軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伊勢エビの姿造り

チベットスナギツネの顔になりながら、私は宿の棟に戻った。

気になる対応ではあったけど、今はそれよりも大切なことがあるからだ。

そう! 今はそんなことより、伊勢エビ! 高級食材!

「ハストさん、レリィ君、昨日、カツオのたたきは生だけど大丈夫でしたよね?」

「はい」

「すごくおいしかったよ!」

「じゃあ、この伊勢エビも生で食べましょう!」

せっかくの新鮮な伊勢エビ。

やっぱり、お刺身で食べたいよね!

「では、三匹とも同じように処理をしますか?」

「あ、それなんですけど、生で食べるのは一匹にして、それを三人で食べようかな、と。残りの二匹はまた違う調理をしようと思います」

さっそく手伝ってくれようとしたハストさんに、私の考えを伝える。

今回は別メニューを考えているのだ。

「本当はみんなと食べたいんですが、今日の夕方はハストさんやレリィ君たちは街の広場に呼ばれているんですよね?」

「うん! 僕たちだけじゃないけどね、お礼にって」

「そうなると、みんなでエビを食べられるのは、たぶん明日の昼か夜になっちゃいますよね。私のスキルがあれば新鮮なままで保存できるとは思うのですが、一応、生のものは今から食べて、みんなで食べるためのエビは保存できるように、茹でてしまおうと思います」

「そのための鍋だったのですね」

「はい」

「では、水を溜めて火にかけますか?」

「お願いします」

「火加減は僕に任せて!」

私の説明を聞いて、すぐにハストさんとレリィ君が動いてくれる。

戦いのあとだから休んでもらいたいが、やはり私ではできないことも多いので……。

大鍋に水を張り、そこに塩を入れる。

この港の近くには大きな川があり、水に困らない。さらに海水を干して作る、塩も名産らしい。

レリィ君がかまどに火をいれてくれ、大鍋を載せれば、あとは沸騰するのを待つだけだ。

「シーナ様、エビはどのようにさばきますか?」

「えっと、一匹は尾の部分を生で食べたいです。二匹はそのまま茹でたあと、縦に切ろうかな、と」

「わかりました。まだ生きていて、殻も固いので私がやります」

「エビもさばけるんですか?」

北の騎士団でエビがいた記憶はないが、ハストさんならなんでも解体できそうではある。

「おお!」と声を上げると、ハストさんは水色の目を優しく細めて――

「はい、さきほど、魔魚を解体したときに、港の人に聞きながら、コツを掴みました」

「あ、なるほど」

そうか、あの巨大ザリガニでね。

大きい体から真珠を取り出すためには、それはしっかりとした解体が必要だもんね。

すでに習得済みなのであれば、お願いしよう。

「では」

ハストさんはそういうと、伊勢エビを反らせ、頭と尾の隙間に包丁の刃を入れる。

すると、伊勢エビはギギギッと鳴いた。

……うん。巨大ザリガニのときと似ている声ではある。

少しの間、暴れていた伊勢エビも徐々に体から力が抜けていく。

ハストさんはそれをしっかり見極めていたようで、入れた包丁を隙間に沿わせて、ぐるっと一周させた。

そして、尾を持ち、ひねりながら引けば、すぐに頭と尾が分かれる。

伊勢エビは多少動いてはいたが、あっという間の出来事だった。

さすが、ハストさん。つよい。

「あとは腹から殻を剥いていってよろしいですか?」

「はい! あの背側の殻なんですが、そこは切らずに残しておいて欲しいです。取り出した身を切ったあと、戻して器みたいにして使いたくて……」

「わかりました。腹側から切り、身を剥がすようにします」

「お願いします。私は一度、台所に行って、生で食べるときに必要なタレと、身を絞めるための氷を持ってきます!」

「じゃあ、僕はお湯が沸いたら、エビを茹でるね!」

「うん。ありがとう。暴れるかもしれないから気をつけてね」

「それならば、こちらの二匹も絞めてから、茹でましょう」

そう言うと、ハストさんは次の伊勢エビをとり、同じように頭と尾の隙間に包丁を入れた。

あとは任せても大丈夫そうだ。

それでは――

「『台所召喚』!」

――やってきました、私の台所。

といっても、今日はほとんどの調理はあちらでやるので、私が準備するのはお刺身に必要なもののみ。

お皿はあちらにあるので、しょうゆと氷だけでいいかな?

そう思って、調理台を見ると……。

「……好き」

大好き……。

見て……しょうゆ入れるための小皿三枚とそれを載せるためのお盆、そして氷を入れるようの大きな深皿まで……。

「好き……」

いつも、ありがとう……。

心を込めて、台所を一しきり撫でたあと、ポイント交換用の液晶パネルへと向かう。

「今回は思い切って刺身醤油をポイント交換しちゃおう」

選んだのは、ただの醤油ではなく刺身醤油。

やっぱりお刺身にはただの醤油より、こちらがおいしいから……!

また、お刺身を食べたくなるのは間違いないから、あっても困らないはず。

私には常に最高の状態で品質を保持してくれる、ワンドアぱたん冷蔵庫がついているしね!

「刺身醤油を入れて……と」

台所が出してくれた小皿に刺身醤油を注ぎ、残りは冷蔵庫へと入れる。

そして、今日はさらに冷蔵庫に活躍してもらおう!

