軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鉄ダンジョン攻略4

誰だお前! トウジだ! 嘘だろ!? といった。

うんざりするくらいしてきたやり取りを経て、ようやくクラプス王国の騎士が落ち着いてきたらしく。

騎士の中には数名ほど、糸ダンジョンや武具ダンジョンでも見知った顔もいたので、トウジ隊長はそいつらから話を聞くことにした。

「ああ、怪我したヒトウの代わりで来たのか……トウジはプレス隊長と面識はあったか?」

プレス隊長とは、クラプス王国のダンジョン探索騎士の隊長である。

「プレス隊長は、10年前くらいに武具ダンジョンで少々ドロップ品の交換をした事があるけど……、関わりはそれっきりだね……。

奥で出会ったらまた驚愕されるんだろ? ったく、面倒くさいったらありゃしない」

「驚愕しないほうがおかしいだろう……」

「まあ、今のセパンス王国の女どもは、全員温泉の効果で美女ぞろいになってるからねぇ……。

元がいい分、私達よりずーっと愛くるしい容姿でね」

その言葉を聞いた周囲のクラプス王国の騎士たちが一斉に天を仰ぎ、頭をかきむしり、歯ぎしりをしながら、なにかに耐えるような表情をする。

「よせトウジ、お前の今言っていることは飢餓状態の奴らに、美味しいご馳走の話をしているような行為だ。拷問だぞ!」

「そりゃすまなかったね。でもあんた達、どうせ近いうちにセパンス王国に駆り出されると思うよ?」

「なぜだ?」

「謁見で私達の姿を見た王妃様やお姫様が興味津々だったからさ。

飯困らずダンジョンの奥まで、護衛とお湯を運ぶ役目を近々与えられるんじゃないかい?」

クラプス王国騎士団の目が輝く。

それはつまり、この鉄臭いダンジョンから抜け出して。美女だらけ、美味しい食事だらけの楽園に堂々と仕事として行ってもいいと!?

