軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

高級食材イエーイ

現れたザリガニはミニバン~4LDK一戸建てサイズ。

天井の隙間から覗いている顔は二匹。

黒くつぶらで濁った目と縦に割れた口。大きなハサミも見えた。

知っているザリガニよりもゴツゴツしているし、ところどころトゲもある。

そうして観察していると、その黒い目が私を捉えた気がして――

「ピ」

……案外かわいい鳴き声だね。うれしそうに私を見てるね。

濁った目に見つめられ、ゾクッと悪寒が走る。

すると、そのザリガニの眉間(?)にグサグサグサッと木の棒が3本、一気に刺さった。

「大丈夫ですか、シーナ様」

ハストさんの落ち着いた低い声。

その音を聞くと同時に、私を見つめて鳴いたザリガニはズルズルと天井の穴から姿を消した。

「あ……ちょっと目が合った気がして……」

心配そうに見つめるハストさんの手には、たくさんの木の杭。

どうやら、魚の入った木の箱を瞬時に解体し、作ったと思われる。

さすが、ハストさん。

つよい。

「ピピッ」

ザリガニは私が視線を反らしたせいか、私の視線を戻すように鳴いた。

……かわいい鳴き声だね。うれしそうだね。

濁った目とまた目が合ってしまい、ゾクッと悪寒が走る。

すると、ザリガニはゴォッと青い炎に包まれた。

「気安く、シーナさんを呼んじゃダメだよ」

もちろん、炎を出したのはレリィ君。

炎を纏わせた右手をザリガニに掲げ、にっこりと微笑んでいた。

かわいい。非常にかわいいが、この流れは……。

「エビごときが」

あ、あ、……美少年がゴミを見る目に……。

その瞬間、ザリガニに向かって、青い炎が襲い掛かる。

ジュッと音がしたあとに残ったのは、こんがりをいき過ぎて、白い灰。

かろうじてザリガニの形を保っていたがそれは、風に舞い、サラサラと流れていった。

えびせんみたいなおいしい匂いが鼻腔をくすぐる。

さすがレリィ君。

つよい。

「あんしんあんぜん」

巨大ザリガニ軍団を前にして、この心の凪。

港の人が逃げていくのが当たり前な中、これぐらいなら二人がなんとかしてくれると、心からそう思える。

「魔魚の気配は二十だ」

「じゃあ、僕とヴォルさんでなんとかなりそうだね」

「ああ」

天井を食べるザリガニは消えたが、まだまだいるようだ。

屋根付きの広場は上が見えないけれど、波止場のほうに赤黒い体にウゴウゴと蠢くたくさんの足が見える。

いるね……。顔は見えないけど。

「これ以上、街へ行かせないためにここで仕留める」

「はい!」

ハストさんの低い声音に、レリィ君が真剣に答える。

私はそんな二人を頼もしく思いながら――

「あ、あの……」

……ちょっとだけでいいので。

「おねがいが……あって……」

二人の負担は少ないと思うので……。

「はい、シーナ様」

「うん! シーナさん!」

おずおずと声をかけると二人はわかっていると頷いた。

「包丁ですね」

「包丁だよね」

はい。そうです。

「すぐに台所に行って戻ってきます。それで……あの一匹か二匹でいいので、食材にさせてもらえれば、と……」

「問題ありません。ここを起点として戦いますので、シーナ様のタイミングで行動してください」

「僕とヴォルさんに任せて!」

「本当にありがとうございます」

緊迫した状況で、こんなことを言って申し訳ない。

けれど……この、巨大ザリガニを見たときから、私は一つの可能性が過ぎっていたのだ。

――これ、すごい高級食材になるのでは?

と……。

「レリィは地上で海から上がってこようとする魔魚を狙え。私は屋根に上った魔魚と街に向かった魔魚へ行く」

「はい!」

「では、シーナ様、何匹か残しておきますので」

「行ってくるね!」

「二人とも気をつけて! ――『台所召喚』!」

二人に声援を送り、私は台所へ。

そして、包丁(聖剣)を握り、市場へと戻る。

たった一瞬だったはずだけど、あたりにはえびせんの匂いが漂い、波止場を蠢いていたはずの足はピクリとも動かなくなっていた。

さすが二人。

つよい。

「シーナさん! こっち!」

レリィ君の声が聞こえ、そちらへと視線を向ける。

すると、ちょうど一匹の巨大ザリガニが波止場の岸壁を登り、陸地へ上がろうとしているところだった。

「レリィ君! 今行く!」

「うん!」

返事をし、市場から波止場に向かって走る。

市場から出れば、そこは巨大ザリガニがゴロゴロと転がっていたが、すべて動いていなかったので、その隙間を縫いながらレリィ君の隣へと向かった。

「おまたせ!」

「シーナさん! 今!」

「うん!」

私が波止場にたどり着くと同時に巨大ザリガニが陸地へと上がった。

さすがの大きさに、私は二、三歩後ずさってしまう。

不気味だし、濁った目はやはり怖い。

でも、私にはこの包丁(聖剣)があるので……!