「自動製氷機……!」

サイズが大きくなったワンドアぱたん冷蔵庫は、自動製氷機つき。

なので、これまた台所が用意してくれた深皿に、氷をザッとすくって入れていく。

「便利……台所の進化ありがたい……」

ポイントをためて交換すれば、どんどん進化する台所。

私のスキルがすごすぎる。

「じゃあ、お盆を持って、と……。――『できあがり』!」

唱えて、台所から必要なものを持って帰る。

「戻りました――と、なにか問題がありましたか?」

どうやらハストさんは伊勢エビを引き続き、さばいてくれていたようだが、その手元をレリィ君が覗きこんでいる。

キッチンの調理台の裏がカウンターテーブルになっていて物が置けるので、とりあえずお盆を置いた。

そして、私もハストさんの手元を覗く。

するとそこには――

「真珠、ですか……?」

伊勢エビはすでに殻から身を外されており、半透明の身があった。

大きな伊勢エビだったので、その身はハストさんの大きな手からはみ出すサイズ感だ。

たぶん、ハストさんは背ワタを取ってくれたのだろう。

細長い背ワタが取り出され、その中心部分がぷっくりと膨らんでいた。

「今、ちょうど見つけたところでした。洗ってみます」

ハストさんはそういうと背ワタを水で洗う。

水から取り出したそれは、小指の先ぐらいの大きさで白く輝いていた。

「……やっぱり真珠を持ってますね」

巨大ザリガニにあったんだから、この三匹に入っている可能性が高いとは思ったが……。

「シンジュについてはまた食べたあとに話すことにしましょう」

「はい、そうですね」

「この身はどうしますか?」

「あ、一口サイズにそぎ切りでお願いします」

「わかりました」

「切ったヤツは氷水で絞めますね」

ハストさんが切ってくれた伊勢エビを氷水へと落とし、身を絞める。

シンジュについては気になるけれど、半透明に輝く身を見ていると、もう早く食べたい。

おいしさを想像していると、レリィ君に声をかけられた。

「シーナさん! こっちはどうかな?」

「うん、そうだね。そろそろかな」

たしかに、鍋に入れられていた残りの二匹もそろそろいい頃合いだ。

鍋を覗けば茶褐色だった伊勢エビが、沸騰した湯の中で赤くなっていた。

「うん! 良さそう!」

「じゃあ、火を消すね」

「ばっちり!」と親指を上げれば、レリィ君が頷き、薪へと火をかざす。

すると、すぐに薪は燃え尽きた。

さすが、レリィ君。

キッチンについていたトングで、伊勢エビを引き上げて、大きな皿の上へと置く。

まだアツアツなので、少し冷ますためだ。

「すごいね……真っ赤になってきれいだね」

「うん……身がぷりぷりでほかぁってしておいしいんだろうなぁ……」

湯気の立つ伊勢エビを見ていると、こちらもまた想像だけでおいしい。

早く食べたい。

「シーナ様、こちらは終わりました」

「あ、ありがとうございます!」

私がほかほかの伊勢エビに魅入っているうちに、ハストさんはすべての工程を終えていた。

一口大にされた身は氷水で絞められたあと、ザルに上げられ、水を切られている。

あとは盛りつけだけだ。

「こっちの伊勢エビの処理も終えて、すぐに食べましょう!」

「そうですね。この茹でたエビはどうしますか?」

「縦半分に切ってもらえれば、うれしいです」

「わかりました」

ハストさんはそう言うと、伊勢エビをまな板におき、包丁を構える。

さばくのはハストさん、みたいになってしまって申し訳ないが、固い殻を持つ伊勢エビも、豆腐と変わらないぐらい、あっさりと縦に半分になった。

こういうのを見ると、私よりもすごいので、ついつい頼ってしまう。

すると――

「やっぱりありますね」

「ほぼ同じ部位ですね」

縦に半分になった伊勢エビの断面。

その背ワタと思われる部分に、真珠があった。

「こちらもありますね」

「ですね……」

続けて切った伊勢エビにもやはり真珠。

これで、私が魔魚から変化させた伊勢エビのすべてに真珠があったことになる。

レリィ君が灰にしてしまった巨大ザリガニに真珠があったかはわからないが、たぶんほぼ100%持っていただろう。

やはり、魔魚が魔海から出るために真珠が重要であることは間違いなさそうだ。

「この伊勢エビはみんなで食べられるように、保管しておきますね」

「すごくおいしそうだけど、みんなで食べたほうがおいしいもんね!」

「うん! ……すごくおいしそうだけど」

茹でられた身からほかほかと湯気が出て、エビのおいしい香りが広がっている。

生のときは半透明だった身が白く変わっており、頭の部分にはおいしそうなミソの部分も見えた。

……正直、今食べたい。

ボイル伊勢エビ、絶対においしい。食べたい。

でも、みんなで食べるためだから……!

雫ちゃんにも食べてもらいたいから……!

「収めてきます……。『台所召喚』!」

私にはワンドアぱたん冷蔵庫がある。

ずっとおいしく保管してくれるはず……。

だから、我慢!

「じゃあ、こちらは盛りつけますね!」

ボイル伊勢エビの半身(×4)を冷蔵庫に収めた私は、すぐに戻ってきた。

お刺身が待っているからね!

まずは、大きなお皿に大きな伊勢海老の頭をドーンと飾る。

そして、ハストさんが取っておいてくれた伊勢エビの殻を頭から続くように敷き、そこに市場でもらった色鮮やかな海藻を盛った。

さらにその上に、半透明に光る伊勢エビの身をたっぷりと盛れば――

「――伊勢エビの姿造り」

完成!!