「私達がお姫様を護衛して、直接温泉ダンジョンの浴槽まで連れて行ってもいいんだけど。

その場合、鉄ダンジョン数年分くらいのドロップ品を払ってもらうよ」

「必要ない!」「姫様達は我々が必ずお守りする!」「我が国の王族の護衛に他国の騎士の助けなど不要ッ!」

みんなして、勇ましくかっこいいことを言っているが、そんな美味しい役目を取るなと言っているだけだと、その目が語っている。

「それならそれでいいんだけどね、温泉ダンジョンからのお湯の運び出し賃はしっかり払ってもらうよ? 温泉ダンジョンは女以外は入場不可だからね。

クラプス王国に17階層まで温泉の汲み出しができる女騎士が大勢いるのなら、話は別だけど」

「いるかそんなもの!」「我が国の軍の女っ気のなさを舐めるな!」「お前たちを見て正気を保てたのは男もイケる奴らくらいだ!」

トウジ隊長は、ああ……。といった顔をする。

何人かは完璧な自我を持って、おかしくなった男たちを冷静にたしなめていた立派な騎士たちもいるなと心の中で感心していたが。

ただ男色家でなんなら女に興味がない奴だって、そりゃ少しはいるだろう……。

「ま……まあ。少し私達も25階層を回らせてもらうよ」

「大丈夫なのか?」

「さあね、初挑戦だからなんとも言えないが……身体能力は足りてると思うんだけどねぇ」

「初見なら、重い荷物は全部ここに置いて左奥の通路から先に進め。

そっちの道は行き止まりだから俺達は誰も行かんが、モンスターがいないわけじゃない。

25階層の手応えを確認してくるだけならちょうどいいからな。

数時間たって、誰も戻ってこないようなら回収はしてやる」

慣れたような口調で騎士はそう話す。

おそらく25階層に初めて挑んだ奴らの「回収」をこれまでに何度も経験しているのだろう。

「はっ、至れり尽くせりでありがたいことだねぇ。行くよ!」

言われた通り、食料やこれまで拾ったドロップ品をすべて置き。

輸送担当の部下たちを残して、先へと進む。

この階層からは、荷物を抱えながら戦うなんて事自体が間違っているのだろう。

20分ほど一本道を進んでいった先の少し開けた部屋に、モンスターが一匹いた。

伊勢海老のように硬そうなトゲの外骨格をした、巨大な牛である。

トウジ隊長は、壁役の騎士たちに下がるように指示をして自身が前に出る。

巨大な槍で牽制しつつ、盾で敵の突撃を防ぐという手段は。

あの全身が鎧のような外骨格に覆われた巨大牛に対して、有効には思えなかったからだ。

「あいつは資料館によると甲殻牛というモンスターで、闘牛の要領で突進を躱そうとしても、避けた方向に瞬時に曲がってきて轢き殺されるそうですよ。ご注意を」

受けるも駄目、躱すも駄目。

そんな牛がまっすぐトウジ隊長に向かって突撃してきた。

トウジ隊長は牛の突撃に合わせて、横払いに虹の鉱石ハンマーを牛の顔面に叩き込むと同時に、ハンマーの打撃の反動に逆らうことなく横に飛び退き突撃を躱す。

牛は顔面を砕かれる勢いで殴られ、咄嗟にトウジ隊長に向かって方向転換する余裕はさすがにない。

打撃と回避を同時に行えば何も問題はない。

トウジ隊長はそう判断した。

顔面の殻を砕かれてよろつく牛に、後ろの隊員が虹の鉱石の投石で追撃する。

横っ腹に投石を食らった牛の身体には大きくヒビが入る。

しかし身体にヒビは入ったのだが、動きを止めるほど有効なダメージは与えられていないようである。

「硬った、マジか?」

石を投げつけられた方向に牛の意識が向いた瞬間。トウジ隊長がすかさず牛の細い前足をハンマーでぶん殴り足をへし折る。

足を折られた牛が絶叫を上げて体勢を崩し地面に倒れこむと、トウジ隊長は牛の残った3本の足も容赦なくハンマーで叩いてへし折る。

足をすべてへし折られ、一切動けなくなり這いつくばった牛のモンスターを見下ろしながらトウジ隊長が言う。

「お前達、通常の武器でこいつを始末してみろ」

そう言われた隊員のうちの一人が、大柄な両手剣を構え。

あえて牛の殻の砕けていない首の部分を狙って、気合を込めた一撃を放つと。

パキャァァアアアン!!

