軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

252.秘められた血

翌朝。

ひんやりとしているが、清々しい朝だ。

「ぴよよ〜……おはぴよ」

「おはようだぞ」

「ふぇ……」

ステラのスイッチはすぐには入らない。

もっとも、夜行性のナナも同じようなものだ。

ステラ達とナナは違うベッドなのだが――ナナは着ぐるみを着た状態で、うつぶせに寝ている。

ディアはちらっとナナが寝ているベッドを見ながら、

「……こんもりぴよ?」

「さむがりかもだぞ」

「んにゃ……これが落ち着くんで、これで寝てるだけさ……」

ごろりとナナが寝転がる。

「あとは光も入ってこないからね。ステラは……」

「かあさまは、もうちょいじかんかかるぴよ」

遠くでときおり、どさりと雪が落ちる音がする。

この音はヒールベリーの村ではなかったものだった。

「ま、時間的には大丈夫だ。それじゃ僕は先にシャワー浴びてくるね……」

「らじゃーなんだぞ」

それから二十分くらい経って、ステラも本格的に目が覚めた。身支度を整え、ステラ達はスティーブンの村の入口に向かう。

そこでは村人達が見送りのために集まっていた。

村人の手には、それぞれぴったりのバットが握られている……。

ステラは、エルトに頼んでたくさんバットを作ってもらってよかった……と率直に思った。

「こんなに良いんですか、バット……を」

「ええ、どうぞどうぞ」

にこにこのステラはさらに付け加える。

「ボールとグローブはバットに比べると数が少ないですが、こちらは自作できるかと……」

「これくらいなら、村の猟師で作れますね。バットのほうが難しい……」

村長らしき人が、ふむふむと頷いている。

これはヒールベリーの村でもそうだった。エルトの魔法で作ったバットだけが恐ろしい出来栄えで似たように作るのが難しかったのだ。

グローブもボールも現代地球の基準には及ばないが、バットだけは違うのである。

それゆえ他人が再現するのは、ちょっと厳しい。

少なくとも相応の職人でないと作れないのだ。

「なんにしても、ありがとうございました」

深々と頭を下げる村人達。それに手を振るステラ。

「いえいえ、お気になさらず……!」

「これも魔物をぽこぽこして颯爽と去っていった、スティーブン様のお導き。あなたがたにも加護がありますように」

「……はひ」

だらだらと冷や汗を流すステラ。そう、彼女は言えなかった。

魔物をぽこぽこしていったのは、他ならない昔の自分であるということを……。

あんまり長居するとボロが出そうである。

そろそろ出発時間も迫っていた。

「では、さらばです!」

「さよならぴよー」

「またなんだぞー」

「じゃねー」

ステラ達はこう切り上げると、出発していった。手を振る村人に見送られて……。

この村から野ボールの選手が、いつか生まれるだろう。ステラはそんなことを考えながら、手を振るのであった。

それから、ステラ達は着ぐるみナナをソリ代わりにして雪原を快適にずざーしていた。

ズザザー……っと腹ばいで滑る着ぐるみ。

その上に陣取るディアは楽しそうである。

「ぴよ。はややややぴよ!」

しかし少しすると……。

ズザザザザッ!!

昨日よりもものすごい速度が出ていた。

ステラが手加減抜きの高速移動をしているためである。

「ちょちょっちょ、はやくないはやくない?」

「まだ速くはないんだぞ」

「すこーし下り坂ですからね! スピードが出ちゃうんです!」

「ぴよぴよぴよ! きもちいーぴよ!」

ステラの懐にいるディアはハイテンションである。

一方、スノボとスキーに慣れたナナでも、この速度はちょっとスリルがある。

「はやはやはやはや」

「もっと速くですか!?」

ぐいんぐいんと体重移動しながら、右へ左へ雪をまき散らして滑っていく。

そのたびに雪が朝日にきらめくのだ。

「ぴよー! ゆきがきらきら、ぴよ!」

「ドリフトしてるんだぞ」

元々、高速移動の主であるマルコシアスは、このくらいのスピードではびくともしない。

子犬姿の顔にたっぷりと向かい風を感じている。

「我もこんな高速移動がしたいんだぞ……!」

「こんなって、これですか?」

ステラがぐいっと力を入れると、ぼーんとナナの着ぐるみが跳ねた。

思わずナナが叫ぶ。

「飛んだ……!?」

「えいっ」

しかし跳躍はわずかなもの。

すぐにぽいんぽいんと雪の上に戻ってくる。

「すごごごぴよ!」

「なんか僕、凄い機動をしたような」

「踏み込めばこれくらいは……おっと!」

視界が開けた先に、凍りついた大河がある。

「ぴよー! ぜんぶ、こおりぴよ!?」

「そうなんだぞ。ここでは水も全部、氷だぞ」

「厚さは十分あるみたいですが……!」

耳をぴくぴく動かすステラの超感覚には、凍りついた大河の厚みもはっきりわかる。

「それなら、このまま行ってもいいかな」

「大丈夫ですか、ナナ!?」

「おなか、すりきれないぴよ?」

「大丈夫……そんなヤワじゃない! 僕も故郷ではウィンタースポーツの覇者だったんだから!」

なんだかナナも雪を滑っていくうちに、変なハイテンションになっていた。

無理もない。元々ナナも高速移動は研究していたし、ヒールベリーの村では封印していた、スピード狂の血が目覚め始めていたのだ。

そして、そのような血を察せないステラではない。

大なり小なり、冒険者とはスリルを愛する者がなるのだから。

Sランク冒険者ともなれば、未知に恐怖するばかりではない。高揚するものなのだ。

ナナの着ぐるみが凍てついた大河の上を滑り始める――甲高い音を響かせながら。

問題はない、氷には十分な厚さがあった。

「それならこのまま、レッツゴーです!」

「ぴよー!」

「だぞー!」

「りょーかい!」

そしてそのまま、ステラ達は大聖堂へと突っ走っていくのであった……。