軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

食物連鎖

ザリガニ型魔魚を倒し、私たちは宿へと帰っていた。

片付けは港の人がやっている。

私たちも参加しようとしたが、ハストさんとレリィ君の活躍を見た港の人たちは二人を英雄と褒めたたえた。

そして、片付けなどはせず、休んでほしいと、波止場に留まらせてはくれなかったのだ。

「魔魚には真珠があったんですよね……」

「はい。体にありました。シンジュがあったのは消化管の中のではないかと思います」

ハストさんはそんな中でも、ザリガニの中に真珠があるかどうかは、しっかりと確かめていてくれた。

結果、やはり真珠があって……。

「レリィが倒した魔魚は灰になったものが多く、真珠の確認はできませんでした。が、私が倒した魔魚は、すべて、真珠を持っていました」

「それなら、やっぱり、魔魚が魔海を越えた理由は真珠だと考えて間違いなさそうですね……」

「少なくとも、今回、港に出没した魔魚は真珠を持っていたために、魔海から出て行動できたことはほぼ確定ではないかと考えます」

「ですよね……」

本来なら魔海から魔魚は出られない。

魔石を持っていないからだ。

けれど、魔石を持てば、魔海から出ることができる。

そして、その魔石とは真珠だ。

今回、襲撃してきたザリガニの調べられるものすべての体内から真珠が出たということは、魔魚は真珠があれば、魔海から出て活動できるのは間違いないだろう。

「今回のエビの魔魚の数、港の人はびっくりしてたよ。今までは魚の魔魚が一匹いるかどうかって感じだったみたい」

「そうなんだ」

「うん。昨日の夜、波止場に一匹だけだったから、そんなもんだろうってみんな思ってたみたい。でも、今まで波止場まで来たことはなかったから、そこは気にしてたみたいだけど。まさか、こんなに大量の魔魚、しかも陸地に出てくるなんて……って」

「海にいるのと、今回みたいに陸地にまで来られるのは違うよね……」

絶対に水陸両用のほうがこわい。

「港の人は僕やヴォルさん、ゼズさんにここに残って欲しいみたいなんだ。安心だからって」

「そうだよね。みんな強いから」

「でも、ずっとはいられないし……」

「うん……」

そう。ずっとここにいて魔魚を狩り続けるというのは無理だろう。

だから、できれば真珠が発生する原因を見つけ、魔海から魔魚が出ないようにすることが一番いい。

「ここのエビはね、ちょうどシーナさんが変化させたエビによく似てるんだって。違うところは、ハサミがあるかないかってことみたい」

「あ、私の世界にもハサミを持つエビがいたよ。そっちに近いのかな?」

魔魚を包丁(聖剣)で変化させたから、日本の食材に変わったけれど、実際はオマールエビのほうが近かったのかもしれない。

私が「なるほど」と頷いていると、レリィ君は「それでね」と話を続けた。

「海の底にいて、貝とかを食べてるんだって」

「貝……」

「うん。僕、それを聞いて、あ! って思ったんだ」

レリィ君の言葉に私もある考えが浮かぶ。

つまり――

「貝が真珠を作って、それをエビが食べて……。そうすると、魔海から外に出られる魔魚になる……?」

「うん。シーナさんは貝で真珠と作ってるかもしれないって言ったよね。昨日、みんなで話して、それを食べた魔魚が魔海から出てるんじゃないかって」

「……さきほど、市場での話も関係があるかもしれません。エビを食べる魚がいる、と」

「あ、たしかに聞きましたね」

三人で顔を見合わせる。

まだ真相はわからない。

だが、そう考えれば、すべての魔魚が魔海から出られるわけではないということになる。

「貝が真珠を作る。エビが貝を食べる。魚がエビを食べる……」

食物連鎖で真珠が巡っているんだろうか……。

「その場合、密猟者が魔海の砂底を掘っているのは、貝を手に入れるためと考えられます」

「雫ちゃんたちが出所を解明してくれて、それが貝だってわかれば……」

「エルジャさんや兄さんが、この港の密漁者を取り締まって、貝を管理できるようにすればいいんじゃないかな?」

貝さえしっかりと管理できれば、魔魚が真珠を得ることはない。

そうすれば、また元と同じように生活できる可能性が高い。

「良かった……」

これならば、なんとかなりそうだ。

まだ魔魚の出没例は多くない。

原因である貝の対応を誤らなければ、きっと大丈夫。

「きっと兄さんたちがうまくやってくれるよ!」

「そうだね、スラスターさんはこういうときはすごいもんね」

「僕もちゃんと兄さんに頼むから!」

「あ、それなら絶対に大丈夫だね」

レリィ君に頼まれたスラスターさんなら秒で法整備をしてくれそうだ。

今回は王太子であるエルジャさんも港の現状を把握してくれているから、話も早いだろう。

ほっと息を吐く。

レリィ君も「良かった!」と明るい声を出した。

「ただ……一つだけ疑問があります」

盛り上がる私とレリィ君をハストさんがそっと制す。

その目はまだ晴れていない。

「魔の森にいる魔獣は食事を必要としません。すでに生命の輪から外れているからです。必要なものは魔素。それが溜まる魔の森で生活をし、そこで魔石を作る活動をしていました。……魔魚の生態も似たものだと考えると、魔魚が食物を摂取する理由がわかりません」

