軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鉄ダンジョン攻略

トウジ隊長は鉄ダンジョンへの捜索許可の挨拶のため、クラプス王国の謁見室にいた。

謁見室に入り、所属と名を名乗った後、前回の訪問からの変わり果てた姿に驚愕され。

「これほど姿が変わるのですか?」「こ……こんなの美容なんてレベルではありませんわ」「あなた、温泉ダンジョンにワタクシも」「お父様! 私も」「あたしも!」

などなど、王妃と姫が王に次々と詰め寄り始める、多くの姫君がいる分こちらのほうが少し大変そうであった。

ここまでならマーポンウェア王国での、ソド王やテタ王妃の反応とほぼ同じなのだが。

今回のクラプス王国での謁見では、周囲の男兵士達の反応もなにかおかしい。

こちらのことを、女として意識した目で見てきている気配を感じる。

ただ、美人になっただけではこうはならないはずだ。事実、マーポンウェアの訪問時にはこのような視線は感じなかった。

トウジ隊長は、周囲の男集団の気配を探ると、どうにもこちらの匂いを確認しているかのような呼吸をしている。

……あれか、あの香りが染みつく泡温泉の効果か。と理解する。

今のセパンス王国の女騎士は誰もかれも、四六時中あの温泉の香りを漂わせているため、すっかり忘れていた。

クラプス王国はどこもかしこも鉄に囲まれ金属の匂いが強い、鍛冶場や鉄工場のような雰囲気の武骨な王国だ。

強烈な石鹸の香りを漂わせる美形の女騎士達の存在は、少々刺激が強いのかもしれない。

おまけに今の第1部隊は美女の集団というよりは、かっこいいイケメンぞろいの集団なので、一部の女からも似たような視線を感じる。

お父様に温泉ダンジョンに行こうとねだる姫君のうち、一人は黙ってこちらの方を赤い顔でぼうっと見ていた。

「ええと、クラプスの王よ、鉄ダンジョンへの攻略許可を……いただけますでしょうか」

トウジ隊長は、だんだんとこの空気感に堪えられなくなってきたため、早いところ謁見を切り上げようとする。

「う、うむ、新しい鉄資源の採掘はお互い何よりの急務じゃからな。ヒトウ隊長の代理、見事果たしてくることを期待しておるぞ!」

王も、早く行ってくれ、お前らを見ていると王妃と姫がおかしくなってしまう。と言わんばかりにトウジ隊長を早口で素早く送り出す。

利害が一致したことを感じたトウジ隊長は。「はっ! それでは失礼いたします!」と、返事をし、通常なら失敬になってしまいかねない速度で素早く謁見室を後にする。

謁見室を出た後も、後ろから「待ってください何階層の湯でそこまでの効果がー」「すぐに入れるんですかー」「その香りは永続ですか~」

などという金切り声が、うるさく聞こえていたが、聞こえなかったことにしよう。

飯困らずダンジョンから持ち込んできた宝石を鉄と交換し。

セパンス王国から共に来ていた輸送部隊にすべて引き渡した後、本格的に鉄ダンジョンの攻略を開始することにする。

「お前たち、半数以上は鉄ダンジョンは未経験者だね?」

「このダンジョンは、ほとんどヒトウ隊長の管轄でしたからね」

「基本女は皆無だからな、このダンジョンは」

「武具ダンジョンも男の巣なんですけど、女冒険者は少数いますしね」

「20階層より上の階層の素材は不要だ、今のセパンス王国の財政状況なら全部金で買ったほうが早いからね。

徹底的に持てるだけの食料と水を買い込んで、20階層まで駆け抜けるよ」

飯困らずダンジョンや温泉ダンジョンと違って、鉄ダンジョンには飯もなければ水もない。

というより、飲める水があるダンジョン自体が珍しいのだ。

知る限りでは、ダンジョンの意思が意図して飲める水を用意してくれていると思えるダンジョンは、糸ダンジョンとケンマの宝石ダンジョンくらいしかない。

武具ダンジョンの、赤の剣を落とすワニが生息している沼の水も飲めないことはないのだが、あれはいくら飲んでもあまり喉の渇きが取れない。

ただ濁った沼水のくせに、臭いわけでもなければ、飲むと腹を壊して病気になるわけでもない。

いい意味でも悪い意味でも効果が薄いのである。

地上の水とは何かが根源から違う。

水を詳しく知らない存在が、水を模したものを魔法で作り上げたような不可解な水なのだ。

「それでは全軍、出撃!」

一人あたり、100キロは超えそうな巨大な荷物を抱え、一気に20階層まで駆け抜けていく。

鉄ダンジョン20階層までの道のりをはっきり記憶しているユネブ副隊長が、一人だけ荷物を持たずに先行して走り。

道案内と、道中襲い掛かってくるモンスターの露払いを担当する。

