作品タイトル不明
89.意外なお客
神族のお茶会から帰ってきたら、アイオン神の補佐アルスリがいた。
「アイオン神は、今日は来ていないぞ?」
お茶会の間に来たのかと調べたけど、呪界にはいなかった。
アイオン神がいないのに補佐が来た事は、今までない。
「はい、知っています。少しお願いがありまして」
補佐が俺に?
何だろう?
ウッドデッキに招いて、魔族のウイニーにお茶を用意してもらう。
ウイニーは美味しいお茶を淹れられるようになったと話していたので、楽しみだ。
「うぉっ!」
アルスリがウイニーを見て声を上げた。
あれ?
魔族が修行に来ている事は話して……無かったな。
彼女がここに来るのは久しぶりだ。
他の補佐マッシュとナツリは、アイオン神を回収するのによく来るけれど。
「彼らは魔界から修行のために呪界に来ているんだ」
「あっ! すみません、その話なら聞いていました。ところで修行なのに……なぜこの格好なんですか?」
エプロンを着けたウイニーを見て、首を傾げるアルスリ。
あれ?
もしかして修行を間違って捉えているのでは?
「料理の修行だからだよ」
「はっ?」
あっ、アイオン神と同じ反応だ。
彼女も最初は、強くなるために呪界に修行をしに来ていると思っていたからな。
お茶を飲む。
ウイニーが真剣に俺を見ているのが分かる。
「美味しいよ。ありがとう」
俺の言葉にニコッと笑うウイニー。
そして、嬉しそうにキッチンに戻って行くので笑ってしまう。
「すみません、こちらをどうぞ」
リーダーが慌てた様子でお菓子を持って来る。
それを不思議に思いながらお礼を言う。
「あっ! 忘れてた!」
ウイニーの声に視線を向けると、焦った表情でこちらを見ていた。
もしかして、お茶と一緒にお菓子も持って来る予定だったのかな?
「1つの事だけに集中し過ぎては駄目ですよ?」
リーダーの言葉に落ち込むウイニー。
それでも最初を知っているから、お茶を美味しく淹れられるようになっただけでも凄いけどね。
「あの、料理の修行とは何ですか?」
「魔族は洞窟に住んで、水で煮ただけの物を食べて、眠る時はすぐに逃げられるように熟睡はしない」
俺の言葉に、驚いた表情のアルスリ。
「俺も初めて聞いた時は驚いたよ。で、魔界が安定したから、これで彼等の生活はもう大丈夫だと思ったんだけど、色々問題が分かったんだ、食べる物がないとか、住む場所がないとか。それにまだ、魔神に対して不安があるみたいで。だから、魔神との関係改善にサブリーダーを間に置いて、衣食住の改善に協力する事になったんだ。まぁ俺が知った時は既に計画が進んでいたけどね。ここにいる魔族達は、食事改善のために料理の修行中なんだ」
簡単に説明したけど大丈夫だよな?
「まさか、ここまで魔界と関わっているとは知りませんでした」
「そうだな」
俺もここまで関わるとは思わなかったよ。
魔界が安定したら、すぐに引き上げる予定だったから。
でも、魔族達の食生活を知ってしまったら無理。
もちろん、魔族達が拒否したら全員を引き上げるつもりだったけど、大歓迎だったそうだ。
「そういえば、今日はどうして俺のところに?」
アルスリの用事は何だろう?
個人的なお願いなのかな?
「あのですね、その……」
かなり言いづらい事みたいだな。
というか、アイオン神はアルスリがここに来ている事を知っているのかな?
「6名の神族を保護して頂けないでしょうか?」
パッと、頭を下げるアルスリ。
神族の保護?
「もしかしてアイオン神には秘密なのか?」
普通は、アイオン神から聞く話だよな。
「秘密ではないのですが、まだ話していません。保護して欲しい神族ですが、その仕えている神にちょっと問題がありまして。あ~、なんというか……外面はいいですが、下の者には屑で。いや、えっと問題行動が多く」
つまり問題の神は、神族に対して何かしたんだな。
アルスリを見る。
困った表情をしているが、こちらを見る視線は真剣だ。
「アイオン神に話していないのは、どうしてだ? 話さないのか?」
アルスリは、アイオン神を信頼していたと思う。
だから話していない事が不思議なんだよな。
まさか、問題の神とアイオン神の間に何かあるのか?
