作品タイトル不明
289.情熱
ララトマの作品は、他の二つとはまた趣向が違った。大きな丸太を真ん中にひとつ。
その周囲に枝や花を配している。
この作品にはスネアドラムがない。その代わり丸太が作品の中央に据えられているのだ。
「なんか……ドキドキするね?」
「はい、なんというか……情熱的です」
オードリーとクラリッサがぐっと身を乗り出してララトマの作品を見つめる。
その理由は枝と花にあった。
青々とした葉と赤色や青色の鮮烈な色合い。
特に花が多く、ぱあっときらびやかなのだ。ゼラニウムやブルースターは小ぶりの花ではあるが、恋の花としても人気が高い。
「シスタリアもそう思うでしょう?」
「ええ、これは――多少変形していますが、花束のようです」
銀縁眼鏡をくいっとしてシスタリアは答える。
先ほどの二つとは異なる思想と精神性。
シスタリアは無意識に教養からそれらを読み取ろうとする。
おそらく丸太は建物、何かの見立て……それを可憐で情熱溢れた花で覆っている。
これが意味するところは――。
そこでディアがマルコシアスに話しかける。
「ぴよ。これはおはながおおいぴよねー。なんでぴよ?」
「恋とか愛とか、要はなんとかかんとかなんだぞ」
ぽふぽふとマルコシアスがしっぽを振る。
その言葉にステラが目を閉じる。
思いっ切り適当、完全にマルちゃん言葉に変換されているが……しかし口は挟まない。
マルコシアスの言葉にディアが首を傾げる。
「ぴよ。またむずかしいぴよ。このはなとあいって……なにぴよ?」
「燃え上がる感情は何かになるんだぞ。主も楽しいときは――羽をぱたぱたさせてるんだぞ」
「なるぴよ! そうぴよね!」
ぱたぱたぱたと羽を動かすディア。
かわいい。
「ということは……ララトマはそれをおはなにしてるぴよね! なるぴよ、ちょっとりかいしたぴよっ」
「わう。よしよしなんだぞ」
「ぴよぴよぴよ!」
マルコシアスがむにゅーっとディアに抱きついて、頭をぽむぽむ撫でる。
その隙にすーっとナナがステラの横にスライド移動し、小声で聞く。
「えっ……そうなの? そういうアレコレ的なアレなの?」
「そうですよ。知らなかったんですか?」
「知らない……」
ステラは横目でナナに答える。
「まぁ、まだどうなるかはアレですが……。ナナも彼女とのこと、気を付けてくださいね」
「うっ。ぁい……」
ナナも冒険者として遥かに先輩のステラの前では、素直である。
ステラの言わんとしていることを察したのだ。
オードリーとクラリッサ達はララトマの作品をぐるっと回る。そうして、ほぅ……と息を吐いた。
「これまでとはまた違うね……」
「うん、違ったね」
音楽や物語で恋や愛が取り上げられることは多い。
でも彼女達にとっては、それらは単に取り上げているだけなのだ。
憧れですらない。
単に、そういうモノというだけなのだ。
でも、目の前の作品は少し違った。
この作品の奥には一人の女性がおり――彼女が願いと夢を込めてこれを作ったのがわかったのだ。
あの丸太や花をすすっと設置したのはディアかもしれないが……。
そのために二人の胸は高鳴ったのだ。
感情を隠さずぶつかりにくる、それがララトマの作品だった。
「じゃ、じゃあ……次が最後だね」
「う、うん」
二人は顔を見合い、最後のウッドの作品に移る。
「ぴよ! がんばったぴよよ!」
「我も配置したんだぞー」
オードリーとクラリッサが期待に胸を膨らませながら、ウッドの作品へと歩いていった。
◇
ヒールベリーの村。
冒険者の執務室で俺はイスカミナの書類を読み込んでいた。
「ふむふむ……」
イスカミナの書類は専門用語も散りばめられている。
ウルトラドラゴン機関とか、ぴよ式エネルギー変換炉とか。
確か工学の本にあったが、魔物の生態観察やら研究で見つかったやつだな。
魔導トロッコも魔法具の一種であり、魔物からヒントを得た技術も多い。
もちろん、ぴよ式エネルギー変換炉はコカトリス由来の技術である。ある種の魔力は冷却(水浴び)と停滞(お昼寝)により、反応性が高まる。
そのためこのエネルギー変換があると、長期的に見てリターンが増えるのだ。
……うん、もちろんコカトリスを観察していて学者が発見したらしいが……。
書類を読み込む俺に、途中参加してもらったナールが紅茶を進めてくる。
「にゃ。紅茶のお代わりはどうですかにゃ?」
「ありがとう、頂くよ」
一段落したそうなので、来てもらったのだ。
分厚い分、ナールにも見てもらったほうがいいだろうし。
「いずれは人も行き来するようにしたいですもぐー」
「最初のうちは貨物だけ、ということだな」
「人を乗せると座席や安全装置やら、色々と必要ですもぐ。積める荷物も減りますもぐ」
それはそうだな。
運転手だけと乗客がいるのでは考え方も違う。
もちろん両方の車両を用意するのもありだが、初期投資は高くなる。
気になる魔導トロッコの導入費用だが……まずは金貨五百枚は必要、か。
これもテストや短距離線の価格で、まずはこれをしないと路線を伸ばせない。
その後、路線を延長させたりするのは別途相談のようだな。
「にゃ。やはりかなりのお金がかかりますにゃ……」
俺の貯め込んだ資金でどうにかはなるが……。これまでとは文字通り桁違いの投資である。
だが利益も明白だ。
もし魔導トロッコが全線開通なら、ヒールベリーの村とザンザスまで半日前後になる。
速度的には馬車の三倍速を見込む……ということだな。
「ふむ……ふむ……ふむ?」
読み進めていくと、魔導トロッコの車両の絵が描いてあった。きちんとした車輪付きの絵だ。
どこかで見たことがあるというか……。
「……これを描いたのはアナリアか?」
「もぐ! ご明察ですもぐ!」
……ふむ。
トロッコの頭にコカトリスの顔がくっ付いている。
まさにぴっぴよ鉄道(仮)という感じだな。