という音とともに、剣のほうがへし折れた。

「ま……虹の鉱石での投石でヒビしか入らなかった時点で、だいたい結果は想像つきましたけどね」

トウジ隊長も、この硬い牛を何度も殴ったハンマーを見て思う。

職業的な感覚でのみ感じ取れるほど些細なものだが、さっきの戦いだけでも柄が少し歪んでいるのを感じる。

「おそらく20体かそこら……。そのくらいここのモンスターを殴ったらこのハンマーの柄はひん曲がって使えなくなるだろう。

ヒトウの奴が言ったとおりだね。25階層を回るには、武器の方が保たない」

十数秒ほど色々と思考した第1部隊の面々が。はぁあああ~~~と肩を落としてため息を付く。

この結果は25階層を回る実力は足りているのに、武器が追いつかないから25階層の探索はできませんという結論そのものだからだ。

事前に聞いていた情報通りとは言え、やはり実際に実感してみるとがっかりはする。

「ヒトウ隊長、どうして1本しか虹の鉱石武器を貸してくれなかったんですか~? 5本ほど貸してくだされば私達もしばらく25階層を回れたのに!」

「そりゃ景気よく武器を使い潰されたくないからだろ」「回りたければ自分で鉱石集めて作れってことよ」「試しに一本貸してくれただけでも有情だな」

「虹の鉱石武器使い放題のクラプス軍と、赤の剣使い放題のマーポンウェア軍がずるいですよ!」

「仕方ない、この牛を倒したあとは24階層に戻って周回するとしよう」

隊員の一人が、顔面の割れた殻の隙間から細身の剣を差し込み、牛の脳のあたりをグリグリとえぐるも、なかなか死なない。

この生命力では、砕いた殻の隙間から通常の武器を挿し込んで戦うという考えも、いまいち実用性に欠ける机上の空論でしかなさそうだ。

20秒ほど頭の中を剣でグリグリほじっていると、ようやく死んだのか、牛が消滅し始めた。

牛が消滅したあとには、よくわからない金属の箱のような何かが現れた。

「……なんだこれ?」「なんでしょう」「わかりません」

そこに現れたのは、かつて温泉ダンジョンマスターが鉄ダンジョンコアに適当に渡していた。

ジュラルミン製のキャリーケースであった。

空港などで、旅行者がゴロゴロと引っ張っている荷物ケースである。

容量150リットル、お子様連れの家族1週間分の着替えと荷物も安心の超大型だ。

中身を全部鋼鉄にしても壊れないように、鉄ダンジョンコアによる強度の強化が施された一品である。

「車輪がついていますね、おそらくここを持って転がして運……うわっ、取っ手が伸びましたよ?」「なんだこれ?」「あ、これは動かしやすい」

「……入口まで戻って、クラプス軍の奴らに聞いてみるか」

ゴロゴロと現代風のキャリーケースを引っ張りながら通路を戻って来る屈強な装備の女騎士。

温泉ダンジョンマスターが見たら、何だこのトンチキな絵面は……。と思うことだろう。

「おう、トウジ。生きて戻ってこれたか、流石だな」

入口に座っていた知り合いの騎士が安心した様子で手を振る。

「ああ、おかげさまでね。ところで、こいつが何なのか教えてもらえないか?」

「んんん? 何だそれは? 俺達も知らんぞ」

クラプス軍の面々が、なんだなんだと集まってきてキャリーケースを調べ始める。

「鉄の荷物入れか? 軽いな……」「すげえ、虹の鉱石を2個入れても軽く動かせるぞこれ」「持ち手を短くもできるのか……便利だな」「大量に欲しいなこれは」「あー、いい匂いだ……」

「トウジ、これを見つけたのはついさっきだよな?」

「そりゃそうだろ」

「プレス隊長と連絡を取るから少しここで待機しろ。

隊長が今回の周回ですでに同じものを見つけていたら第一発見者の権利はクラプス軍のモノだ。

だがプレス隊長がまだこいつを未発見の場合、このドロップ品の第一発見者の権利はお前になるからな」

「……私達が第一発見者だった場合はどうなる?」

トウジ隊長は嫌そうな顔で聞く。

「知っていてとぼけるな、国際法に基づき報告義務が生じる。ちゃんと地上の鉄ダンジョン資料館へ発見当時の様子を細かく伝えに行けよ?」

うわあああ、いやだいやだいやだ。25階層の周回探索が武器不足でおあずけというだけで欲求不満が爆発しそうなのに。

24階層の在駐すらおあずけで地上にとんぼ返りさせられたうえ、資料館への報告だなんてとても耐えられない。

プレス隊長、頼むからすでに発見しておいてくれ。

トウジ隊長は心の底からそのように願った。

そして数時間後、伝令の集団が素早く奥にいる隊長と連絡を取り、結果を知らせに来た。

「はあ、残念ながらプレス隊長も未発見のようだ。……報告は頼んだぞ」「ああ~~くっそ~~!」「帰還する口実が~」「地上に戻って女抱きてええええ~」「匂いがあぁ匂いがああ!」

「代わってやるよ! 私だってこんなにすぐ戻りたくないんだっ!」

「それが許されんことだとお前もわかっているだろ……。まあ帰還費用に相当する十分な恩賞は必ず出るはずだ、損にはならん」

そういう問題じゃねえんだよっ!

そう心の中でそう毒づくも、ただ自分がもっと戦いたいというだけの理由でしかないため、トウジ隊長は渋々従うほかなかった。