作品タイトル不明
137.駄目だな。
―創造神視点―
「………………はぁ」
執務室にある机に突っ伏す。
駄目だ、見つからない。
建物全体に張り巡らせていた、神力を元に戻す。
「本当に此処にあるのかな?」
呪界王を疑うわけではないが、探しても見つからないと少しだけ疑ってしまいそうになる。
「呪界王は、ここに絶対にあるとは言っていませんよ。忘れてしまったんですか?」
呆れたように俺を見下ろすガルアル神に、ちょっとイラっとする。
「分かってるよ」
この頃のガルアル神は、俺に対する遠慮が無くなった。
「なんでも言ってくれ」と言ったのは俺だけど、「遠慮をする必要は無い」とも言ったけど!
少しくらいは……いや、俺の近くにはズバッと言ってくれる存在が必要だ。
そう。
ガルアル神ぐらい、口の悪い者が傍にいた方がきっといいはずだ。
「俺は別に、口が悪いわけではないですからね」
ちっ、バレたか。
「それにしても、見つからないな」
「そうですね。もしかしたら、この建物の中には無く。建物の外にあるのかもしれませんよ」
「その可能性もあるかもな」
呪界王から、俺が住んでいる建物辺りにアルギリスが作った異空間に繋がる場所があるかもしれないと連絡が来た。
最初は驚いたが、呪い達のいた場所が神国と繋がっていた異空間だと思い出し、その可能性もあるのだと気付いた。
「お疲れですね」
ガルアル神の言葉に肩を竦める。
神国の事を知るためには、歴代の創造神がしてきた事を知る必要があると感じた。
そのため通常の仕事が終わった後に、記録装置で過去の事を学んでいる。
「大丈夫だよ」
毎日、仕事が終わった後に数時間。
少し疲れが溜まってしまったようだ。
ヒールで誤魔化しているが、少しずつ効きが悪くなっている。
そろそろ、ちゃんと休んだ方がいいかもしれないが、まだまだ覚える事は多くあり時間が足りない。
「時間は沢山あります。もう少しゆっくりでもいいのでは?」
時間か。
確かに俺の寿命は長い。
でも、
「この地位に就いた以上は、早くこの神国について知らなければならないと思うんだ」
呪界王やオウ魔界王を見ていると、自分がいかに劣っているか分かる。
2柱は既に周りから認められているのに、俺は多くの神から距離を置かれている。
もちろん認めてくれている神も神族も多くいるが。
これまでの創造神の事があるから仕方ないと、フィオ神に言われた。
でも、いつまでもそれのせいにしていては駄目だ。
創造神になって日の浅い俺には、圧倒的に知識が足りない。
だから、少しでも早く多くの事を知らなければならない。
「皆、分かっていますよ」
「えっ?」
「創造神が、これまでの創造神達と異なるという事を」
異なるか。
記録装置で知った創造神達は、あまりに無責任だった。
創造神の地位に就いた頃は、少しは神国の事を知ろうとしたようだ。
でも、彼等はすぐに飽きた。
それからは、自分の面倒を見る神族にほとんどの事を丸投げした。
最初の頃にいた神族達が俺を見下していたのは、今までの事があったからなのかもしれない。
「創造神、休憩を取って下さい」
ガルアル神が机に手をついて、ずいっと顔を近付けて来る。
慌てて背を反らして距離を取るが、その分また近付いて来る。
「近い!」
「そうですか? そんな事より休憩です」
ガルアル神の態度に首を傾げる。
言葉遣いは本来の姿になったが、こんな態度になった事は無かった。
「今日はどうしたんだ?」
「はぁ、周りの者が心配しているんです。特に身の回りの世話をする神族達が。ここに来るまでに言われました。『今日こそ休むように言ってください』と」
えっ、そうだったのか?
そういえば、数日前から「休憩を」と何度も言われていたような。
「悪い。で――」
「悪いと思っているなら、とりあえず今日はもう終わりです」
反論は許してくれないようだ。
ピッ。
不意に響いた音に、視線をテーブルの隅に向ける。
そこには、呪界王やオウ魔界王と連絡を取るためのパネルが置いてある。
「悪い。これは呪界王だ」
俺の言葉に溜め息を吐くガルアル神。
「はい。どうしたんだ?」
「悪い、急に。結果を知りたく、て……随分と疲れているようだけど体調でも悪いのか?」
呪界王の言葉に、驚いてしまう。
見ただけで分かるほど、顔色でも悪いのだろうか?