「処罰された神が管理していた星が、急に暴走を始めてその後始末に追われています。そのせいで話をする時間も無くて。でも、すぐに保護が必要なんです」
話していないのではなく、まだ話せていないのか。
「落ち着いたら話すつもりか?」
「もちろんです。この問題は私では手に負えないので」
つまり星の問題が落ち着くまで保護して欲しいと。
「分かった。保護するよ。確認したいんだが、保護する神族達は呪界に来ることは了承しているのか?」
呪界だと嫌がる者もいるかもしれない。
「はい。呪界だと話すとホッとしていました」
ホッと?
もしかして、お茶会に来た事がある神族かな?
普通の神族は、呪界と聞けば嫌がるよな?
「それならいいぞ。いつ頃来るんだ?」
「お願いできれば、すぐに。待機してもらっているので」
「えっ!」
のんびりお茶を楽しんでしまった。
というか、部屋の準備もまだなんだけど。
「リーダー。部屋は空いているかな? 6名分」
「大丈夫です。魔族を受け入れる時に作った寮があります。そこにはまだ空きがあるので」
そう言えば、魔族達用に寮が出来たな。
最大50名が住めるらしい。
「魔族達と一緒だけど大丈夫か? 魔族達にも大丈夫か聞かないとな」
どちらかが無理なら、獣人達の所でもいいし。
もちろん許可が取れればだけど。
「最初は戸惑うかもしれませんが、きっと大丈夫だと思います。あの、連れて来てもいいですか?」
アルスリに頷くと、彼女はすぐに神国に戻った。
「魔族に確認を取りましたが、問題ないそうです」
リーダーを見る。
相変わらず対応が早いな。
「ありがとう」
庭の方で少し声が上がった。
見ると、アルスリが神族を連れて戻って来たようだ。
「えっ、子供?」
彼女が連れて来たのは、6人の子供。
「大人だと、思っていた」
「私も同じです。幼い子はいないようですが、魔族と一緒で大丈夫でしょうか?」
リーダーの言葉に、悩む。
アルスリは戸惑うが大丈夫だと言っていた。
でも、やはり怖いのではないかな?
「あの子達にしっかり確認を取ろうか」
少しでも怯えた様子を見せたら、魔族の寮を使うのは止めよう。
「分かりました」
アルスリが神族の子供を連れて、ウッドデッキに来る。
「この者達です」
「子供だったんだな」
「えっ? あっ、言い忘れていました。すみません」
アルスリの謝る姿に、神族の子供達が少し怯えた様子を見せた。
「初めまして」
怖がらせないように声を掛けると、一番年上に見える青年が他の子供の前に出た。
「呪界王様、保護の許可を頂きありがとうございます。少しの間ですが、どうぞ宜しくお願いいたします」
俺よりしっかりしてそう。
「こちらこそ、宜しく。1つ確認したい事があるんだけど。いいか?」
「はい」
青年が緊張した様子で俺を見る。
聞き方が怖かったかな?
「君たちが泊る場所なんだけど、本当に魔族と一緒の建物でも大丈夫か?」
青年の表情が少し引きつった。
でも、縦に1度首を振った。
「はい。問題ありません」
これは、間違いなく無理をしているな。
どうしようか。
「あの、本当に問題ありません。魔神や魔族の事を色々と聞いてきましたが、ほとんどが嘘だったようなので」
いったい神国では、魔神や魔族をどう教えているんだ?
まぁ、聞かなくても予想は出来るけど。
「分かった。それなら、あとで魔族達を紹介するよ」
「はい、ありがとうございます」
6人の神族の子供達を眺める。
特に怪我をしている様子は無いな。
ただ、彼等の光の魔力が不安定だ。
きっと不安な気持ちが、力に影響をしているんだろう。
ここでゆっくりすれば落ち着くはずだ。