作品タイトル不明
292.ウッドとユニフォームの展示物
大聖堂。
ついにウッドの作品にまで、オードリー達が進む。
「スゴイ……!」
その全容を見て取ったオードリーは押し込めるように驚きの声を上げた。
ウッドの作品はひとことで言えば、複雑さと豪快さが入り混じった作品である。
そびえ立ついくつものバット、それに張り巡らされたツタや枝。ウッド自身が生み出したカラフルな綿も使いまくられている。
これは、それまでの花飾りとは一線を画していた。
「なんだか……うん、人工物と自然が合わさってて不思議な感じ……」
「そうね、色鮮やかで見てて飽きないし」
ウッドが作ったのは前衛芸術のような花飾りだった。四作品のなかでもっとも人工物が多いのだ。
それは奇妙な感覚だった。
バットは確かに植物由来だけど、自然界にはない。
七色の綿も不思議な感覚を後押ししていた。
「そうぴよー! たのしいはなかざりぴよ!」
「主もがんばったんだぞ」
「ありがとぴよ!」
すりすり。ディアがマルコシアスのしっとり頭をハグする。
「シスタリアさんはどう……思いますか?」
クラリッサの問いかけに、シスタリアが深く感じ入ったように答える。
「……わたくしには、はかりかねます。花を飾るのは多々あれど……ここまで複雑なものは初見です。常道を壊し、新しい芸術と言うべきかと」
「シスタリアもそう思う?」
「ええ、不思議な作品です。とても高度な知性を持っておられますね」
シスタリアはウッドにも会っている。彼女はあの大きなツリーマンを思い浮かべていた。
ナーガシュ家に仕えてから、様々な花や庭を見てきて――大方のものは見てきたと自負している。
「この作品には既存の枠がありません。それでいて、花や枝の使い方は定石を踏襲しているところもあり……見応えがあります」
「気に入ったのね、シスタリア。あなたがそんなに饒舌になるなんて」
ふふりとオードリーが微笑む。
平素は静かで一歩下がっているシスタリアも、こと芸術については語りたくなるのだ。特に自分が好きな作品には。
「……お恥ずかしい限りです」
「いいのよ! 私もこれは素敵だと思うし……」
そんなオードリー達の様子をステラはにこにこと見つめていた。説明しようとしたことの大部分は、すでに伝わっているように見える。
バットもそれほど不可解なものとは思われていないようだ。
やはりバットは偉大……ステラはそう信じ始めていた。あとはユニフォームやボールの地位も引き上げていくだけである。
ステラが隣にいるナナへ嬉しそうに、
「好評なようで良かったですね……!」
「芸術品としてのクオリティは高いからね。ドリアード達にこんな才覚があるとは知らなかったけど……」
「底知れない方々なのです」
うんうんと頷くステラ。
花飾りを見終わったあと、オードリー達は次の展示物へと進む。
それは野ボールのユニフォームを飾っているスペースであった。
ぴよっとしているコカトリスがヒールベリーを持っている可愛らしい絵。それに『ヴィレッジ・コカトニア』と刺繍されている。
それを木製のマネキンにきちんと着せているのだ。
「これは野ボール用の服ですね。ゆったり伸び縮みして、とても良いのです」
「ぴよ! さわってみるぴよ!」
ぴっと羽を立てたディアに促され、オードリーがふにふにとユニフォームに触る。
「父上が持って帰ってきたのと同じ……。この品質で量産できるのですか?」
「材料はあるので、今後の課題ですね。でもどうですか? 動きやすいのは利点でしょう」
ステラの言葉にオードリーが頷く。
「はい……。綺麗なお洋服は好きですけど、着るのも動くのも大変で」
「ええ、部屋着としても優秀じゃないかと思うのです」
しかしオードリーは少し抵抗があるようだ。
「とても良いとは思いますが、浸透するには時間が……かかるかもですね」
「仕方ないんだぞ。服は貴族文化と直結してるんだぞ」
「ぴよ。なにかきっかけがあればいいぴよ?」
「わふー、その通りなんだぞ。意識も変えていくんだぞ」
「でもこういう服は悪くないよ。僕も今、着てるし」
「……その中だと見えませんね」
ステラも芸術祭の当日はユニフォームを着る所存である。自ら先頭に立ち、普及に努めるのだ。
そしてついに最後の展示物。
『コカトニア・ハウス』である。
ヒールベリーの村を模したドールハウスだ。
「ごくっ……」
オードリーもその存在は知ってはいたが、完全版は初めてである。
レイアがぎりぎりまで手を加えていたからだ。
オードリーは固唾を呑んで、その一角を視界に入れようとしていた。