すれ違う冒険者や騎士たちが、いい香りを放つ美形の女騎士の集団に魅了されていく。

それと同時に、背負っている荷物の多さと、その荷物の量に反比例した異常な行軍速度にドン引きする。

なにやら下劣な言葉を放ちながら、必死に追いかけてくる冒険者たちも一部いたが、まったく追いつくこともできずにへたばってしまった。

へたばったあとモンスターに襲われていたようだが、いちいちあんなものを助けてやるほど暇ではない。

あの手の身の程知らずのチンピラは、20階層より深い階層まで行った頃には全く見かけなくなるので、あまり気にすることもない。

そのあたりの階層になれば、周囲は名のある実力者ばかりになっていき、顔見知りしかいなくなるからだ。

そして、駆け抜け始めてからほんの数日で、20階層までたどり着いてしまった。

「あ、あれ? こんなに狭かったっけ? 鉄ダンジョンって?」

「これだけの食料と水を背負って駆け抜け続けても……あまり疲れませんね」

「予定より、はるかに早く目的地についてしまいましたが、いかがいたしましょうか隊長」

トウジ隊長たちは、なんだか釈然としない感覚を覚えながら、とりあえず一度食事と休憩をとることにした。

飯の準備をしている最中モンスターが出てきたので、とりあえず試しにヒトウ隊長から借りている、虹の鉱石ハンマーで殴ってみることにした。

ひょうたんみたいな形をした虹色の鉱石に、鉄の柄を無理やり取り付けたような、最高に不格好な見た目のハンマーだ。

虹の鉱石は固すぎて加工ができないため、このようにそのままの形で武器として使うしかない。

虹の鉱石はそのままの形状で、武器として使える形や大きさをしていなかった場合、ほとんど無価値な品と評価されている。

そんなハンマーも、通常の鋼で作られたハンマーの数倍は重たく、取り回しのきかない使い勝手が悪い武器であり。

25階層までは、ただ邪魔なお荷物という扱いなのだが。

今のトウジ隊長の膂力なら、軽い木槌かのごとく気軽に振り回せてしまう。

虹色のハンマーで襲い掛かってくるサイのようなモンスターの頭を、全力で横殴りにぶん殴ると。パァンと乾いた破裂音とともにモンスターの頭がはじけるように吹き飛んで消えた。

そして、消滅していくモンスターの亡骸から不自然なほどに真四角の形をした金属がいくつか出現した。

「ううん? ……ここの20階層のモンスターって、こんな弱かったか?」

「このサイは……結構タフで、少なくとも何度か殴る必要があったと記憶していますが……」

「……一回、休息をとった後、25階層まで降りてみるか?」

「あの、隊長? 今までの我々の到達限界は、24階層なのですが?」

「……無理だと思うか?」

ヒトウ隊長らの部隊は25階層なら、回ることができると言っていた。

そんな奴らと互角に近い強さは、温泉ダンジョンを使った訓練で身についていたはずだ。

その後、体力が無限に回復する温泉が出現し。そこからさらに人類の成長限界値に到達するまで筋力と体力は身についたのだ。

今のトウジ隊長らの部隊の強さは少なくとも、あの時のヒトウ隊長の部隊は凌駕しているはずである。

「さすがに限界を超えた階層にチャレンジするには、この荷物は邪魔すぎますよトウジ隊長。食料も水もまだ全然減っていません」

「そこは気にするな。ここのドロップは鉄ばかりだからね。長居してると逆に荷物は重くなっていくと思っときな」

「たとえ実力が足りていても、探索慣れしていないダンジョンを侮るのはいかがかと思いますよ。

ヴィヒタの奴らだって。初挑戦の18階層では一回死にかけたとか言ってましたからね」

「ヒトウ隊長の代理で来ている以上、必要以上に安全第一で行かないとまずいですよ……」

そんなことを話していたら、新たに奥から鼻先が鉄球のようになった象が現れ、こちらに向かってきていた。

たまたま近くにいた二人の隊員が、剣を抜き対処にあたる。

「初めて見るモンスターだな」「まあ俺たちは鉄ダンジョン自体が初めてなんだけどよっ!」

振り回す鼻の攻撃をひらりと躱し、鼻を切り落とす。

鼻を切り落とされ、ひるんだモンスターのスキは見逃されることもなく、もう一人の隊員が素早く首に斬撃を加える。

首を深く切られた象はあっけなく倒れ、飛散して消えていき。後には真っ黒い鋼の塊のようなものが残された。

「手ごたえはあったかい?」

「ないです」

「……行きましょうか、もう少し奥へ」

鉄ダンジョンは初体験の隊員が多く、過剰ともいえるほど慎重に行動しなければならない。

……ならないはずなのだが。

あまりに強くなりすぎていたため、さすがに20階層でしばらく様子見をしようという判断は誰もする気にならなかった。