作品タイトル不明
鉄ダンジョン攻略2
トウジ隊長達は21階層、22階層も難なく進んで行く。この時点でだいたい予想はしていたのだが。
本来ならば、毎回全霊を込めて挑まねば不覚を取るレベルのモンスターが出る23階層にたどり着いた時に確信した。
23階層に現れたのは、全身が針金のような鉄の毛に覆われたライオンのようなモンスター。
その鋭い針金の毛は恐るべき強度であり、生半可な攻撃では弾き返され、触れられただけでも全身はズタズタに刻まれる。
本来ならばこういった相手には、数人のタンク役が並び盾と槍を構え。近寄らせることのない鉄壁のバリケードを作り上げ。
攻めあぐねている敵を、後方からの遠距離攻撃で少しずつダメージを与えて倒していくのだ。
「よっこらしょっと」
トウジ隊長は餅つきでもするかのように、虹の鉱石のハンマーでそんなライオンの頭をぶん殴ると、鉄毛のライオンは頭が跡形もなく叩き潰れて普通に死んだ。
「あの、トウジ隊長。普段のやり方で戦ってみてもいいですか?」「さっきから隊長が一撃で倒してしまうので全く何もわかりません」
「……ああ、やってみな」
数時間進軍すると、先ほどと同じタイプのモンスターが2体現れた。
すかさず、前方のタンク役4人が、武具ダンジョンの巨大な盾を構えて並び立つ。
そして、同じく武具ダンジョン産の太い槍を構えて敵を牽制する。
ライオンたちが盾を構えた第1部隊の壁役に襲いかかる。
彼女たちが構えているこの槍は、非常に貫通力や強度に優れるが、重くて取り回しが利かない。
基本的には、肩に担いで重心を支えながら、刃先を常に相手の方に向けることで敵の接近を防ぐのが本来の使い方だ。
「フンッ」
その本来固定しておくべき槍で、ライオンの顔を思いっきり突き刺す。
前衛は防御に徹して、攻撃は後方の部隊に任せるべきなのだが。
突き刺せる位置になんとなくモンスターの顔があったので、ついうっかり刺して倒してしまった。
「おい、なにやってんだい。普段のやり方で戦うんじゃなかったのか?」
「え、ええ、そうなんですけど……つい。すいません」
いつもなら一歩たりとも近寄らせまいと、全身全霊をかけて敵の突進を食い止めることに集中していなければいけないはずだった。
23階層のモンスターの突撃を、盾だけでバカ正直に受けられるような筋力が人間にはあるはずもないため。
槍で相手の突撃を抑え込む牽制も必須の行動だったはずだ。
さっきから、もう一匹のライオンがこちらを殺そうと、グイグイと身体を押し込んでくるが。
槍で牽制するまでもなく、私達のほうが単純に筋力が強い気がしてならない。
なんだか一生懸命、防御のみに徹する必要性を感じなかったのだ。
拍子抜けするようなガードをしているうちに。
自分達の後方から差し込まれる槍や剣によって、モンスターは倒された。
「本当にこれが、今まで苦労していた23階層のモンスターなのですか?」
「みたいだねぇ……鉄ダンジョンのモンスターがほかのダンジョンより弱いなんてことはないはずだからねぇ……」
鉄毛のライオンが消えたあとには純銀の塊と、真ん丸い形の虹色の鉱石が残された。
「ああ……出たよ。武器にしづらい形のハズレ虹だ」
「資料館の情報によれば、虹の鉱石はなにげにレアで、狙って採取をしても週に1つか2つ程度しか取れないそうです」
「一個持つだけで何十キロも荷物が増えますからね……どうしますか?」
トウジ隊長は数秒ほど、う~んと考えたあと。
「……持ち帰る」
そう宣言した。
とても、とても嫌そうな顔であった。
「……もしかしたら加工ができるかもしれないという話ですからね」
加工ができなければこんなもの、ただただ重たいだけのゴミなのだ。
しかし、もしも武具に加工ができるのならば、赤の剣に匹敵しかねない強力な武器を作り放題なのである。
ダンジョン探索の未来のことを考えると、こいつは必要なものなのであった。
とはいえ荷物としては最低最悪の物体なので、今は全く持ち運びたくない。
帰りに一個ポロッとでてくれたら嬉しかったのだが、今出てこられてもたんなる大荷物だ。
「タシュ、そういうわけで頼むぞ」
ご指名された、輸送運搬担当のタシュは、はいはいとばかりに虹の鉱石を拾い上げる。
大きな砂袋を持ったかのごとき重量が、手のひらサイズの石から伝わってくる。
鋼鉄の鉄球ですら到底なし得ない、ずしりとした異様な重さ。
しかし身体を鍛えすぎたせいなのか、その重たさにはそれほどうんざりとした感情が湧かない。
「重いのが嫌っていうよりは、こんなもの運んでると背嚢が壊れそうで嫌ですねぇ……」
まるでソフトボールを取り扱うかのように、手の上で虹の鉱石をぽんぽんと投げていたタシュが突然閃く。
「あの……これ、そのまま敵に投げつければいいんじゃないですか?」
その、あまりにも筋肉な提案を聞いて第1部隊全員に電流が走る。
そうだ、何十キロもある超絶硬い鉱石を敵に思いっきり投げつければ、下手な剣で戦うよりもずっと強い!
どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのか!?
そんなこと人類の筋力でできるわけがないからである。
仮に、砲丸投げのように、放物線を描くように投げたところで全く意味はない。
そんなものが当たるほど、23階層以下のモンスターは愚鈍ではない。
だが、小石でも投げるかのように水平にぶん投げられるだけの筋力が身についているのならばどうだろうか。
そうなれば単純に強い。
攻城戦などでしか使えない、大型投石機並の力をダンジョンで使えるようなものである。
さっそく現れたモンスターに出会い頭、虹の鉱石を投げつけるという使い方をしてみたところ。
モンスターの脇腹にボフッ…という乾いた音を立て鉱石が体内にめり込み、モンスターは一発で瀕死になった。
重たい石を腹部にめりこませ、ヨタヨタと瀕死状態で向かってくるモンスターを取り囲むように殴ってとどめを刺すとモンスターは消滅し。
あとにはドロップ品の鋼と、脇腹にめり込んでいた虹の鉱石だけが残る。
出会い頭の投石は効果抜群であった。
今後は前衛が交代交代に虹の鉱石を持ち、敵に投げつける事になった。
さらにダンジョンの先へと進んでいき、24階層へとたどり着く。
これまでのトウジ隊長の率いる部隊の最高到達階層だ。
24階層をまともに周回できたことはない。
初めてたどり着いた頃の実力では、24階層に十分通用するメンツはトウジ隊長とユネブ副隊長の2人だけ。
ほか数人のベテランがどうにかこうにか対応できる程度で、あとのメンバーはまともに対処しきれないほどにモンスターが強く。
2体以上同時にモンスターが現れたり、挟み撃ちにあった場合、それだけで部隊が壊滅してしまう危険性を感じたため、探索はせず即座に引き返していた。
24階層では、たった1度戦ったっきりの経験しかない。
ゆえに、いくら強くなったとはいえ、奥に進む前に一度戦って様子を確認しないわけにはいかないのだが。
24階層の入口付近でしばらくうろうろしていても、一向に敵が出てくる気配がなかった。
「ううん、もどかしいねぇ……」
数時間ほど入口付近で待機しつつ、干し肉をかじりながらトウジ隊長がぼやく。
「鉄ダンジョンは24階層が一番人気ですから、敵があらかた狩られてしまっているのかもしれません」
鉄ダンジョンの24階層は最上級に良質な金属が、敵を倒すごとに必ずドロップする階層だ。
各国から派遣されている軍隊の多くは、この階層に滞在する。
ヒトウ隊長も、25階層を踏破できる力がありつつも、武器が保たないという理由で24階層を回っていると言っていたくらいである。
もしもの時の撤退準備、食料品の確保、ドロップ品の搬出のために、入口からは比較的近い場所で狩りを続けている軍隊が数多くこの階層に滞在しているならば。
こうやって入口付近でずっと待っていても、モンスターはいつまでも現れてくれないのではないだろうか。
そして、入口付近に半日近く滞在しても、モンスターは結局現れることはなかった。
「それじゃこの金属を、1週間分の水と交換してくれ」「虹の鉱石でもいいのか?」「俺は食料を3日分頼む」「あの美女軍団誰だ?」「トウジ達だってよ」「はぁああああああ!??」「嘘だろ? 何があった!?」「あれが、噂の温泉ダンジョンの効果か……?」
人気の階層の入口付近で半日も滞在していると、武具ダンジョンや糸ダンジョンなどでも見知った顔なじみと嫌でもちょくちょく顔を合わせてしまう。
その結果、あまりやりたくはなかった食料の販売をする羽目になってしまっていた。
このままなんの成果もない滞在を続けるわけにもいかないため、行商人のマネごとをする羽目になるのも仕方ないといえば仕方がない。
そんなことより自分たちの変化した姿を見るなり、何度も何度も繰り返し驚愕されるのが鬱陶しくてしょうがない。
「うう……今の俺達に美人を見せるなよ」「ああああ! 頭がおかしくなりそうだっ!」「臭い男だらけのこの場所に漂うあの香りがっ、あの香りが俺を狂わせるっ……」
驚愕されるだけならまだいいのだが。こいつら揃いも揃って自分たちの姿を見て、辛抱たまらなく興奮してくる事が不愉快の極みであった。
中には土下座をしてストレートに頼み込んできた奴すらいた。
そいつの頭を虹の鉱石ハンマーで叩き割って国際問題に発展する前に、早くその馬鹿を連れ出してくれ。
トウジ隊長はそう願わずにはいられなかった。