作品タイトル不明
66.敵対する魔神たち。
―ギュア魔神視点―
魔界に、強大な力の波動が流れた。
急いで窓を開け、その力の流れた方に視線を向ける。
目にしたのは、巨大な壁。
「あれは、なんだ?」
配下の魔神を見るが、首を横に振られた。
まぁ、分かるわけがないか。
それにしても、また風が変わった?
数日前にも風が変わった。
原因は調査中だが、風の中に知っているのに知らない力を感じたんだよな。
「あの壁を調べて来い」
「「「はっ」」」
傍に控えていた魔神達が、すぐに壁に向かって行くのが見えた。
すぐに、あの存在がどんな物なのか分かるだろう。
元いた部屋に戻ると、魔族を狩るように指示していた魔神がいた。
そして、俺の姿を見るとすぐに跪いた。
「申し訳ありません」
「なんだ?」
その様子から狩りが失敗したことが分かった。
「魔族達が、どこにもいません。今まで隠れていた地下からも、いなくなりました」
ガシャーン。
机の上にあったガラスコップが壁にぶつかって粉々になる。
目の前で跪く魔神の体がビクリと震えたのが分かった。
傍にあった剣に手を伸ばす。
「お待ちください」
冷静な声で俺を止めるのは、俺の側近としてずっと傍にいるマギファ魔神。
睨み付けると、静かに見つめ返された。
それに舌打ちして剣から手を離した。
「あなたは数日前に、魔族達の気配が消えたと報告しましたよね?」
マギファ魔神の質問に、跪いている魔神が震える声で「はい」という。
その怯えた姿にもイライラが増す。
「正確には何日前ですか?」
「3日前です。それまで風の中に魔族の気配が混ざっていたのですが、その気配が消えました」
3日前?
……あぁ、ゴルア魔神がオウ魔神に会いに行った日か。
監視していた魔神の話では、見た事もない不気味な生き物を見たとか。
馬鹿馬鹿しい。
奴らを見失ったため、そんな事を言って誤魔化そうとしたんだろうが無駄だ。
そういえば、あの時の魔神はいい実験体になったと言っていたな。
「あの日ですか」
マギファ魔神も何か思う事があるのか、不快そうな表情をした。
「もう一度魔族を捜してください。今度は狩るためではなく、1人でも見つけたらすぐに報告に戻って下さい」
「分かりました」
慌てて出て行く魔神に大きくため息を吐く。
魔神でありながらビクビクと震えるなど、弱すぎるだろう。
「マギファ魔神。何が起きている? あの壁はなんなんだ」
「現状では何もわかっていません。ですが、ゴルア魔神が何かした事は確かでしょう。あの壁は、結界です」
「はっ?」
結界?
「本当に、あれは結界なのか?」
「はい」
マギファ魔神の言葉に、窓から巨大な壁を見る。
結界だとは思わなかったな。
「くくくっ。とうとうゴルア魔神が無駄な事をしだしたな。結界? 結界の維持を奴らが出来るとでも思っているのか? はははっ、結界の維持で力を使い果たしたら、そこを攻めて魔族も魔神も蹴散らしたらいい。なんだ、結界か。愚かだな」
俺の言葉に、マギファ魔神はただ静かに窓から見える結界を見た。
「大きな結界ですよね。巨大な壁に見えるほど、大きな……」
マギファ魔神の雰囲気に、首を傾げる。
何かが気になるのかもしれないが、あの結界を作ったゴルア魔神は終わりだ。
結界の維持に、成功した魔神はいない。
それだけ結界を作り、維持するためには膨大な力が必要になるのだ。
そして、どう頑張ったとしてもゴルア魔神やその周辺にいる魔神では維持が不可能。
だから、待てばいいだけだ。
そう思うのに、マギファ魔神の考えは俺とは違うのか?
「どうしたんだ?」
「……すみません。説明できないのですが、何かとても大きな、大きな見落としがあるような気がするのです。ただの勘ですが」
マギファ魔神の勘は、馬鹿に出来ない。
これまでに何度も、マギファ魔神の勘には助けられてきたのだから。
それにしても、本当に何が起こっている?
