軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

253.先制ぴよ

大聖堂。

ホールド達はトマト料理のフルコースを味わい、ひと心地ついてから中を案内される。

ちなみに出されたトマトのフルコースとは――トマトのスープ、トマトとチーズのオーブン焼き、トマトとサーモンのカルパッチョ、トマトジュース、トマトシャーベット――みたいな感じである。

オードリーは内心、トマトマトマトマ……と頭の中でトマトがダンスしている気分になったが、笑顔を崩してはいけなかった。

とても美味しい料理だけど、トマト以外は出てこないのである。

そして大聖堂の中は魔法具のおかげで、かなり暖かく過ごしやすい。

イグナートが着ぐるみの上の王冠をきゅっと整えながら、

「芸術祭をやるからな。湿度も気を使っている。水や照明も問題なしだ」

「それはありがたい」

至るところにコカトリス着ぐるみがおり、忙しそうにしている。

他にはドワーフの職人も詰めかけていた。

大聖堂にはすでに絵画や銅像が並べられつつあった。それなりに有名なものもあれば、無名画家の渾身の一作もある。

「当日は楽隊を配置し、優雅な音楽も楽しめるようにする」

「商談コーナーに高価なワインは置いてあるか?」

「無論。ただ、正直ワインは不得手だ。銘柄は揃えてあるから後で選定を手伝って欲しい」

「ああ、承知した」

ホールドがちょび髭を触りながら頷く。

イグナートは気位が高そうだが、それでいて柔軟な男だ。割とはっきり、出来ることと出来ないことを伝えてくる。

ホールドにとっても、そのほうがありがたい……万が一にも失敗は出来ない。

第一には古今東西の芸術品を揃え、芸術サロンの主としての名声を得ることだ。

「わぁ〜……」

オードリーが声を上げたのは、コカトリスのコーナーだった。

その大広間は三階ぶち抜きの高さがあり、隙間なくステンドグラスが並んでいる。

その大広間全てを使って、コカトリスゆかりの品々が置いてあるのだ。

「素晴らしい……」

まだ着ぐるみを着たままのヴィクターも感嘆の声を上げる。イグナートも得意そうだ。

「まずはヴァンパイアの建国神話を描いた名画の数々……まだ到着していないのもあるが」

「『北の地にてぴよと出会う』『ぴよに導かれて』『伝説の白ぴよ』か……どれも歴史書にはない神話の類だが、好まれるモチーフだな」

ヴィクターがゆっくりと目線を動かしていく。

北の大地に移り住み始めた頃、ときおりコカトリスと出会っては転機となったという……それらの場面を描いたものだ。

こんもりしたコカトリスが絵の中でぴよっぴ! していた。

クラリッサがおずおずとオードリーに尋ねる。

「神話と言っても、どこかで有りそうなことだよね」

「うん。コカトリスなら困っていたら助けてくれるし……でも白ぴよっていたのかなぁ?」

歴史のどこかでは絵画のモチーフになったことはあったのかもしれない。

例えば古い日本の化物退治は、熊や猪と戦ったものであるかもしれないのだ。

だけどオードリーの知る限り、白ぴよだけは存在が確認されていない。

「残念ながら、白ぴよだけは証拠はないな」

ヴィクターも首を振り、そして次の展示物へと目線を注ぐ。

「ほう、こちらは像や着ぐるみか……」

そこから先は立体物のコーナーであった。

まず並んでいるのは様々な種類のコカトリスの像である。

オーソドックスな銅像から、表面を金メッキした輝けるコカトリス像、鉱石絵具で七色に彩られた像まであるのだ。

大抵、羽をぴっと上げているのはこれが「ぴよっぴ!」スタイルとして定着しているゆえだ。

「着ぐるみコーナーは歴史の流れを感じてもらえるよう、古い年代のものから再現して並べている。微妙な違いがわかるだろう?」

「……そうだな」

ホールドがちょび髭に触る。

実はよくわからない。新しい着ぐるみのトレンドはもちろん、抑えている。

しかし古い年代の着ぐるみはそもそも着ているヴァンパイアもいないのだ。

さてなんと答えるかとホールドが思っていると、ヴィクターの着ぐるみハンドがつんつんしてくる。

そしてその羽が、ちょいちょいと展示着ぐるみの足元を指していた。

「地面との接地面か? あまり詳しくはないが……」

「そうだ! 上半身はあまり変わらないが、下半身は世代ごとに改良され続けているからな」

満足そうなイグナート。

良かった、当たりらしい。

「速く走れるようにと、汚れないように……ですよね!」

「さすがはホールドの娘だ。まさにその通り。機動性と泥や雪に汚れにくい改良は先人の労苦の連続と言えるだろう」

と、そこでイグナートの元に近衛ぴよがすすっと近寄ってきた。何か耳打ちしている。

「……ふむ? いいタイミングだな」

イグナートが近衛ぴよに指示を出す。

「こちらに来てもらってくれ」

「承知いたしました……!」

走り去る近衛ぴよ。その様子を見ていたホールドが、イグナートに問う。

「誰か来たのか?」

「ザンザスからの一行だな。ちょうど良いから、顔合わせを済ませておこう」

「ほう……早いな」

しばらく展示品を見ながら待っていると、ザンザスの一行が大広間に姿を現した。

先頭を歩くのは冒険者ギルドのマスター、レイアである。

もちろん、コカトリス帽子を被っていた。

イグナートも前に出ながら、挨拶をする。

「ようこそ、北の大聖堂へ。主催者のイグナートだ。このたびは芸術祭に助力頂き、感謝する」

「こちらこそ、またとない機会を頂き感謝いたします。迷宮都市ザンザスを代表して、冒険者ギルドのマスターレイアがご挨拶申し上げます」

相応、礼と握手をしたところで……イグナートはレイアのコカトリス帽子を見ないわけにはいかなかった。

これは挑戦と言っていいかもしれない。

コカトリス着ぐるみの本場にコカトリス帽子を被ったまま現れるなど……。

内心、ホールドも少しドキリとしていた。

ヴァンパイアはコカトリスの被り物に厳しい。

下手なモノは、いきなり評判を下げることにも繋がりかねない……。

しかしレイアは冷静に、空いた手でコカトリス帽子の紐を引っ張った。それが当然であるかのように。

ぴよーー!

……大聖堂にぴよの鳴き声が響き渡る。

オイオイオイとホールドが思う中、それを耳にしたヴィクターは思わず呟いた。

呟かずにはいられなかったのだ。

「本物の鳴き声そっくり……!?」