「おいしくなぁれ!」

巨大ザリガニに向ければ、体がきらきらと光り――

「……やっぱり!」

はい、ほらね! きました!! 予想通り! ほら!!

「――伊勢エビ!!」

朱色と茶褐色の体に黒い突起。ザリガニだったときにはあったハサミはなくなり、細く伸びた足が関節で曲がっていた。

扇状に開いた尻尾、地面についた体はくの字に曲がり、ピチッと弾む。

弾んだ瞬間に立派なヒゲがシュンッと揺れた。

「大きい……こんな大きなサイズの伊勢エビ……高級……!」

わぁああ! 一人、心で喝采を上げる。

見てこのサイズ! こんなに大きな伊勢エビがここに!!

「やった! やった!!」

思った通りの展開に思わずその場でぴょんぴょんと跳ねる。

その動きに合わせて、手に持った包丁がきらっと光った。

「シーナさん!」

「あ! もう一匹…!」

レリィ君の言葉に前を向けば、そこにはまたザリガニ。

どうやら、違う場所から陸地に上がり、こちらへと近づいていたようだ。

こちらに歩いてくるザリガニに包丁(聖剣)を向ける。

「おいしくなぁれ!」

そしてまた、できあがる伊勢エビ。

波止場の上をピチッと弾んだ。

「シーナさん、これで最後!」

もう一匹こちらに歩いてくるザリガニ。

同じ要領で伊勢エビへと変化させれば、手に入ったのは――

「三匹の伊勢エビ!」

右手に包丁(聖剣)。

そして、地面には三匹の伊勢エビ。

「ありがたい……」

三匹とも立派なサイズ。1kg以上はあり、もしかしたら2kgあるかもしれない。

感謝……海の恵み……。

地面にいる伊勢エビに一礼。

おいしく、いただきます。

そうして、巨大ザリガニ軍団はハストさんとレリィ君によって、あっという間に殲滅された。

街の被害としても、広場の屋根がすこし食われただけで済み、人的被害もなし。

魔魚が出たこと、しかもそれが水陸両用だったことは良くないが、とりあえず、大事にならずに良かった。

「シーナさん、いい食材は手に入った?」

「うん。また帰ったら、みんなで食べよう」

「それは楽しみですね」

「雫ちゃんたちもうまくいってるかな……。こんな騒動があったから、難しいかな?」

「どうでしょうか。逆に目眩ましになって良かったかもしれません」

「なるほど、そうですね」

ハストさんの言葉にホッと一息吐く。

伊勢エビが三匹と、色々な情報。

一応、被害も食い止められたし、こちらの観光組として、一日の成果は十分だろう。

……だから、私は気づいていなかった。

――逃げ遅れた人がいて、市場の柱の影からこちらを見ていたことを。

――その人が私の姿をはっきりと見てしまっていたことを。

***

「どうなるかと思ったが、これだけで済んでよかった」

「本当だな、もうダメかと思ったが……」

「あのお二人には本当に感謝だな」

「銀髪の男、強かったな……」

「いや、あの少年の炎もすごかった……」

突然の魔魚の襲来に混乱していた港だが、思ったよりも早く落ち着きを取り戻していた。

市場で実際に魔魚を見た者は、さすがに動揺しているが、それも街全体で考えればそれほど多くはない。

魔魚が波止場から上がってきたときは、もうダメかと思ったが、それを観光客である二人があっという間に倒してくれたからだ。

「お二人には街をあげて感謝せねば」

「そうよね、本当にありがたかったもの」

「祭りを開いたばかりだけど、やっぱり宴会がいいかしら」

「そうだな。豪華な食事となんか見世物だな」

「ああ」

港の者たちは、被害のあった箇所を片付けたあと、集まり話をしていた。

その中で、今回、魔魚と戦った者に感謝の意を伝えることとなった。

あの二人は港の英雄である。

どのようにもてなすか、港街の中心である人物が話を進める中で、一人の女性がおずおずと口を開いた。

「ねえ、みんな、聞いて欲しいことがあるの」

「なに?」

「あの人たちの中に、一人だけいる普通の女がいるでしょう? あの人もいたのよ」

「魔魚を見ても逃げ出さないなんて、すごい召使いね」

「あ? 召使い? そうなのか? それにしちゃ、あの銀髪の男たちが大事にしてるように見えるが……」

「召使いかどうか、今はどうでもいいの」

女性は口を挟んだ男をピシャリと黙らせる。

そして、おずおずと口を開いた。

「包丁を持って、踊っていたわ……」

「は?」

「え?」

「どういうこと?」

包丁を持って踊るとは?

「よくわからないけど、包丁を持って走って、エビを前にして喜んで踊っていたの……」

え?

「なにをしてたのかわからないの。ただ……包丁を持って踊っていたわ」

……。

「……そうか」

「……そうなのね」

「……そうなんだな」