軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

191.しっくり

そんなステラに対して、いち早く気を取り直したのは女王だった。

「ステラ様……これで合っていますか?」

女王が玉座でバットを握る。

とても真剣な眼差しで。

「お母様……!?」

「クラリッサ、私は思いました」

女王は少し悔しそうに言う。

「このバットには確かに特別な魔力はありません。しかし、逆に言えば……鍛えて、鍛えて、鍛え抜けばステラ様と同じことが出来るということ。特別な武器はなくても、強くなれるのです」

「……!」

クラリッサも側近達も息を呑む。

言われてみれば、その通りである。

ステラは超絶の英雄かもしれない。

だがその強さは、武器あってのものではない。

限界を超越した身体能力と魔力のおかげなのである。

女王の言葉に、ステラはすすっと玉座に近寄る。

「ええ、そうですね……。握り方はこれで良いかと。脇をもう少し開けて……」

聞かれるとすぐ答えるのがステラだ。

早速講義に入る。

クラリッサと側近達もぞろぞろと玉座の周りへと集まっていく。

ステラのスイング講座を聞き逃さないように。

「なんだか始まったんだぞ」

「だねぇ……」

マルコシアスの言葉にナナは生返事である。

ナナは女王達への集中力を切らさないよう、でもそっと燕の像を調べていた。

「鞭のおかげで魔力が散って……うまく壊れてくれたけど、これは……」

さわさわさわ。

ナナは熱心に燕の像を触っていた。

着ぐるみ越しの手とはいえ、ナナくらいになればかなりのことがわかる。

「あの鞭、かっこよかったんだぞ。きらきらでぐいーんと伸びて……」

「ありがとう。あの鞭も元々は悪魔の技術の産物で、そういう意味では燕と同じようなものだけど……だからこそ効果はあった」

ナナが使った極彩色の鞭は、正式名称を【サンドラゴンの髭】という。

かつて発掘されたドラゴン型の魔法具から、ナナの先代達が苦労して分離させた武器なのだ。

その微調整には数十年の歳月を要している――ゆえにその強さも並大抵のものではない。

鞭は魔力に応じて動き、さらに触れた魔力を散らすことができる。

燕を逃さなかったのは、鞭のおかげでもある。

「あまりに魔力が膨大すぎて、ステラなしでは鞭も意味無かったろうけどね」

「なるほどなんだぞ。ふーん、像自体は普通に見えるんだぞ」

ナナの手元をすっと覗き込むマルコシアス。

「これ自体は……危険性はない。ザンザスの動く雷って知ってる?」

「母上が前に倒したと聞いたぞ」

「そう、特性としてはそれに近い。核となる木像から魔力を放って、実体を持つ」

ナナのやわらか着ぐるみハンドが、木像の断面を撫でている。

「今、重要な魔力回路のいくつかを切断した。これでそう簡単には元に戻せない」

「よかったんだぞ」

玉座の近くではステラがデュランダルを構えて一本足打法を披露していた。

そのたびに周囲はおおーっと歓声が上がる。

「しばらくかかりそうなんだぞ」

「ま、いいじゃないか」

女王達も盛り上がりながら話を聞いている。

ちょっと変わっているけれど、祖国を救った英雄なのだ。

「なるほど、基本の基本はそのような形で……」

「ええ、バットや体格によっても変わりますが……」

「私もやります!」

手を上げたのはクラリッサだ。

バットを構えるクラリッサをステラは微笑みながら指導する。

こうして一時間以上に渡って、ステラ直々の講習が行われたのだった。

その日の夜。

王宮では盛大な宴が始まった。

もちろんステラ達の戦勝祝いである。

城下の貴族はほぼ集まり、珍品が並べられ、その規模は即位式に並ぶほどだった。

ステラ達は広間の最上の席で食事をとっている。

その隣には女王とクラリッサがいた。

ステラが申し訳なさそうに女王達に言う。

「……すみません、さきほどは興奮してしまって」

「いえいえ、実に有意義な時間でした」

少し時間が空いて、ステラもクールダウンした。

謁見の間でスイング講義はノリノリしすぎたと思ったのだ。

反省はあまりしてなかったが。

肩の荷が下りた女王も、ノリノリだったので特に悪い気はしなかった。

話題はやはり野ボールのことになる。

「それにしても、その野ボールというのは面白いですね。簡素でいて奥深いように思えます。私も諸国の遊戯、競技のたぐいはおおよそ知っておりますが……似たものがありません」

「はい、これは私もエルト様から教えていただきました」

「エルト様……クラリッサ、ホールド様の弟様でしたでしょうか?」

女王にも抜かりはない。ホールドの実家であるナーガシュ家は把握済みである。

「はい! 私より五つか六つ年上で、凄い魔力をお持ちでした……!」

「なるほど……。ナーガシュ家であれば、不思議はありません。ナーガシュ家は大変古くからありますからね」

「私が眠りにつく前にも、蛇の紋章の貴族家は聞いたことがあります」

そのころのナーガシュ家とザンザスはあまり交流がなかったので、特段の記憶はないが。

女王が感慨深そうに頷く。

「これも奇縁と言えましょう。先進国に学ばせるため娘を預けた家が、ステラ様とも縁があるとは」

「本当にそうですね……」

エルトが住まう国は魔法学や魔道具学、魔物学の先進国である。

元は燕に対抗するために、クラリッサを行かせて学ばせていたのではあるが……。

ナナも出自は北の国。クラリッサと同じように留学先の貴族院でホールドと出会ったのだ。

ちなみに今のナナは燕の木像を包んで背負っている。収納するために必須であるので、咎める者は誰もいない。

クラリッサはホールドの所にまた留学することになる。燕の脅威は去ったが、強く賢くあるのは貴族として必要なことなのだ。

そのためには学ばなければならない。

それでもかつてのような悲壮感はない。

希望を持った学びなのだ。

「書簡にもありますが、エルト様にも最上の感謝をお伝えください。お会いできなかったのが残念です。何かあればお力になります」

「はい……!」

この女王からの書簡もナナが背負っている包みに入っている。

仕方ない、ばびゅんして落としたら大変だから。

収納しておけば安心である。

「からっ、からっ!」

エルフ料理はけっこう辛い。

マルコシアスは言いながらも楽しんで食べている。

「さて、今回の朗報を国中に知らせるのに、どのように書くかですが……」

女王が側近から薄い紙を受け取る。

燕の災禍は国の歴史でもある。これを解決したことは国民に知らせて回らないといけない。

良い知らせを国民に伝えるのも、また国の仕事である。

「ふむ、それならいい謳い文句があるぞ。なんだか閃いたんだぞ」

ナナに口を拭われながら、マルコシアスが言う。

劇のときと同じように――華麗に淀みなく。

「ステラの一打、仇敵破る。これこそ英雄、燕よさらば」

……なんだか妙なフレーズである。

しかしステラはぽんと手を打った。

言葉にはできないが、しっくりきたのだ。

「なんだかわかりませんが……本能的に良い気がしますね!」