作品タイトル不明
220.再会
オードリー?
ホールド兄さんは一緒じゃないのか。
なぜ突然……色々とわからないが、とにかく会ってみるしかない。
冒険者ギルドを出てみると、そこには数台の豪華な馬車が止まっていた。
ナーガシュ家の蛇の紋章がでかでかと描かれている。
ふむ、祭りの時に見た馬車と同じだな。
その馬車の前に、オードリーと従者達が並んでいる。
ホールド兄さんやヤヤの姿はないな、確かに。
オードリーの服装はちゃんとした、よそ行きの物。
所々にコカトリスモチーフがあるが……子ども向けとして、無難なところか。
顔には緊張と高揚が見え隠れしている。
これは……。
そして俺の姿が見えたのか、オードリー達がきちんと礼をする。
「エルト叔父様、お久しぶりです!」
「ああ、久し振り。ホールド兄さんは……」
「父上と母上はいません。私だけで来ましたので……!」
従者達の中で、最も高齢の執事がすっと前に出てくる。
「オードリーお嬢様はお一人で来られました。どうぞ、ご承知を」
「あとお手紙も預かってきました!」
オードリーが元気良く言うと、後ろに控えるメイドが手紙を何通か持参してくる。
それらを受け取り、早速読み始める。
ふむふむ。
第一の手紙には自分の代理としてオードリーを行かせたこと、クラリッサとこの村で合流すること、よろしく取り計らってくれとあるな。
なるほど、やはり今日はオードリーだけで親はいないようだ。
これは……あれだな、初めてのおつかいだ。
貴族の生活にはふたつのパターンがあるらしい。
ひとつは自分の領地に専念し、他の土地にはあまり出かけないパターン。
小さな領地の領主に多く、まさに俺だな。
もうひとつは領地外にも積極的に飛び回るパターン。これは大貴族や領地を持たない貴族に多いらしい。
ベルゼル兄さんやホールド兄さんはこちらだな。
オードリーもいずれはホールド兄さんの後を継ぎ、芸術サロンを続けるに違いない。
そうなると出来るだけ早いうちから、家族なしの外出にも慣れておく必要がある。
とはいえ、家の執事やメイドも付いてきているから安全安心ではあるが。
魔力持ちも複数人いるようだし、万全の態勢だろう。
そしてクラリッサか。
ステラから聞いていたが、東の国にいるんだったな。こちらに戻ってくるのか。
「ほうほう……クラリッサとはこの村で待ち合わせ、と」
「はい……! 父上がちょうど良いのではないかと。クラリッサは一両日にこの村に到着するらしく……」
二通目と三通目の手紙は芸術祭について、と表書きにある。
これは後で読めばいいか。
俺に手紙を渡すついでにクラリッサの迎えも……ということだな。一石二鳥だな。
もちろん問題はない。
いきなり家族が来るのも、この世界では仕方のないことだ。なにせ電話もないからな。
「わかった、歓迎する。ここまでお疲れ様だったな」
「はい、ありがとうございます……!」
しっかりとした子だ。
ホールド兄さんも娘を行かせるのは心配だったろう。
いくら信頼できる大人が付いていても……である。
でもやらなければならない。
ホールド兄さんとヤヤの娘として、学んでいかないといけない。
おっと、そうだ。
ディアとマルコシアスに伝えよう。オードリーと仲が良かったからな。
きっと飛んで喜ぶに違いない。
「それじゃ、家に案内しようか。ディアとマルシスもオードリーが来たことを知ったら喜ぶぞ」
「……! ディアちゃんとマルシスさん! はい、私も会いたいです!」
にこーっとオードリーが微笑む。
よほど嬉しいみたいだな。
そうして、俺達は家へと向かったのであった。
◇
その頃、エルトの家では……。
ソファーの上で、ディアが子犬姿のマルコシアスの背中を揉んでいた。
ステラとウッドは外出中。絵本読みもちょっと置いての休憩時間である。
羽で軽く押すように、ディアが揉む。
もみもみ。
もみもみもみ。
「ぴよー……きょうもしっとりぴよね」
「だぞー。いつもしっとりなんだぞ」
子犬姿のマルコシアスはお腹も良いが、背中部分も良い。
ディアは念入りにマルコシアスをマッサージする。
日中はたまにこうして、お互いにマッサージしあうのだ。
毛並みは大切、手入れには手間を欠かさない。
「ぎょうざとおなじぴよね。もめばもむほど、よくなるぴよ」
「……ま、まぁそうなんだぞ」
微妙な例えだが、間違ってはいない。
「……ぴよ?」
そこでディアが羽を止めて、首を傾げた。
「んむ? 我が主よ、どうかしたかのだぞ?」
「なにかピンときたよーな、きてないよーな……ぴよ」
「それは……わふ?」
マルコシアスがすんすんと匂いをかぐ。
何かに気が付いたようだ。こういう時は大抵、家に誰か来るときである。
「マルちゃんこそ、だれかくるぴよ?」
「わう。そうなんだぞ」
そう言うと、マルコシアスはソファーから降りて人型へと戻る。銀髪の少女姿である。
「ぴよ。だれぴよ?」
「すぐ来るんだぞ」
「なるぴよ。げんかんにいくぴよ!」
そうしてディアとマルコシアスは玄関に向かうと、ちょうど音がした。
鍵が回り、玄関が開く。先頭はエルトである。
「ただいまー」
「おかえりなさいぴよ!」
「おかえりなんだぞ」
と、ディアはエルトの後ろにいる人影に気付いた。
それほど時間が空いていたわけではないけれど、とても会いたかった友達である。
ディアがぴょんと跳びはねる。
「ぴよー!? オードリーちゃんぴよ!?」
「ディアちゃん、マルシスさん!」
「久し振りなんだぞ」
「とつぜん、きたぴよね! でもオードリーちゃんならいいぴよ!」
トコトコとディアがオードリーの足元に行く。
それをエルトは微笑ましく見ていた。
足元にディアが行くと、オードリーはかがんでディアを撫でる。
「会いたかったよぅ」
「あたしもぴよ!」
そしてオードリーはディアのふわもこボディを抱き上げる。それを当然のように受け止めるディア。
「ああ……ふわふわだぁ……」
オードリーが幸せそうにディアの羽毛に顔を埋める。
ふわふわ。もこもこ。
あの日別れてから、変わらない。天国のようなふわもこである。
「ぴよ! いつもかわらない、けなみぴよ!」
「うん、変わってないね!」
「よく来たんだぞ」
マルコシアスがかがんで手を差し出すと、オードリーがその手を取って握手する。
心なしか、オードリーの手は少し震えていた。
「お元気そうで……!」
「うん、元気だぞ」
オードリーはディアへはフランクな一方で、マルコシアスに対しては少し緊張してるようだ。
ディアが少し首を傾げる。
「ぴよ。なんかきんちょーしてるぴよ?」
ディアの問い掛けに、オードリーはもじもじしながら、
「……だってこんなに綺麗で、劇でも……」
「なるぴよ。あのときのマルちゃんはすごかったぴよね」
ディアの記憶の中のマルコシアスは大抵、子犬姿でお腹丸出しだけれど。
でも確かにキリッとしたマルコシアスはステラに並ぶ格好良さがある。
滅多にそういう機会はないんだけれど……。
と、ディアはオードリーの後ろにも人が結構いることに気が付いた。玄関から外へと溢れ出している。
「このままだと中へ入れないぞ」
「そうぴよね。ぴよ、それじゃなかへどーぞぴよ!」