執務室に鏡は無い。
だから顔色を調べる事は出来ないので、ガルアル神に聞いてみる。
「俺の顔色は、そんなに悪いのか?」
だが彼は、首を横に振った。
つまり見ただけでは分からないという事だよな?
呪界王は、どうして俺の体調を心配したんだろう?
「気付いていないのか? 神力が、不安定に揺れている」
力が不安定に?
「その状態は、かなり危険だ。色々とお願いした俺が言うのもあれだけど、ゆっくりと体と力を休ませる時間が必要だ。創造神の力が不安定になると、神国全体に影響が出てしまう」
その通りだ。
神国は、俺の安定した力がスムーズに流れる事が重要なんだ。
不安定な力だと、神国に悪影響を与えてしまう。
「すまない」
まさか、自分の力の状態に気付かないなんて。
「創造神、どうしたんだ? 何か不安な事でもあるのか?」
呪界王の言葉に、視線が泳ぐ。
まさか「2柱との差に焦ったせいで」なんて、言えない。
「あの、アルギリス神が作った異空間に繋がる場所は見つけられなかったんだ」
「そうか。俺もここ数日呪界から見ているけど、見つけられなかった。悪いな、面倒事を押し付けてしまって」
呪界王の言葉に、首を横に振る。
呪界王こそ、大変なはずだ。
世界を越えて、探してくれているんだから。
「呪界王こそ、大丈夫なのか?」
「俺は、大丈夫だ。気分転換もしているし、ゆっくり休憩を取るようにしているから。特に、考える事が多い時は、ゆっくり休んだ方がいい」
「そうなのか?」
「あぁ。疲れていると、間違った事でもそれが正しいと考えてしまったりするから」
あっ、ガルアル神が頷いている。
「そういうものか」
「そういうものだ」
そうだよな。
疲れている時に、いい考えなんて思い浮かばない。
……もしかして、疲れから少しおかしくなっていたのかもしれないな。
「今日はゆっくり休んでくれ。悪いな、色々とお願いしてしまって」
「いや、それはいいんだ」
呪界王のお願いは、神国としても早急に解決しなければならないものばかりだ。
「ん~、3日後にまた連絡をするよ」
呪界王の言葉に首を傾げる。
「3日後?」
「そう。また3日後に」
「あっ、はい」
あっという間に切れてしまったパネルに唖然とする。
「では、3日間はゆっくりと出来ますね」
「えっ?」
ガルアル神に視線を向けると、テーブルの上にあった書類を片付け始めた。
「待て。それはまだ確認していない書類だ」
「期日まで、余裕があるから大丈夫です。それより今は休憩です」
ガルアル神をジッと見るが、無表情で見つめ返される。
……怖いって。
「分かった。今日は休む」
「今日と明日と、明後日です」
「……分かった。休む」
はぁ、負けた。
3日間入る事が許されなかった執務室に入ると、笑顔のガルアル神がいた。
「ゆっくり休めたようですね」
ガルアル神の言葉に頷く。
「あぁ、本当にゆっくり出来たよ」
ガルアル神と神族達が協力したせいで、本当に3日間ゆっくり休憩する事になった。
まさか、仕事を一切回さないなんて……。
「今日の書類は?」
「カシュリア神とフィオ神が、仕分けしています」
んっ?
「書類を確かめましたが、創造神の確認が無くても問題ない物が多数ありました。ですので、仕分けする事にしたんです」
確かに、俺の確認が必要なのかと疑問に思った書類は沢山あったな。
「彼等も仕事があるだろう?」
彼等の仕事が増えるのは駄目だと思うが。
「彼等の仕事も、上級神達がフォローすればいいんです。ですので、問題ありません」
……そうなのか?
いや、上級神が減っていて大変なはずなんだけど。
「書類仕事も出来ないバカ……上級神がフォローに回っています」
今、上級神をゴミって……何かあったんだな。
「俺が知る必要は?」
「無いですね。愚かな者達が少し暴走したので、やるべき事をやらせる事にしただけです」
「そうか」
俺を、この地位から引きずり下ろしたい神達が動いたみたいだな。
「ありがとう」
「どういたしまして」
さて、書類仕事が無いなら……アルギリスの作った異空間に繋がる場所を探すか。
神力は安定しているし、今日なら探せるような気がする!
「よしっ、やるか」
建物全体に神力を行き渡らせ、ゆっくりと歪みや揺れ、違和感がある場所を探す。
小さな小さな揺れ、歪み……あっ!
「……これか?」
微かに感じる歪み。
まさか、こんなに簡単に探せてしまうなんて。