軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

291.セットされる者

……。

や、やはりそうか……。

「だから水産物の運搬にはあんまり関わってなかったんだな」

「もぐ! ヴァンパイアほど水が苦手なわけじゃないもぐけど……あんまり水辺には住みませんもぐ」

ううむ、この辺りは理屈ではわかるんだが実感としては難しいな。

全ての人間種族は平等である、それがこの世界の大事な通念だ。

でもそれは全てが同一であることを意味しない。

種族によって得手不得手は存在する。

難しいことだ。

そうした各種族の積み重ねの上に、歴史や社会は築かれている。

「にゃ。でも平地に魔導トロッコを作るとは思い切ったお考えですにゃ」

「鉱山開発では魔導トロッコはよく使いますもぐが、平地ではほとんどありませんもぐ」

「そうだろうな……」

魔導トロッコの設置には多額の資金が必要だ。

金銀や鉱石という明確な掘り出し物があるならまだしも、この世界では単に平地を速く移動するために魔導トロッコは作らない。

馬でいいじゃないか、それが普通の考えなのだ。

だが、時間を節約することは投資する価値のあることだ。

前世の日本ではあらゆることを『速く』するために、途方もない努力を重ねてきた。

飛行機、船、電車、バス、エレベーター、エスカレーター。

速く大量の物を運ぶこと。

それは実のところ、文明の本質的部分ではないかと思っている。

これが俺のアドバンテージ。前世の知識があるから可能な判断だ。

問題なのはちゃんと回収できるかどうかだしな。

「まぁ、湖への魔導トロッコは先の話だ。とりあえず地下通路の全容解明が優先事項だからな」

「にゃ。らじゃーですにゃ!」

「もぐ! がんばりますもぐー!」

そうして話し合いは終わり、俺は執務室で仕事をこなした。夕方に仕事は片付き、家路につく。

二月も終わりに近づき、なんとなく暖かくなりつつある。少なくとも朝や夜に震えるような寒さを感じることはもうない。

「ぴっぴよー」(るんるーん)

「ウゴ、とうさん!」

背後から声を掛けられて振り向くと、そこにはウッドとコカトリスがいた。

……ウッドの胸元に抱きかかえられながら、コカトリスは羽をぱたぱたと振る。

「お疲れ……。どうしたんだ、その子は?」

「ウゴ、向こうで訓練してたら参加してきたんだ」

「ぴよよー」(冒険者修行でしたゆえー)

「ウゴウゴ、それで終わってもこうしてしがみついてきて……」

「ぴよっぴ……」(木の温もりを感じる……)

抱っこされたコカトリスがすりすりとウッドに体を寄せる。

「それで連れてきたわけか……」

「ウゴ。こうして歩いていけば、満足するかなって……」

「……それもそうだな。よし、俺も一緒に歩こうか。あとは帰るだけだしな」

たまにはこうして遠回り、ゆっくり散歩も悪くない。地下通路でも歩いたがあれは緊張感があったしな。

「ウゴ、お散歩!」

「ぴよ〜」(ぬくもり〜)

そうして俺達は家には直行せず、村を歩いて回ることにした。

夕方にもなると帰り支度の人もいれば、夜ご飯を食べに行く人も多い。道行く人に軽く挨拶しながら散歩を続ける。

風が吹くと大樹の葉が揺れ、音を鳴らす。

心地よい音だ。

「ぴよ〜……」(眠たくなってきた〜……)

コカトリスがウッドの胸元でうとうとし始めているな。まぶたが半分閉じかけている。

隣のウッドが小声で言う。

「ウゴ、寝そうだね……」

「そのようだな」

俺はコカトリスに近づき、そっとふわもっこな頭を撫でる。

「ぴよ……ぴよ……」(うと……うと……)

撫でられるのがよほど気持ちいいのか、俺の手にふにふにと頭を擦りつける。

「ぴよ……」(ほどよく硬め……)

「ウゴ。コカトリスは本当に触れられるの大好きだね」

「そうだな……。撫でられて嫌がるのを見たことがない」

コカトリス同士でもよくスキンシップしてるし、触り触られるのが本当に好きなんだな。

……このふわもっこ感、ディアと同じだ。ややディアのほうが毛が柔らかい気はするが……。

「あっ! いましたです!」

「ん?」

ウッドと歩いていると、ぽてぽてとララトマが走り寄ってきた。

「もしかしてこの子を探してたのか?」

俺がコカトリスを撫でながら言うと、ララトマが高速で頷く。

「はい! ぼくは冒険者になるぅ……って言って出掛けていったのです」

「そ、そうだったのか……」

「ぴよー……ぴよっぴ……」(あ、ララトマー……おやすみぃ……)

「そろそろご飯の時間です! もう、こうなったら……!」

そう言うとララトマは懐から草だんごを取り出した。そしてこれみよがしに草だんごを掲げる。

「ぴよ……? ぴよっ!」(んあー……? ご飯だっ!)

コカトリスの眠たげな目が、かっと開かれた。

「ウゴ、やっぱりすごい反応」

「……うむ」

「目が覚めましたです?」

草だんごを掲げながら、右に左に動かすララトマ。

手慣れた動きである。

「ぴよ! ぴよよ!」(覚めた! お腹空いたぁ!

コカトリスが草だんごの動きに合わせて首を振り振りする。

かわいい。

「ウゴウゴ、じゃあ帰る?」

「ぴよ、ぴよ!」(うん! ありがと!)

ウッドが腕を離すと、コカトリスがすちゃっと降り立つ。

「ぴよ、ぴよっぴ……!」(よし、帰るのだ……!)

「大変だな、ララトマ……」

思わずこぼした俺の言葉に、ララトマは首を振る。

「いえ、この子達は家族ですから!」

「ぴよっぴー!」(まいしすたー!)

「ウゴ……いい関係だね」

ウッドの言葉にララトマがはっとしたように顔を赤くする。どうやら一段落してウッドの前にいることに気が付いたらしい。

「はわっ……は、はい! それではご飯がありますので、これで失礼します!」

「ウゴ、おやすみー」

「おやすみ、ララトマ」

「おやすみなさいです!」

「ぴよー」(おやふみー)

そう言うと、コカトリスがララトマの両腕から羽を入れてすっと持ち上げる。そのままの体勢でコカトリスはぱたぱたと走り去って行った。

「……そうだな、そう言えばあの体勢だったな」

「ウゴ、俺がさっきしたのと同じ」

ウッドもララトマにしたら喜ぶんじゃ……と思ったが、俺はまだ言わないでおいたのだった。