

「くそ……やっちまった」「あのいい匂いのせいだ絶対……」「ああくそ、このフロアに来るだけで女の香りがする~……」

なるべくこちらのことを避けて帰っていたが、そんなぼやきがふと聞こえてしまった。

「なんだかあいつらにとって、私らの存在は目の毒になってるみたいだから、ほんの少し奥に行くか……」

人通りの多い入り口付近に鎮座していること自体が、どうにも迷惑になりかけていると判断したトウジ隊長は少し奥に向かうことにした。

ずっとここにいても、モンスターとはいつまでも出会えそうもない。

待機中、暇つぶしに見ていた24階層の地図もすっかり暗記した。

とりあえずモンスターから挟み撃ちに遭ったりすることはなさそうな地形のフロアに向かって進む。

しばらく進んでいくと、ようやくモンスターのお出ましだ。

真っ黒いゴリラのような怪物が、こちらに向かって思いっきり岩を投げつけてきた。

前面の壁役が慌てることなく、大きな盾でその岩を防ぐ。

すさまじい衝撃であった。

もし、温泉ダンジョンで鍛える前のトウジ隊長の部隊であれば。盾で防いだ者は吹き飛ばされていたか、腕の骨が受け止めた衝撃で折れていたかもしれない。

しかし、温泉ダンジョンで鍛えに鍛えた今の第1部隊は、先ほどの岩の衝撃程度ではびくともしない。

「お返ししてやりな」

長身の騎士が、盾役の仲間の背中越しに虹の鉱石を全力で投げつけると。

黒いゴリラの右ほおにヒットした。

ゴリラの右顔面がぐしゃりと潰れ、砕けた歯がそこら中に散らばる。

「グオオ、ホホ……」

顔面を砕かれてよろけたゴリラにすかさず二人の騎士が接近し、腹と胸に剣を深く突き立てる。

素早く剣を抜き、距離を取って様子を見る。

剣を深々と突き刺されたゴリラは倒れ、そこから特に起き上がることもない。

「こいつ、死んだふりをするんでしたっけ」「資料館の資料にはそう書かれてたね」

倒した倒したと思ってのこのこ近寄ると、最後に捨て身でとびかかってくるという話である。

「食料と交換した虹の鉱石があと一個あっただろ」

後ろの騎士が倒れたゴリラの頭頂部に思いっきり、もう一個の虹の鉱石を投げつける。

頭頂部に思いっきり投石を食らったゴリラは、すさまじい悲鳴を上げて飛び起きた後。

恨みがましい目をこちらに向けて再度倒れ消滅した。

あとには、不自然なほどに真四角の金属が数多く現れた。

「こうやって消滅しなけりゃ生きているってこったね」

消滅していなければ死んだふりである。タネが分かっていればこんなわかりやすいこともない。

「戦ってみた感触は?」

「強いですね、温泉ダンジョンで鍛える前の私達なら危なかったでしょう」

「鍛えた今なら?」

「数匹同時に出てきても大丈夫です」

「よし、奥に向かうよ」

トウジ隊長はニヤリと笑って、25階層への階段まで向かう判断を下す。

通じる。

間違いなく、今の自分たちは25階層でも通じる。トウジ隊長はそう判断する。

自惚れではない、24階層のモンスターにここまで大きく余力を持って戦えるなら、それは確信が持てる。

先へと進み24階層の中腹あたりまでくると、数時間おきにモンスターが現れはじめる。

その多くは初見のモンスターとはいえ、倒し方も、対処法もダンジョン資料館で予習済みである。

時々、聞くと見るでは大違いな印象の動作をされることもあるが、ギリギリの戦いでもない状況ではそれもさしたる問題でもなかった。

「はー、敵を倒すたびにゴロゴロと鉄が……入り口付近にみんな固まってるわけだよ……」

モンスターの強さより、次々に増えていく金属のドロップ品がやばい。

24階層の入り口付近で戦って、定期的に運び出しの輸送部隊に渡すのが基本戦術になってしまうのもうなずける。

「タシュ、どのくらいまで運び出せそうだ?」

「こんなペースで増えられてしまうと、2週間くらいで全員帰還するしかないんじゃありませんか?」

想定よりもずっと早い。

1~2か月はダンジョンにこもって、運び出しは輸送隊に頼らず自力でするつもりだった。

クラプス軍の輸送隊に頼ると、ドロップ品の多くが手数料として持っていかれるからだ。

普通なら、それでも輸送隊に頼ったほうが最終的な回収率は上がるのだが。

今の普通じゃない自分たちの体力なら、自力で走って帰ったほうが確実に成果が上がる。

「ちょこまかと帰還する羽目になりそうだね……食料をこんなに大量に持ってこなくてもよかったのか?」

「25階層を回ってる連中に半分ほど売ってしまいましょうか?」

「25階層を回っているのは食料搬入もドロップ品輸送も自由自在のクラプス軍が大半だからねえ……」

当然ながら巨大ダンジョンを一番回っているのは、そのダンジョンを保有している国の軍隊だ。

そういう集団は自前の補給部隊を保有しているため、当然食料品を買ってくれたりはしない。

むしろ、法外なドロップ品を要求して食料をこちらに売りつけてくる側である。

「ヒトウの奴みたいに、他国のダンジョンの25階層をめぐるような馬鹿なんてほとんどいやしないよ」

「はは、私たちもとうとうその馬鹿の仲間入りですね」

「だね」

鉄ダンジョン25階層へと向かう階段の目の前に立ち、トウジ隊長とユネブ副隊長はそう言って笑った。

階段を下っていくと、25階層の入り口付近には数多くのクラプス王国の騎士団が座っていた。

おそらく、主力部隊がドロップ品を集めてくるまで待機している輸送・補給部隊だろう。

さすが25階層に居を構えるレベルの一流の中の一流部隊である。その雰囲気やたたずまいから感じ取れる強靭さはヒトウ隊長にも匹敵する空気感であった。

おそらくどのような事態にも対応できる、鋼の精神力を持った怪物集団に違いない。

トウジ隊長たちが入り口に降り立つと、そこから漂う石鹸の香りにクラプス王国軍の誇る最強の騎士団が一斉に振り向く。

「えっ!? お、おおおお女ぁ?」「おいッ! 美女! 美女だぞ!」「い、いかん! これは幻覚だ! 気をしっかり持て!」「幻覚でもいい! 幻覚でもいいんだ!」

石鹸の香りを嗅ぎ、トウジ隊長たちの姿を見たクラプス軍は一気に混乱状態に陥りパニックとなる。

一人の男が有無を言わさず、正気を失った顔でこちらに向かって走りかかってきたため。部隊のリーダーらしき男が慌てて後ろから混乱した馬鹿にドロップキックをかまして正気に戻す。

ほかにも数人おかしくなった男たちと、ギリギリ正気を保った男がそんな混乱した野郎を止める地獄絵図。

おお、なんということか。クラプス王国最強の騎士団でさえも、一瞬で正気を失わせ狂わせてしまう。

これが温泉ダンジョンの魔力、これが温泉ダンジョンで鍛えあげられた美貌と魅力。恐るべし温泉ダンジョン。

そんなパニック現場を見ていたトウジ隊長はこう思う。

だめだこりゃ……。