「あ……たしかに……」

食物を必要としないはずの魔魚がなぜお互いを食したのか。

魔魚になる前に真珠を得ていた?

魔魚になったから、真珠を得るために食した……?

食物連鎖はすでに成り立っていないはず……?

「でも、それはシンジュが魔石だからじゃないかな? 僕は魔法が使えるからすぐにシンジュが魔石だってわかったよ。それと同じように魔魚も魔石がすぐにわかったんじゃないかな」

「それは考えられるが……。とにかく、今はミズナミ様やスラスターの成果を待ちましょう。まだ解決したわけではないありません」

「そうですね、わかりました」

ハストさんの言葉に「はい」と頷く。

たぶん大丈夫だから、と気を抜くのではなく、考えるのは大切なことだ。

気を引き締めていると、ハストさんが手に持っている木の箱を覗いた。

「シーナ様、それはこれから調理しますか?」

「はい」

ハストさんが持っている木の箱に入っているのは、さっき手に入れた伊勢エビ三匹だ。

ピチピチ跳ねるし動くので、現在は足を紐で縛ってある。

「そろそろお昼なんで、一品作りますね!」

「やったぁ! シーナさんの料理を食べれるのうれしい!」

「伊勢エビ、すごくおいしいから楽しみにしてて!」

「うん!」

私の言葉にレリィ君が若葉色の目を輝かせる。

それはハストさんも一緒。

水色の目がうれしそうだ。

「下処理はこっちでしようと思うので、ハストさんに手伝ってもらいたいんですが、いいですか?」

「もちろん」

私のお願いにハストさんはすぐに応えてくれる。

本当に頼もしい。

「あ、それじゃあ、宿の人に大きな鍋を借りてきます!」

「シーナさん、僕が行くよ!」

「シーナ様、私が」

「いえいえ、二人は戦ったあとなんで、少しゆっくりしててください。私がごはんを作るのは、二人の体力回復の意味もあるので」

とても強い二人だから、ザリガニと戦ったあとでも顔色一つ変わっていない。

けれど、ちゃんと休んで欲しいから。

「すぐに戻ります」

二人に断ってから、宿の棟を出る。

近くに宿の受付になっている棟があるので、そこまで歩いていった。

受付にはおじさんがいて、ちょうどいいから、と大きな鍋を貸してほしいと頼んだんだけど……。

「大きな鍋を貸していただけませんか?」

キッチンについていた鍋が小さかったので、大きい物を借りようと思ったのだ。

この頼みごとも選んだ人も普通だと思う。

けれど、宿の人は目をそっと逸らし、もごもごと口ごもった。

「あー……鍋ね……」

「はい。宿のキッチンに備え付けられているのよりも、大きいものがよくて」

「あー……あるにはあるが……」

目を泳がせ、少し考えるようにあたりを見回している。

……なんでだろう? 対応がどこかよそよそしい。

もちろん人気者のみんなと私では、少し対応に差があったが、ここまでではなかった。

「えっと、大きな鍋があるなら貸してほしいのですが、無理なお願いだったのなら、申し訳ありません」

「あ、いや、無理じゃねえんだ……いや、頼みごとはいいんだが……」

なにか失礼があったかと謝ると、おじさんは慌てて、それは否定した。

そして、言い辛そうに口ごもり……。

しばしのあと、心配そうに私を見た。

「しかし、それで踊ると危ないぞ?」

「え?」

踊る? え? 鍋で踊るとは?

「え、いや、踊りませんが」

踊らないよね。普通は踊らない。

鍋は調理に使うもの。踊ったりしない。

「あー! あーー! そうか! いや! いやいや! そうだな! いや! そうだよな!」

よくわからなくて顔を傾げると、おじさんはびっくりするぐらい大きな声で笑った。

「よくわかんねぇ話を聞いて、ちょっと心配してたんだ! いやぁ、そうだよな! すまねぇ! 俺がきっとおちょくられたんだな! わりぃな! ほら、鍋だろ、ついてきな!」

そう言っておじさんは豪快に笑いながら、私に鍋を渡してくれた。

……解せぬ。