嫌な感じだ。
―ドルハ魔神視点―
「くそっ、くそっ!」
ドン、ドン、バキッ。
何度も拳を叩きつけていたテーブルにヒビが入る。
それでも、この苛立ちが収まらない。
「くそが!」
何もかもが上手くいかない。
地下からボルチャスリがいなくなり、実験に使う魔族達も姿を消した。
なぜかボルナック魔神に奴の恋人を捕まえていた事がバレてしまい、奴は俺の元から去った。
俺は知らなかった事にして誤魔化そうとしたが、全く話を聞こうともしない。
優先的に奴の恋人を実験に回していれば、バレずにすんだのに、失敗した。
ボルナック魔神を失ったのは、痛い。
「失礼します」
「結界の中の様子は分かったか?」
昨日、急に現れた巨大な結界。
ゴルア魔神の最後のあがきだろうが、無駄な事をしたものだ。
もっと奴は賢いと思ったが、どうやら思い違いだったな。
あとどれぐらいあの結界が維持できるのか、見ものだ。
「結界内に、かなり多くの魔族の姿を捉えました」
「ふっ、あははははっ」
魔族共は助かったと思っているんだろうな。
結界が自分達を守ってくれると。
「愚かだ。結界を維持させられる者など、どこにもいないというのに」
だが、丁度いい。
魔族が集まっているなら、こちらは結界の維持が崩れた時に魔神達を一気に送り込めばいい。
いや、待て。
魔族を必要としているのは、ギュア魔神もだ。
奴は、魔族の中に特殊な力を持つ者を探していたようだが、この頃は見境なく魔族を狩っていた。
結界の維持が崩れるのを待っていたら、奴が送り込んだ魔神と競う事になる。
魔族を奴に渡すつもりは無い。
「魔神を6柱、ここに連れて来い」
「はっ」
すぐに集められた魔神達。
最近の俺の様子を知っているのだろう。
どこか怯えた様子が窺える。
その様子に少しイラつくも、息を吐き出し落ち着かせる。
「ゴルア魔神が張ったと思われる結界を壊し、中にいる魔族達を連れて来い」
俺の言葉に、魔神達は戸惑った様子を見せる。
それに首を傾げる。
「なんだ? 何か言いたい事でもあるのか?」
「いえ、その」
魔神の1人が戸惑った様子で俺を見る。
視線が合うと、顔色が悪くなる魔神にイライラが増していく。
「あの結界ですが、近くで見るとかなり丈夫そうなのです。なので、壊す事が出来るか心配です」
「はっ?」
今、こいつは何と言った?
あの結界が丈夫そう?
あれほど巨大な結界を張るには、おそらく多くの魔神達が協力しているだろう。
多くの魔神達が力を合わせているので丈夫そうに見えるが、それは見せかけ。
魔神力も闇の魔力も、他者の力と相容れる事は絶対に無い。
だから、あの壁のようにデカい結界は、それほど丈夫ではない。
「それは見せかけだ。攻撃をすればすぐに崩壊する」
「……」
「ちっ」
「分かりました。すぐに向かいます」
俺の苛立ちを感じたのか、魔神達が慌てて部屋から出て行く。
「ピーリー」
俺の護衛として部屋に控えている魔神に、声を掛ける。
「はっ」
「奴らを見張れ。逃げたら捕まえて檻に放り込んでおけ」
魔神達の様子から、もしもという事がある。
「はっ」
ピーリーに見張らせていれば、逃げる事は出来ないだろう。
それにしても、あの結界が丈夫そう?
「近くで見たと言っていたな。それなのに、丈夫そう?」
結界を近くで見たなら、結界に流れる力が不安定な事は分かるはずだ。
結界は、1柱で張らないかぎりは丈夫に張る事は不可能。
そしてあれほどの巨大な結界を、1柱で張る事など絶対に無理だ。
「問題ないと思うんだが……」
どうしてだ?
なぜか、得体の知れないものに触れるような気持ち悪さを感じる。
いや、これはきっと気のせいだ。
ふわっと、部屋の中に風が入り込む。
そういえば、風に違和感を覚えたのは、いつだった?
知っているのに、知らない力を含んだような。
確か……ゴルア魔神が動き出した4日前だ。
あの日、ゴルア魔神がオウ魔神に会いに行った。
あの時は、オウ魔神に会いに行った意味が分からなかったが、今なら分かる。
この巨大な結界を作るために、何か助力を貰ったんだろう。
あっ、そうか。
オウ魔神を捕まえて、俺が行っている研究をさせればいいのか。
今奴は……あれ?
オウ魔神を見張らせていた魔神と、連絡が途絶えていないか?